第19話 お兄ちゃん、神官様を癒す
ルカード様が必死で抑え込んでくれたおかげで、10秒もする頃には、ひたすら放たれ続けていた真っ白な光はようやく治まってくれた。
「あ、ありがとうございます。ルカード様!!」
「はぁ……はぁ……。いえ、こちらこそ、軽率でした……。それにしても、物凄い魔力量だ」
感心したように、言うルカード様の身体が、わずかに傾いだ。
そして、膝をつく。
「えっ、えっ、ルカード様」
「申し訳ありません、少し魔力を使いすぎたようで……」
その額には冷や汗が浮かんでいる。
どうやら、僕の人並外れた魔力を抑え込むために、自身の魔力を相当量消耗してしまったらしい。
その責任は取らなくてはならない。
「ルカード様、どうぞこちらへ」
「えっ……?」
肩を貸すように丘に生えている一本松?の下へと移動すると、僕はゆっくりと正座をした。
そして、ポンポンと自分の太ももを叩く。
「さぁ、ルカード様」
「あ、え……その……」
ルカード様は、戸惑ったような口調で言った。
「もしかして、そこに寝ろとおっしゃっていますか?」
「はい、私のせいで、ルカード様が体調を崩されたようですので。責任を取りたいのです」
「い、いや、でも……」
ルカード様は、確か17歳。
5歳も年下の小娘の膝を枕にするなど、やはり抵抗があるのだろう。
だけど、その辺に寝転がれというのも、さすがに憚られる。
「さあ、早く」
「で、では……」
私のあまりに断固とした様子を見てか、しぶしぶと言った様子で、ルカード様は私の膝に頭を乗せた。
柔らかな髪質が、なんだか少しこそばゆい。
「あ、ああ……」
「どうですか? 気持ち良いですか?」
「え、ええ、いい塩梅です……」
なんとも言えない表情で、僕を見上げるルカード様。
どうやら、気持ち悪くはないらしい。
しかし、こうやって見ると、まだまだ、ルカード様も少年といった雰囲気もある。
17歳だもんな。
ちょうど、前世で僕が死んだ年齢と同じだ。
こちらの世界でこそ、立派な成人かもしれないが、前世では17歳なんて、まだ、子どもみたいなもんだ。
わずかばかり幼さの残る顔立ちを眺めていると、改めてそんな風に思える。
自然と、僕はそんなルカード様の頭を撫でていた。
「セ、セレーネ様……?」
「あ、すみません。つい」
「その、もう大丈夫ですので……」
立ち上がろうとするルカード様の頭に、僕は再び手を乗せる。
「まだ、ダメです。この機会ですし、ゆっくり休んで下さい」
「いや、しかし……」
「ルカード様、魔力の件もありますけど、屋敷に来た時から、もうお疲れでしたよね?」
「えっ……?」
そう。
常に柔らかく微笑んでいるので、分かりづらいが、僕にはわかる。
彼は、随分疲弊していた。
身体もだが、心の方だ。
若いうちから、神父という重要な仕事を任されているのだ。
その気苦労は想像に難くない。
ましてや、聖女の件で、本国ではいろいろと奔走してくれていたようだし、精神的にも肉体的にも、随分疲れていたのだろう。
その上、その疲れを表に出すこともなく、僕の魔法の修練にも付き合ってくれた。
せめて、少しくらいは恩返しがしたい。
「迷惑でなければ、もう少し、ここでゆっくりとしていて下さい。ううん、私にさせて下さい」
「セレーネ様……」
それきり、彼はもう何も言わなかった。
ゆっくりと目を閉じる。
私はそんな彼の頭をゆっくりと撫で続けた。
前世で、幼い頃、妹によくしていたように。
やがて、ゆっくりと寝息が聞こえてきた。
どうやら、彼は眠ってしまったらしい。
「今日くらいはゆっくりと休んで下さい。ルカード様」
僕の前世の記憶を呼び起こしてくれた彼に、少しでも恩を返したい僕だった。
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