インターミッション3 佐藤樹(23歳)の場合
トシュ、
俺の背中に何かが突きささる様な衝撃を感じ、その衝撃で吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながらも後ろを振り向いた俺の目に、何かが突き刺さった部分から全身へと熱が広がって行き、遅れてとんでもないレベルの痛み突き抜けて行った。
後ろには今まで見たことも無い様な何か、狒々の様に2足で立ち、それでいて爬虫類の様な鱗で全身を覆われていて、手足の他に触手の様なものが何本も蠢化しているバケモノが居た。
その触手の様なものが、ピクピクと脈動する赤黒い何かにまみれた白赤い何かをつかんで、俺に向けて見せつけているのがかろうじて見えた。
『バカにしているのか?』
そんな言葉を吐き出しそうになって、口を開けた瞬間に、喉から出たのは、肺からあふれ出した大量の血液だった。
まともに意識を維持できたのはここまでで、血を吐きながら倒れ伏しつつ、かすかな意識の残りかすに縋り付く様に足掻こうとするが、既に手足を動かす事も出来ず、碌に目も見えない。
深い闇の中への中へと沈み込んでいく俺の心に、
『残念ながら、あなた様の冒険はここまでの様ですね。
せっかくチャンスが与えられたと言うのに…』
そんな久しぶりのナビのつぶやきが聞こえた様な気がしたが、遂には意識が途絶え、俺のささやかな冒険は幕を閉じた。
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どこかの誰かが、生まれた時には必ずだれかから「ようこそ」と迎えられたはずから思い出して等と言う歌を歌っていたが、俺を迎えたのはむしろ落胆の溜息だったはずだ。
それでも貧しいながらも捨てられずに育ててくれていただけましだったのだろうが、その母親も俺が5歳の誕生日を迎えた日に一緒に買い物に出かけた先で「ここで待っていてね。」と言う言葉を残して行ったきり帰って来る事はなかった。
果たして捨てられたのか、それとも何かに巻き込まれて戻ってくることが出来なかったのかわからないが、その日から俺の雨水を啜り、残飯を漁る様な生活が始まった。
と言っても、この日本の事だ。
何かに特殊な能力がある訳でも無いガキが、お気楽に暮らせる程そっち側の世界も楽だった訳じゃないし、そもそも、そんな子供が一人でルンペン暮らし等していて、目立たない訳もない。
暫く役所の人間をだと名乗るどんくさいおっさんたちと追いかけっこを繰り返す様な暮らしをしていたが、早々に捕まって施設とやらに送られる事になった。
その時に覚えていた、”イツキ”と言う呼び名と5歳と言う情報、誕生日(親に捨てられた日だ)、ルンペン暮らしでぼろぼろになった服だけがその時持っていた全てで、斎藤と言う苗字と樹と言う漢字の名前すら、その後で与えられたものだ。
そう、イツキ言う呼び名と誕生日らしい日付の情報からは、俺の戸籍は確認できなかったらしい。どうやら、俺はその時まで戸籍すら持っていなかったらしいのだ。
また、自分で言うのもなんだが、ルンペン暮らしの影響か、5才児にしてはかなりすれていた子供だった様だ。
そんな餓鬼を引き取って育ててくれる様な親切な大人等、そう簡単に見つかるはずも無く、その後、紆余曲折あって、結局児童養護施設とやらに入る事になった。
まぁ、要は孤児院だな。
とりあえず、この時代に良まれて、未だましだったと言う事だろう。
これが、江戸時代なんかだと、非人扱いだったはずで、恐らくそのまま飢え死にコースだったはずだ。
その後、中学卒業までは施設の世話になり、その仲介で就職先も見つけて退所すること意なった。恐らくこの10年間は、俺の人生の中で最も恵まれていた時期だったと言って良いだろう。
運がよかったのか悪かったのか、さほど差別やいじめを受ける事も無く、結構伸び伸びと生きて良く行くができた。
ただ、さほど頭が良かった訳でも、勉強やスポーツができた訳でも無かったので、奨学金をもらってまで上の学校に行く意志も無く、就職する事にした訳だが、そこで詰む事となった。
俺の態度が悪かったのか、それとも、元々そういう連中が巣食っていた場所だったのか、中卒である事を上げ連ねられて、散々言葉のサンドバック扱いされた挙句に陥れられ、冤罪を着せられて、職を失うはめになったのだ。
なぜ、あそこまで悪しざまに罵られ憎まれなければならなかったのか未だにわからないが、中卒のガキンチョが大人の手練手管にかなう訳も無く、気が付くと落ちるところまで落ちており、半グレと言う名の暴力団もどきの集団に身を置いていた。
その間に、俺を陥れてくれた連中へのお礼も仲間に協力してもらってたっぷりとさせてもらっており、気が付けば足抜き出来ない程深い沼に足を踏み入れていた。
幸い、体は大きい方でかなり頑丈な方だったので、碌でも無い話の実行役として、組織内でそれなりの扱いを受ける事が出来た。
そこで調子に乗って、肩で風を切る様にして暮していたのがまずかったのだろうか。
気か付くと、のっぴきならない状態に置かれていた。
何の事は無い。また嵌められて罪を着せられ、身に覚えがない事で制裁を受ける羽目になっていたのだ。
碌に身動きできない状態で天井から吊るされ、痛めつけられている俺を見てニヤニヤ笑っているのは、俺を嵌めた組織の幹部の情婦でドS女だ。噂には聞いていたが、どうやら幹部の方が隠れマゾだったらしく、嬉々とドS女の言う事を聞いてやがる。
俺が力尽きて気を失っても、直ぐに気付薬か何かで起こされ、また気を失うまで痛めつけられる、そんな事をどれほど繰り返しただろう。
とうとう痛みも碌に感じられない状態になって、痛めつける事にあきたのか、大きな声が出せない様に猿轡を口に噛まされ、棺桶代わりのドラム缶に詰め込まれた。
俺も何度か敵対組織の連中相手にはやった事があるが、生コン詰めにされて東京湾にアクアラングなしでダイビングさせてもらえるらしい。
速乾性コンクリートがある程度固まるまで後どの程度の時間が残されているのか、異世界の神様から声をかけて貰えたのは、そんなタイミングだった。
当然、全く後が無い俺としては、1も2も無く了承した。
その後はお定まりのキャラ作りだ。
生まれてこのかた、碌な目にあった事の無い俺の人生だが、学校を卒業して8年、その間全く潤いが無かったという訳でも無く、それなりの暮らしが出来た時期もあり、世間で大きな話題となったRPG等のゲームも多少はしたことがある。
これは、その種のゲームを始める時に行うキャラクターメーキングの類なのだろう。
初期設定では、俺のこれまでの半生が反映された様なポイントの割り振りになっていた。
言うまでも無く、脳金バカと呼ばれる様な肉体系に極端に偏ったキャラクターだ。
生憎とボーナスポイントは俺の今まで過ごして来た半生から導き出されたものになるらしく、かなりしょっぱい数値だったが、体を使って生きると言う意味での肉体的な数値はかなり充実していると言って良い数値になっていた。
その後も、神様にアドバイスをもらいながらキャラ作りを進めて行き、最終的に俺は傭兵と呼ばれる、肉体労働に偏った体を得る事ができた。
転生先は、モンスターなどもいるファンタジーな世界だと言うので、ポイントを多めに割り振って、初期装備の武器にそれなりのものを手に入れた。これがあれば、ゲーム(RPG)ならば中盤くらいまでなら楽勝ってクラスの奴だ。
その分のポイントを手に入れる為に、色々遣り繰りした挙句に初期配置をかなり危険地帯寄りにする事になってしまったが、まぁ仕方無いと言うかむしろこれからの生き方を考慮するのであればその方が都合がいい。
この種の童貞は早めに切っておくに限るからな。
今までの人生で散々やってきたことだ。生まれ変わったからと言って、今更動揺なんぞしないだろう。
そう思って、神様の了解も得られたので、早々に転生する事にした。
転生先は、結構な危険地帯になるのだそうな。
それと向こうに行けば、もう神様のアドバイスを聴くことも出来なくなる。
ただし向こうの生活に慣れるまでの暫くの間、最低限のサポートを受ける事ができるそうだ。どんなものになるのかは不明だが。
ここから1歩踏み出せは、その先には新しい生が待っている。
そう言われて踏み出すと、今まで見えなかった辺りの様子が見えて来た。
あまり見晴らしの良い場所では無い、森…原生林の中か?!
『何処だ、此処?』
此処が何処とも知れない危険地帯であるなら、なるべく音を出さない方が良いだろう、そんな風に考えながら何か目印になる物は無いかとあたりを見渡していると、
『ここは、バルティカ大陸の中央部です。
一般には、アフラシア大陸が中央大陸と呼ばれている事への対的表現として北西大陸とも呼ばれる事もある大陸です。
あなたは今、この大陸の中央部にあって魔境の別名として知られているユーフェムの森にかなり深く入り込んだ場所に居ます。
一般的な人類の生息地(町)まで100リーグ(160km)以上あり、一般的に安全域と認識されているエリア(砦)からでも約20リーグ(30km)ほど入り込んだ場所です。』
と言う情報が言葉と共に頭の中に浮かび上がった。
ただし、これは音による情報の伝達じゃない。
頭の中に直接伝わってくる言葉、意味ある情報だ。
誰に教わるのでもなく、そうである事がわかった。
まぁ、当然だろう。俺に連れはいないのだ。
言葉の主に向けて、
『あなたは、神様の言っていたサポートか?』
と頭の中で問えば、
『その通りです。』
と答えが返って来る。
『現在、あなたは非常に危険な状況にあります。
あなたが神に希み得た力の代償として、あなたはこの地より約20リーグの距離を踏破して、安全地帯、森を見張る為の砦にたどり着く必要があります。』
と言う答えと共に、俺がこれから進むべき方向とおおよその道筋と、その道程で発生し得る障害の数々が頭に流れ込んでくる。
今の装備で魔獣の跋扈する原生林の中を踏破して約30kmを移動とか、どんな無理ゲームだよと声を大にして言いたいが、それを望んだのもやっぱり俺だった。
とりあえず今俺が何を与えられていて、どんな対応が出来るか確認せねば。
そう考えて、装備や持ち物を確認しようとすると、頭の中にその情報が浮かび上がって来た。
神様から与えられた初期装備は、
・バックパック(リュックサック)は、見た目より大量の荷物を入れる事ができる様に軽い空間圧縮加工が加えられている。
・丈夫な衣類(下着含む):3式(来ている分+着替え)
・約10日分の保存性の良い食事(20食分+α)
・魔物の革を使った軽鎧一式(詳細不明な丈夫な魔物の革で出来たハードレザーの胸甲、腰当、腕当)、鉢金(兜の代わり)、丈夫な編み上げブーツ(脚当の代わりとしても機能するもの)
・毛布代わりになる厚手の丈夫な外套
・ライター(着火用魔道具)
・大ぶりな水筒
・旅用調理具(カップ、皿、小型の鍋等+調味料類)
・ナイフ
・手斧(藪開き)
・上等な小剣
・簡単なケガなどを直す治療薬各種1式
・財布(銀貨~銅貨各種1式)
・スタ袋各種
・手巾・ぼろきれ類各種
その他小物類などである。
尚、鎧や剣の手入れは、ぼろきれと調味料用を兼ねて用意されている油などを使い行い、手順は傭兵の心得の中でケアされていて、やり方もわかる。
必要な装備をサポートのアドバイスを受けながら身に付けていく。
騎士などが身に付ける甲冑などの様な完全な防御は望み様がないが、こんなところを彷徨うのであれば、むしろそんなものは不要だろう。
最低限必要な守るべき部分は、カバー出来た上で、重さも程ほどで動きを妨げられることも無い。左腕の腕甲には小盾と言える程本格的なものではないが、簡易的な小型盾様の構造物が取り付けられている。これでちょっとした礫や飛剣などを受ける事は出来るらしい。
いささかまどろっこしいアドバイスを受けながらも、少しずつ準備を整えてゆき、やっと冒険に出発できる準備が整った。
サポートを受けながら、魔物相手に童貞をきる事も出来た。
生憎、素材はぎについては、おおざっぱ過ぎたらしく合格点はもらえなかったが、その内に慣れるだろう。
この辺には、最下級クラスの弱い魔物は殆どいないそうだ。
魔物ではない動物も、熊や大イノシシなど、かなり強い奴ばかりらしい。
そして、弱めの魔物はそれをカバーする意味でも単体で行動する事は殆ど無く、群れで行動する類の種しかいないらしい。
俺はこのエリアの中では最弱クラスに分類される生き物なので、狩られたくなければ慎重に行動し、なるべく群れからハグレた弱い魔物を一撃で倒せる隙を狙って倒し、経験を積み上げて行かなければならないらしい。
おかげで砦に殆ど近づく事ができないが、実は一昨日からこの辺を縄張りにしている小鬼族等の最弱クラスの魔物を狙って、不用意に群れから離れた個体を何匹か倒す事に成功し、レベルアップに成功している。
サポ曰く、もう少しレベル上げを行って、ステータス値を上げたり、スキルを取得しないととても砦にたどり着く事は出来ないらしく、いらつきながらも雑魚狩りに精を出している。
…
この森で寝起きを繰り返して、既に1週間近い時間が経過しようとしていた。
その間俺はレベル上げに精を出して、基礎レベルを5まで上げて、攻撃スキルや探知スキルの精度を上げる事に成功した。
RPG等のゲームなら、初心者(ノービス)を卒業して1次転職をして何某かの職を得ている頃だろうか。
実際に、一人で敵の気配を探しながら敵の隙をついて急所に一撃を入れるなんて事を繰り返してきたせいか、何とも隠密・暗殺者寄りのスキルも身に着いていた。
…
この森に潜伏して10日以上が経過した。
俺の基礎レベルは10に至ろうとしていた。
スキルも低レベルながら探知系・隠密系の物をかなり取得出来ており、実は先ほどサポ森の中での戦闘に関連するサポート終了の打診を受け、それを受け入れた所だ。
通常はこのクラスまでレベルが上がると自動でサポートを打ち切るらしいが、俺はハードモードで、街でのチュートリアルを出来ていないことから、念のために確認を入れてくれたらしい。
この10日間で倒した魔物・動物は、イノシシ・鹿などの動物(主に食物)を始め、小鬼・犬鬼・豚鬼等の鬼魔族、巨大昆虫類(蛾なら鱗粉、ムカデなら毒等、良い素材が採取できる。)など数十種類に及び、剥ぎ取りもダメ出しを食らわない程度には上達した。
これでようやく砦に向かって移動を開始できる。
…
サポの打ち切りを受け入れるのを、早まったかもしれない。
サポと別れてから既に更に10日余りが経っているが、砦への道のりはさほど進んでいない、と言うか進む事ができていない。
理由は単純で、砦への道のりの途上に今の俺では対処できない程強い魔物が多く生息しており、それを迂回して移動する事を余儀なくされている為だ。
まともに進めないので迂回しようとするとその先に更に対応できない魔物が生息しており、むしろどんどん奥に追いやられている感じだ。
また、サポのサポートを受ける事が出来た時には、サポに周囲の警戒を任せてそれなりに休息をとり、体力を温存しつつ回復に努める事が出来たのだが、サポを開放した事でその辺のサポートも得られなくなった結果、十分な休息が取れなくなった結果、疲れが体を侵食し始めて、その影響でむしろ戦力が低下し始めている。
レベルも多少上がったので、レベルアップによる効果と合わせて±0程度に影響を抑える事ができてはいるが、このままでは破綻するのが目に見えている。
どうにかしなければ…
…
しまった、十分に探査出来ないまま、魔物の巣に不注意に入り込んでしまった様だ。
断続的に魔物の襲撃を受けて、碌に休息をとる事も出来ない。
今は、取り合えず魔物の群れを一時的に捲くことが事が出来た様で、一息入れる事が出来たが、ちゃんとした安全地帯に逃げ込めた訳では無い。
見つかって逃げ出す事を余儀なくされるのは時間の問題だろう。
その時にキチンと逃げ出す為にも、今は休息をとって少しでも体力を回復せねばならるまい。
…敵に見つかって逃げ出し、撒いて一息つくと言うを繰り返して担って既にどれくらいの時間が経過しただろうか?
1昼夜では済まない期間、逃亡と休憩を繰り返しており、食事もまともに取れない状況で体力も尽き、気力だけで逃げ回っている様な状況だ。
敵もしつこい。こんな筋肉質でごついニーチャンなんぞ、大してうまそうでもなかろうに、何処まで追いかけてくる心算だ?
逃げる為だけに、少しでも負担を減らす為に、バックパックも放棄せざるを得なかった為、今では身一つで逃げている様な状況だ。
休むにしても鎧を脱ぐこともでいないので、碌に体力の回復もおぼつかない。
飛翔物から身を守るための腕甲も既に無い。
恐らく匂いを覚えられて、たどられているのだろう。何度か泥をかぶって追跡を逃れたが、その効果がまた薄れてきている気がする。
たぶん、碌に汗も拭けない状況だからなのだろうが、こんな状況で鎧を脱いで体を清める勇気など持てやしない上に、体をふく手ぬぐいも無い。ただひたすら息を殺して魔物が行き過ぎるのを天に祈った。
魔物の気配が少しづつ遠ざかって行く。
何か、別の獲物でも見つけたのだろうか?
俺が感知できる範囲ギリギリの所から、更に遠ざかって行くのがわかった。
今の風向きなら俺の匂いは伝わらないはずだ。
見失ってくれたのかもしれない。
それでも、精いっぱい探査できる限りの探査を行って、敵のいなくなった事を確認し、当面の危険が去った事を確認してから、更に十分な時間をおいてから潜伏場所から這い出した。
どうしたって、隠れ場所に身を伏せている状態では、探査精度が下がってしまうのだが、だからと言って注意を怠る訳にはいかない。
スキルを最大限使って魔物を探るが、どうやら当面の危機は去った様だ。
安心して、この後どうしようかと考え始めたところで、
『トシュ』
俺の背中に何かが突きささる様な衝撃を感じ、その衝撃で吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながらも後ろを振り向いた俺の目に、何かが突き刺さった部分から全身へと熱が広がって行き、遅れてとんでもないレベルの痛み突き抜けて行った。
後ろには今まで見たことも無い様な何か、狒々の様に2足で立ち、それでいて爬虫類の様な鱗で全身を覆われていて、手足の他に触手の様なものが何本も蠢化しているバケモノが居た。
その触手の様なものが、ピクピクと脈動する赤黒い何かにまみれた白赤い何かをつかんで、俺に向けて見せつけているのがかろうじて見えた。
『バカにしているのか?』
そんな言葉を吐き出しそうになって、口を開けた瞬間に、喉から出たのは、肺からあふれ出した大量の血液だった。
まともに意識を維持できたのはここまでで、血を吐きながら倒れ伏しつつ、かすかな意識の残りかすに縋り付く様に足掻こうとするが、既に手足を動かす事も出来ず、碌に目も見えない。
深い闇の中への中へと沈み込んでいく俺の心に、
『残念ながら、あなた様の冒険はここまでの様ですね。
せっかくチャンスが与えられたと言うのに…』
そんな久しぶりのナビのつぶやきが聞こえた様な気がしたが、遂には意識が途絶え、俺のささやかな二つ目の人生は幕を閉じたのだった。
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