第43話 奴隷解放、そして結婚へ…とはいかなかった?!

そうこうしている内に、奴隷商の所に奴隷魔法士がやって来る時期になった。

早速、人をやって確認すると、予定通り来ているらしい。

そこで早速、フェンディを伴って奴隷商を訪なった。

要件を告げ客室に通されて暫く待つと、奴隷商のマースナック氏が魔法士らしきローブ姿のおっさんを伴って部屋に入って来た。

作法に則って挨拶を交わし、魔法士を紹介してもらうと、男はハデスと言う名でトレファチャムを含む10箇所ほどの街町を巡回しながら、奴隷魔法関連の仕事をしているとの事だった。


このキャスウェッソン商会の奴隷契約書なども、殆ど彼の手によるものだそうで、一種の定型魔法契約書(奴隷契約)として、

・買い主の名と血判

・奴隷の名と血判

・立会人の名と血判

・購入額と拘束期間

・特記事項(あれば)

を所定の順番に所定の場所に書き加え、魔力を通せば契約が出来る1種の魔道具を作る事が主な仕事らしい。

街町を巡回している都合上、いつでも即時対応できる訳では無いので、契約書は多めに渡しておいて、巡回してくる度に使った分を補充するのが、ルーチンなのだそうだ。


まぁ、世間話はほどほどにしておいて、早速本題に入ろうか。

余り彼女を焦らすのも大人げない。

「今度彼女を娶る事になったので、奴隷契約の解除をお願いしたい。」

と申し入れると、ハデス氏は彼女の奴隷紋に手を置いて何やら集中し出した。

少しして、

「これは私が作った魔法契約書に基づいて行われた契約ですね。

解除なら、直ぐにできますよ。」

とのお答えが帰って来た。

それではよろしくと早速お願いすると、料金は中銀貨2枚になると言うので、直ぐに支払った。

「解除の儀式は、解析されて悪用されると大変な事になるので、誰にも見せない事になっています。」

と言って、彼女にも目隠しをして、別室に連れて行ってしまった。

マースナック氏に視線を向けると、いつもの事らしく、気にした風も無く、

「儀式に少し時間がかかります。

特段、痛みを伴うものではないらしいのですが、若干精神的な苦痛を味わう事になる場合もあるそうです。

お茶でも飲みながらお待ちください。」

と言うので、お茶を飲みながら待っていると、近くで魔力が高まっていくのを感じた。そのまま少しすると、魔力の高まりは治まっていき、やがてハデス氏だけ戻って来た。

氏曰く、

「少し苦しい思いをしたかもしれない。

これは当人がさほど強く奴隷からの解放を願っていない時などによく起きる事なのだが、思った以上に抵抗が大きかった。

消耗が激しい様だったのでそのまま休ませているから、少ししたら起こしてあげると良い。

あぁ、解放自体は無事に終わったよ。」

との事だった。

思った以上に自分の消耗も激しかったので、今日はこれで店じまいだと苦笑いする彼と少し暇つぶしでおしゃべりをしてから起こしに行くと、フェンディは結構気持ちよさそうに眠っていた。

余り無理に起こしたくはなかったが、何時までもここに邪魔をしている訳にはいかないので、起こしてあげようと優しく体を揺するが、なかなか起きてくれない。

少し強めに体を揺するが、まだ起きない。

何度か繰り返していくうちに少し服がはだけて来て、左のデコルテラインの部分が露わになった。丁度、彼女の奴隷印があった辺りだ。


奴隷紋と言うのは、奴隷が正しく主人と契約した時に現れる契約の印で、外からある程度以上見える様に、契約した時に身に纏っていた服装を基準にして、外からある程度見える位置に刻むことが義務付けられている。ただし、大きさや位置はある程度奴隷の希望に合わせて自由に出来るそうだ。

今までの俺の経験では、ヒンドゥー教のビンディの様に小さく額に表示する者もいれば、髪に隠して目立たないように、後頭部に表示させる者もいた。まぁ、それでも黒子や痣の様に薄っすら見えてしまうのだが。

正式に購入される前の奴隷の服装は面積が少ないのは、もちろん、新しく主になる人物に、なるべく奴隷たちの体を隅々まで見せる事を第1としているのだが、この奴隷紋の位置を自由に選ばせてあげる意味もあるのだ、とはマースナック氏の言葉だ。


ここで話は戻るが、急いではだけた服を戻してあげようと手を出したところで気が付いた。奴隷印がきれいに消えている。

まぁ、彼女がと言う訳ではないが女性なら嫌がりそうな気がしたので、そんなにマジマジと奴隷印を見つめた事は無いのだが、確かこの辺だったよなぁと見るとはなしに見ていると、日焼けの跡すら見あたらない事に気が付いた。

あれだけはっきりとした色の紋章が体にへばり付いていた訳だから、肌が多少たりとも日焼けする程度に露出していたのであれば、影絵の様な形で奴隷紋の跡が残っていて然るべきじゃないかと思うんだが、その跡すら無い様に見える。

ついついマジマジとその辺を眺めていると、ようやく回復したのか、身じろぎしながら彼女が目を覚ました。

するとどうなるのかと言うと、目を覚ました彼女に覆いかぶさる様にしている俺が居る訳でしかも若干とは言え着衣が乱れている。

彼女にしてみれば、覚めたばかりで自分のあるべき状況も確りとはわからない状態で、男が自分に覆いかぶさっているとなれば…


ブワッチ~~~ン!!!


片手でいささかはだけ気味の着衣の自分の体を隠しながら、もう片方の手で抵抗の平手打ちの一つも飛んでくる訳だ。


ここで、俺は強く自分の無罪を主張したいと思います。


幾ら亭主とは言え、当人の同意も無くやっちゃいけない事があるぐらい、わかってるっての。

勿論、彼女は分かってくれたさ。

聊か誤解を解くのに時間はかかったけどな。


さすがに、彼女がある程度落ち着くまで結構時間がかかった事もあって、俺の顔についたモミジの跡が冷めるまで居させてくれ、とは言えなかった。

仕方なくそのまま帰ったら、メイド達に見つかって、何やらひそひそ話をされてた様だけど、その辺の誤解?もその内解けるだろう。

少なくともフェンディは状況を理解できたらしくて、平謝りに謝ってくれていたし。


と言う訳で、俺の結婚を阻む問題は解決した訳だ。


俺の知るところによれば、こちらの世界ではお貴族様でも無ければ結婚自体は役所に証人のサインが入った書類を提出する程度でさほど派手に祝う習慣は無い。商売等の都合で周囲への周知が必要な場合は披露宴的なパーティーを別に開く事が多く、そして、結婚して暫くは仕事をセーブして夫婦の時間を十分に取る。要は地球で言う所のハネムーン的な期間を設けて子作りに励む事が推奨されているのだ。

因みに、お貴族様の場合、特に領地貴族の場合は、周囲に十分な周知を行う為に結婚の儀式も執り行うし、披露宴も派手にやる。ついでに、自分のお祝いなのに振る舞い酒や料理なども領民達に振る舞われるものらしい。


とりあえず、結婚前になすべき事もしたので、証人の署名をお願いしに、代官様の所にお伺いしたら、待ったがかかってしまった。

その理由だが、先ず第1に、完全にヨタ話だと思っていた、俺のお貴族様への叙爵の可能性があるらしい。さすがに領地貴族では無く法衣貴族扱いではあるらしいのだが、要は国としては、まだまだ俺をこき使いたいらしいので、その前に多少は甘い汁?を吸わせておこうと言う事らしい。

第2の理由は、ハネムーン期間中に工房の生産性が下がるとトレファチャムとして困るらしい。既に、ステン鋼製品の輸出がこの街の重要な産業の一つとなっており、国内の各所から生産性の向上を求められている。生産性を高めるのならいくらでも後ろ押しするが、下げられてしまうと非常に困る事になるらしい。

他にもいくつか細かな理由を上げ連ねられ、結婚する為にはそれらをクリアにする必要があるとまで言われてしまった。

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