第16話 お兄ちゃん、ミニスカを着せる
ドンガラガッシャーン!!
今日も今日とて、アニエスのコケる音が響く。
「申し訳ありません。お嬢様……」
割れた食器を片付けながら、アニエスは今日も無表情で謝罪する。
いや、だが、アニエスが来て5日が経ち、僕にも少しずつアニエスの些細な表情の違いがわかってきた。
うん、間違いなく彼女、落ち込んでいる。
5日経っても、アニエスの侍女としての仕事は一向に上手くならない。
それどころか、むしろ以前より悪化している節すらある。
いわゆる空回り、というやつだ。
彼女は、何をするにも全力だ。
無表情ではあるが、やる気だけはとても感じられる。
だからこそ、その全力が失敗に振られた時、大きな被害へとつながる。
昨日は本当に危なかった。
父が大切にしている大広間に飾られたツボを、部屋の清掃途中に勢いあまって壊しかけたのだ。
幸い、近くを通りかかったフィンが、最近上達してきた風の魔法で、上手く受け止めてくれたので、ツボが壊れることはなかったのだが、もし、壊れてしまっていれば、王宮から派遣されている立場とはいえ、アニエスもどうなっていたかわからない状況だった。
僕個人としては、アニエスは貴重な"女騎士メイド"という、前世のサブカルもかくや、という存在なので、手放したくないのではあるが、このままでは、遠からず彼女が王宮に出戻りという可能性もなくはないだろう。
「ねぇ、フィン」
「何でしょうか、姉様?」
「明日の休息日、少しあなたに頼みたいことがあるのですが」
「姉様からの頼み事……!!」
ガバッと、フィンが立ち上がる。
「もちろんです!! 姉様のために、できることがあるならば、なんでもさせていただきます!!」
「そ、そう……?」
なんだか、予想以上の熱量に、若干たじろぐ。
な、なんで、こんなに前のめりなんだろう……ありがたいけど……。
「実は、少し手直しをして欲しい服がありまして。できますかしら?」
「む、難しいものでなければ……ドレスでしょうか?」
「いえ、私の服ではなく」
私は、にっこりと微笑むとこう伝えた。
「アニエスの新しいメイド服です」
「こ、これは……」
アニエスは、自らの新しいメイド服に目を向ける。
開いた胸元、短い袖、そして、なによりも細くしなやかな太ももをあらわにするミニスカート。
いわゆるメイド喫茶風のメイド服だ。
ご丁寧にカチューシャもちょっと猫耳っぽくしてもらった。
うーん、フィンよ。良い仕事してくれたね。
「お嬢様、この仕事着はいったい……」
「アニエス、私は思ったのです」
僕は、至極、真面目な表情でアニエスの方へと向き直る。
「ここに来て5日、私は、あなたの失敗を何度も目にしてきました」
「お恥ずかしい限りです……」
「そして、気づいたのです。あなたの失敗の原因が、そのやぼったい仕事着にあるということに」
「な、なんと……!!」
アニエスが大仰に驚く。
いや、だってさ。
大概いっつもスカートの裾踏んづけたり、服の袖口がどこかに触れたりしてしまったわけじゃないですか。
そもそも騎士として活動してきたアニエスは、あまりこういった服装をする機会がなかったのだろう。スカートすらあまり履いたことがなかったのかもしれない。
それゆえに、慣れない服装での作業で失敗をしてしまっていた、と僕は判断した。
「だから、フィンに、あなたの仕事着を動きやすいように、仕立て直してもらったのです」
「な、なるほど……ですから、こんなにスカートの裾が短いのですね」
少しだけ恥ずかしそうに、スカートの裾の端を引っ張るアニエス。
その動作、イエスだね。
「しかし、それならば、できればパンツスタイルに……」
「ちっちっち……!」
僕は、指を振る。
「当家の侍女の服装は昔からスカートと決まっているのです」
「そ、そうなのですか……」
うん、たぶん、きっと、おそらく。
「とにかく、一度、その仕事着で働いて見て欲しいのですわ。気に入らなければ、元の仕事着に戻しますので」
「わ、わかりました。お嬢様がそうおっしゃるのであれば……」
そんなわけで、くっころ系騎士風ミニスカメイドへと進化を遂げたアニエスであったのだが……。
「お嬢様、この服……素晴らしいです!!」
最初こそ、若干露出の多さに抵抗があるようなそぶりを見せていたアニエスがだったが、1日が終わるころにはそんなふうに言ってきた。
「スカートが短いから、裾を踏むこともありませんし、袖で花瓶を倒してしまうこともありません。それに……」
なんだか、少しモジモジとしながら、彼女はこう言った。
「あまり大げさに動くと、その……中が見えてしまいそうになるので、必然、動作が小さくなると申しますか……」
端的に換言すると、パンツ見えそうだから気遣うんだけど、おかげで仕事が丁寧になった、ってことね。
「そうでしょう!!」
ふふっ、全て計算通り……うん、計算通り!
「さすがの慧眼です。お嬢様からいただいたこの仕事服、大切に着用させていただきます」
自身の身体を抱きしめるようにすると、アニエスは、乏しい表情に、少しだけ喜びを滲ませたのだった。
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