第4話 機巧技師、ダンジョンに潜る

 新たなトライメイツを組んだ翌日。

 僕らは、早朝に待ち合わせをすると、島の中にある、とある洞窟の前へとやってきていた。

 このネリヤカナヤには、合わせて13のダンジョンと呼ばれる不思議な洞窟が存在する。

 ダンジョンの中には、淀んだ|魔素〈マナ〉から生まれた魔物達が跋扈しているため、非常に危険ではあるのだが、同時に、それは島の人たちにとっての貴重な資源でもある。

 なにせ、魔物の死骸は、食材にもなれば、魔道具や工業製品を作るための材料にもなる。

 そのため、島にいる冒険者達は、こぞって、これらのダンジョンを攻略し、様々な戦利品を得ては、港の市場を賑わせている。

 そんなわけで、機巧人形"ガランドール"を作る素材集めに、僕らもこのダンジョンへとやってきたというわけだ。

 ダンジョン前にたどり着くと、そこには、サクラ君がすでに立っていた。


「おはよう、サクラ君」

「ああ、おはよう」


 挨拶をすると、けだるそうながらも、サクラ君はきちんと挨拶を返してくれた。


「エルヴィーラさんも、そろそろ来るかな?」

「あの娘なら、もういるぞ」

「えっ?」


 サクラ君が、指し示した方向に視線を向けると、大きな木の陰に隠れるようにして、エルヴィーラさんが、こちらをちらちらと見ていた。


「何で、あんなところに……?」

「さあな。とりあえず、揃ったなら、行くとしよう」

「えっ、ちょっと……!!」


 そそくさとダンジョンの方に向かって、歩き出すサクラくん。

 僕は、慌てて、エルヴィーラさんの方へと手を振った。


「エルヴィーラさん、おはよう!!」


 早くしないとサクラ君が行ってしまう。

 まるで小動物のように周囲を警戒しているエルヴィーラさんの元まで、駆け付けると、僕は、その手を取った。


「!?」

「ほら、エルヴィーラさん、早く行かなくちゃ」


 そうやって彼女の手を引いて走り出す。

 そのまま、ダンジョン入り口の受付で、探索登録を済ませてくれていたサクラ君に追いつくと、僕らは、その中へと足を踏み入れた。

 ダンジョン……いわゆる迷宮を表す語だが、その実、その中というのは、長年の多くの人々が攻略を進めるうちに、それなりに整備されている。

 ほとんどの場所には、照明用の魔道具が設置されているので、見通しも悪くない。

 早朝ということで、他の冒険者も、まだ、見当たらず、僕らはサクラ君を先頭に、ずんずんダンジョンの中を進んで行った。


「それが、お前の得物か?」

「えっ、あっ、うん」


 僕は背中にかけた、槌の柄に手をかける。

 機巧技師として使っているいわゆる工具なのだが、武器を買うお金のない僕は、戦闘でもこれを武器にしている。

 同じく機巧技師をしている姉から、入学祝いとして受け取ったもので、頑丈さは折り紙付きだ。


「使い慣れた物なんだ」

「そうか。ならいい」

「サクラ君は……武器持ってないみたいだけど」

「俺の武器はこれだ」


 そう言って、右拳を軽く握って見せる。

 どうやら、サクラ君は、徒手空拳で戦うタイプの冒険者らしい。


「機巧技師は、戦闘は苦手だろう。無理はするなよ」

「ありがとう、サクラ君!」


 ぶっきらぼうなところはあるが、やっぱりサクラ君は、結構優しい人らしい。

 そのまま、黙って三人で歩いていると、やがて、向こうから、巨大なねずみのような奴らがやってきた。

 ウェアラットという齧歯類を巨大化したような魔物で、低級魔物の代名詞ともいえる存在だ。

 その数、三匹。テクテクと二足歩行で迫ってくる様は、見ようによっては、愛らしい。

 とはいえ、魔物は魔物。こいつらからは美味い素材が取れるわけじゃないけど、襲い掛かってくる以上は相手をしなければならない。

 よし、と槌の柄に手を伸ばしたその時だった。

 サクラ君が、魔物に向かって駆け出した。


「はぁっ!!」


 一匹を拳で撃ち抜き、一匹を後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。

 最後の一匹を左手の手刀で、斬り裂くと、魔物達は、それきりピクリとも動かなくなった。

 その間、三秒にも満たない。

 僕とエルヴィーラさんは、目を見開いて、そのあまりの早業に驚いていた。


「サ、サクラ君、凄すぎる……」

「相手が雑魚だっただけだ」


 いや、それにしたって、こんなに手際よく、一瞬で、魔物を倒してしまうなんて、大したものだ。

 同じ冒険者であるマクランとは、まるで動きが違う。

 なんで、こんな人材を、前のトライメイツは手放したのか……。


「それより、こいつらは目的じゃないんだろう?」

「う、うん! 目標はもう少し下層にいるはず!!」

「だったら、そこまで、さっさと行くとしよう」


 再び、そそくさと歩き出すサクラ君。

 その頼りになる背中を僕とエルヴィーラさんは、てくてくと追いかけていったのだった。

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