第7話 レオンハルト・カーネル
順風満帆だったといっていい。
俺の人生は、魔力解放の儀を終えるその時まで、一片の曇りもない、まさに王者としての道だった。
初代獅子王レオンハルトを彷彿とさせる苛烈な容姿に、騎士団長からも認められるほどの剣術の才能。
王位の継承についてもライバルと呼べるような者はおらず、俺は、武を重んじるこのカーネルの王子として、少しも逸れることなく真っすぐに生きてきた。
だからこそ、初めての挫折と言っても良かった。
そして、それは、あまりに大きな挫折だった。
魔力を持たない。
王族としては、ほぼほぼあり得ないことだ。
一瞬、自分が、父と母の本当の子どもではないのではないか、という考えも浮かんだが、それはすぐに考えの外に捨てた。
俺の容姿は、父と母からしっかりと遺伝している。
その上、父は王族としても、かなり朴訥とした性格だ。
妾の一人もいたという話は聞いた事がない。
俺が父と母の本当の息子であることは疑うべくもない。
だが、だからこそ、一層、自分が魔力を持たないことを俺は嘆いた。
偉大なる先王と美しい母から全ての才能を受け継いだ俺が、もっとも大切な魔力の才能のみ受け継がなかったのだから。
儀式が終わってから3日ほど、俺は部屋に引き籠った。
そんな折、やってきたのが、俺の婚約者、セレーネ・ファンネルだった。
彼女は、碧の国の公爵令嬢で、1年ほど前に婚約したばかり。
甘やかされて育てられたのが、はっきりとわかるほどわがままな性格で、いつもこちらの都合などお構いなしに付きまとってきては、他愛もない自慢話を延々と聞かされていた。
正直、鬱陶しい奴が来た、と思った。
そもそも、俺はこの女の事が別に好きではなかった。
婚約にしてもそうだ。国の慣例に従って、それを受け入れたに過ぎない。
それが、俺の考える王位を継ぐものとしての真っすぐな生き方だったからだ。
だが、久しぶりに会った彼女の様子はすっかり変わっていた。
明らかに少し前よりも大人びた雰囲気を帯びた彼女は、ごくごく自然に、俺の事を慮る態度を見せた。
以前なら、こちらの様子などお構いなしに、ただただ、腕に抱き着いてくるような娘だったのに。
最初は面食らった。
だが、すぐに、俺は、彼女が聖女候補になったことを思い出した。
彼女は、この世で最も貴ぶべき存在、聖女になれるかもしれない権利を得た。
だから、それは、その心の余裕から来るものだと勝手に思っていた。
持てる者特有の精神的な余裕なのだと。
しかし、違った。
駄々っ子のように、自分の不幸を語る俺に、彼女は道を示してくれた。
『だったら、レオンハルト様が、最初の人になれば良いのです。魔力を持たずに、天下に武を知らしめた偉大な王に』
正しい道を辿ることしか頭になかった俺にとって、彼女の言葉は、まさに青天の霹靂のようだった。
王道とは異なる道。
それでいて、その響きは、なんとも俺の心をくすぐった。
魔力を使わずに、最強の王になる。
その道の険しさは想像に難くない。
だが、あっけらかんと言ってのけるセレーネの姿を見ていると、不思議と、なんだかそれができるかのように思えてきている自分がいた。
俺を励ますように、微笑んだその顔が、ずっと頭の中に残っている。
それを思い返すと、俺の胸には何か温かいものが広がってくるような気がした。
「セレーネ。俺はなるぞ。お前が示してくれた、偉大な王にな」
王宮の修練場で、100回の腕立て伏せを終え、滴る汗を振り払った俺は、差してきた西日に目を細めつつ誓う。
そして、もし、俺がお前の理想とする王になれた、その時には……。
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