第18話 お兄ちゃん、白の魔法を学ぶ
「お久しぶりです。セレーネ様」
「ルカード様……お久しぶりです!」
目の前で、優しく微笑むメガネ姿の青年にこちらも笑顔を向ける。
教会の巡回神父であり、僕が前世の記憶を取り戻すきっかけを作った青年、ルカード様だ。
あれからひと月半ほど、その間、ルカード様は、事の次第を本国に戻って伝えたりと、僕のために色々と動いて下さっていたらしい。
「お忙しい中、足を運んで下さって、ありがとうございます」
「いえ、むしろ遅くなってしまって、申し訳ないくらいです」
「あの、今日は、その……」
「はい、白の魔法について、私の知る限りのことをご教授できればと思います」
よっしゃ、きたぁ!!
ついに僕も魔法を学べる時が来た。
今までは、書物で独学していたのだが、やはり聖女だけが使える白の魔法については、記述がほとんどなく、成果が上がっていなかったからな。
こうやって、白の国の神官様に教えてもらえる機会は非常にありがたい。
聖女エンドを目指すためにも、しっかりと学んでおかなければ。
モチベーションも高く、やってきたのは、公爵家の中にある丘の上だ。
我が家ながら、その大きさに本当にびっくりするね。なにせ、庭の中に丘なんて呼べる場所があるのだから。
「ここなら、存分に魔力を使っても大丈夫そうですね」
ルカード様が、にっこりと微笑む。
ああ、こういうのを癒し系って言うんだなぁ。
きっとブラック企業に務めてる系の女子って、こういう優し気なイケメンを求めているのだろうなぁ。
「さて、では、さっそく実践してみましょうか。まずは、身体の中に眠る魔力をそのまま解放してみましょう」
「はい!!」
ルカード様の教えで、私は身体の中の魔力に働きかけてみる。
一般的な紅の魔力や碧の魔力を持つ者の多くは、解放の儀とともに、ある程度自在に魔力を出したり引っ込めたりできるようになるらしい。
しかし、白の魔力を持つ私には、未だに、そんな感覚は訪れていない。
いつものように、身体に力を込めてみるものの、やはり体内の魔力という力を感じ取ることができない。
「うーん、やっぱりダメです……」
「焦ることはありません。白の魔力は、他の魔力と比較しても、扱いの難しい魔力と聞いていますので」
「そうなんですか?」
「はい。とはいえ、現聖女様から、伝え聞いた話なので、他の魔力保持者と比較したわけではないのですが」
現聖女様。
聖女候補である私がいるということは、もちろん、現在聖女をしている女性というのも存在する。
その人はもう高齢で、公の前にその姿を現すこともないらしい。
ただ、ひたすらに毎日、この大陸の邪を掃うべく、祈りを捧げてくれているのだそうだ。
「直接、聖女様に話を聞ければよいのですが……」
「正式な聖女として認められれば、直接会うこともできますが。今は、まだ」
「そうですよね」
聖女に直接会える人物というのは限られている。
私も、聖女になってしまえば、多くの制限を課せられてしまうのかと思うと、暗澹たる気持ちにもなってこようものだが、キャラエンドやバットエンドを回避するためにも、今はとにかく目指すほかない。
「コツ! コツとかないのでしょうか!?」
「そうですね。では、少し乱暴ですが……」
ルカード様は立ち上がると、ゆっくりと私の額に触れた。
「えっと……」
「失礼。魔力解放の儀の時と同様に、セレーネ様の身体に、私の魔力を流してみます」
「あ、なるほど」
魔力解放の儀とは、そもそも、魔力の弁とも言える部分を他の人の魔力で刺激することで外すというものだ。
もう一度、それを再現することで、なかなか出てこようとしない僕の魔力を再び解放してみようということなのだろう。
「お願いします!」
「はい、では、行きますよ」
言葉とともに、ルカード様が自身の魔力を解放する。
ルカード様の魔力の色は"翠"。これもまた神官だけが持ち得る魔力であり、聖女ほどではないが、邪を滅する力を持つらしい。
そんな神聖な魔力が流れ込んでくると同時に、僕はそれを力としてはっきりと認識した。
最初の魔力解放の儀では、記憶の蓋の方が先に開いた影響か、はっきりとは自分の白の魔力と言うやつを認識することができなかった。
でも、今は違う。
胸の奥の方に熱い何かを感じる。
グルグルと渦巻くようにして浮かんでいるそれは、僕の、僕自身の持つ魔力。
気づけば、僕の全身から眩いばかりの白い光が放たれていた。
「す、凄い……これが……!!」
「い、いけない!!」
全身からあふれ出る魔力。
だが、その勢いが強すぎた。
僕の意思に反して、魔力はどんどんと発散されていく。
あれ、もしかして、このままだと、魔力が枯渇したりなんか……。
「はぁああああっ!!」
焦る僕に向けて、今度は、ルカード様の翠の魔力が僕の全身を包み込んだ。
どぼどぼと鼻血のように湧き出て来る僕の魔力を止めようというのだ。
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