第3話 機巧技師、計画を立てる

 さて、こうして、新たなメンバーと共に、再び、機巧決闘ガランデュエルに出ることになった僕。

 この工房をそのまま貸してもらえるということで、ゼフィリア先生の背中を見送った後、僕達は、改めて顔を見合わせた。

 さっきまで、話を進めてくれていた先生はもういない。

 ふむ、どう話を切り出せばよいのか……。

 僕も、それほど、人付き合いが得意という方ではないが、エルヴィーラさんも、サクラ君も、あちらから話しかけてくる様子はない。

 ここは、僕から、口を開かざるを得なさそうだ。


「えーと、その、せっかくトライメイツになったんだし、まずは、自己紹介とかしようか」

「ああ」

 こくり。


 なんというか、そっけないな。

 幸先に若干の不安を覚えつつも、僕は、できるだけ愛想よく笑顔を作った。


「僕は、ビス=J=コールマン。チェルノアーヴ出身で、機巧技師クラフトマスターをしてる」

「俺は、サクラ=オノミチ。ジュノンの極東にあるエイシュウ出身。野良の冒険者だ」


 速攻で応えてくれたサクラ君に対して、エルヴィーラさんは、黙ったままだ。

 視線も決して合うことがない。

 そういう性格なのか、あるいは、元々のトライメイツから追い出されたショックが、まだ、拭いされていないのかもしれない。

 そんな彼女を安心させるように、僕は、できる限り明るく話しかける。


「エルヴィーラさんは、モントカルテ出身だよね?」


 確認するようにそう言うと、彼女はこくりと頷いてくれた。

 無口だけれど、やっぱり、悪い娘ではない。


「みんなこれからよろしく」

「ああ」

 こくり。


 そうして、また、訪れる沈黙。

 ま、間が持たない……。


「と、とりあえず、これからの簡単な予定を立てようか……!!」


 僕は、3人でこれからの見通しを共有するため、工作机の上に、紙を広げた。

 機巧決闘ガランデュエルのエントリー期限まで、1カ月足らず。

 その期間内で、機巧人形ガランドールをロールアウトするために、まずは、おおまかなロードマップを作る。

 内骨格インナーフレームがある以上、これから僕らが製作しなければならないのは大きく3つ。

 1つ目は、動力。機巧人形は大気を漂う|魔素〈マナ〉をエネルギーとして駆動する。|魔素〈マナ〉を吸収し、エネルギーに変える転換炉リアクターが必要になる。

 2つ目は、操縦システム。機巧人形の操縦は一般的に冒険者が担当する。冒険者の動きをできる限り正確にトレースできる操縦システムを構築しなければならない。

 3つ目は、筋肉や外装。機巧人形の身体そのものとなる部分。時間を考えると、こちらも魔物素材をできるだけそのまま使うことが望ましい。

 他にも、細々としたものを挙げれば、枚挙に暇がないが、おおよそ、この3つさえ用意できれば、最低限、動く機巧人形ガランドールを完成させることができるはずだ。

 順番としては、まずは、比較的手に入れるのが容易な、筋肉素材や装甲材を集め、その合間に、操縦システムの構築。

 問題は、転換炉だが、こちらは、とりあえずジャンク品を漁ってみるしかないだろう。

 どれを取っても、ギリギリの作業だ。でも、やりがいはある。


「まずは、素材を集めたい。さっそく明日から、僕は、ダンジョンに潜るよ」


 僕ら学生には、資金がない。

 必要な素材の多くは、自分の手で集めなくてはいけない。

 それには、この島に複数存在するダンジョンに潜るのが一番だ。

 ダンジョンには、多くの魔物が跋扈している。

 それらの中には、機巧人形の製作に欠かせない素材となるものも多くいる。

 冒険者ほどの戦闘力はないが、今までも、僕は、1人でダンジョンに潜っては、そうやって素材集めをしてきた。

 今回も、寝ずに頑張れば、なんとかなるだろう。


「僕は、って。お前1人でやるつもりか?」

「え、そうだけど……」


 何かおかしなことを言っただろうか。


「いや、普通は、こういうのはトライメイツ全員でやるものだろう」

「そ、そうなの……?」

「ああ、機巧技師が1人でダンジョンに潜って、素材を取りに行くだなんて、聞いたこともない」

「えっ……?」


 あれ、もしかして、僕って、今まで、常識から外れたことしていた……のか。

 そう言えば、ダンジョン内で、時折他の探索者に出会うこともあったが、皆、複数名だったような……。

 いや、でも、マクランもルチックも、それが当たり前みたいな顔してたし……。


「ダンジョンに潜るなら、俺も一緒に行く。これでも、腕には自信がある」

「あ、ありがとう! サクラ君!!」


 なんて頼りになるのだろう。

 冒険者と言うと、試合の時に操縦者としてしか働いてくれないものと思っていたけど、こんなことまで手伝ってくれるなんて。

 彼がいれば、きっと素材集めの効率も段違いだ。


「なんで、ちょっとウルウルしてるんだ……?」

「あ、いや、ちょっと、嬉しくて……」


 僕が感動に打ち震えていると、エルヴィーラさんが、びくびくとしながらも手を挙げた。

 どうやら、自分も行くと、訴えてくれているらしい。


「えっ、エルヴィーラさんも来てくれるの……!?」


 僕が、喜びの声を上げると、エルヴィーラさんは、目をぱちくりとさせながら、こくこくと頷いた。


「凄い!! こんなに協力的なんて……!!」

「いや、素材集めを全員でするのは、当たり前だと思うんだが……」


 サクラ君が、なんだか、かわいそうなものを見る目で、僕を見ている気がするけど、きっと気のせいだろう。

 エルヴィーラさんが、目をぱちくりとさせているのも、きっとただ目が乾いただけだ。

 それにしても、これだけみんなが協力してくれるなら、本当に、今度こそ、自分が思い描く機巧人形ガランドールが作れるかもしれない。


「よしっ!! 頑張るぞぉ!!」


 やる気満々の僕を、トライメイツになった2人は、どこか首を傾げながら、眺めていた。

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