第42話 一言に色町と言ってもそれだけじゃない
まあ、一言に色町とは言っても色々な店がある訳で、今日の行き先の店はかなり健全な部類に入る店だ。
基本は酒と飯を楽しむための店で壁の花よろしく給仕娘が多めにいる。
で、給仕娘に気に入った娘が居れば、交渉次第で特別サービスを受ける事が出来ると言うのが、基本的なシステムだ。
店も給仕娘も客も、それぞれが心得ておくべき部分は心得ているので、めったに問題など起きないし、割りきる事ができれば美味しく飯や酒だけを楽しむ事もできる。
何より、大概の飯屋や居酒屋より広い事が多い。
うちの従業員の中には家族持ちも多いので、今回はその家族もご招待する事になった。
そんな都合で全員を収容出来ると言う条件で探して、こんな店がセレクトされる事となった訳だ。
うちからも当日の警備担当以外は、原則全員の参加だ。
そうしておかないと後々、やましい事であったんじゃないかと疑われて面倒臭い事になりそうだと言う理由は、嫁二人には内緒だ。
妻帯者の中には特別サービスの方に多くの期待していたやつもいた様だか、出しなに翌日に持ち越さないって約束したろ?
更に家族に見られても良いなら好きにしたら、と言うと渋々納得した様だった。
勿論、俺は借りてきた猫ちゃんでしたともさ。
皆が席に落ち着いたところで、先ずは軽い挨拶、次に娶る事になった妻達の紹介をして、最後に乾杯の音頭を取れば、今日の俺のお役目は殆ど完了だ。
後は払いの時だけだな、おれが要るのは。
適当に旧交を温めつつ、相手が聞きたがっていて話せる事を話しつつ時間が経つのを待つだけだ。ある意味、実に簡単なお仕事ってやつだ。
下働きの若いの(独身)が給仕娘と上手い事話を付けたのか、こっちをチラチラ見てくるので、頷いてやると喜んで娘と連れだって席を外していく。
良いのかねぇ、うちのメイド達もいる前で。豪気なこった。
緩やかに時間が過ぎてゆき、弟子達もその家族もあらかた知りたい事は聞けた様で、みんなメシや酒に集中している。
恐らく、暫くはこんな贅沢出来ないので堪能しておけとか、家族内で申し送りでもあるんだろう。
良い時間になったので、締めを行い散会となった。
いい気分になって嫁さんに引きずられる様に帰っていく連中を尻目に、店の娘たちとしけこんでいる若手の分の料金も含めて多めに払っておいてやるのが、今日の俺のオシゴトだ。
フェンディは呆れている風だが、さすがに連れ込みでは無いにせよ宿で勤めていただけあってタリンは心得ていますと言う顔をしている。これなら後でどうこうと言われる事も無いだろう。
そもそも、俺は家でも大して酒を嗜まない。
別に酒に極端に弱い訳でも、酒をうまく感じない訳でも無いのだが、飯なら飯をきちんと味わおうと思うと、酒は邪魔にしかならないと感じてしまうし、酒なら酒の邪魔にならない様なあてがあれば良いと考えるからだ。
あ、コジ君相手の時は別だな。
あいつと酒を飲む時は、酒に合うあてを作ろうとか、話が明後日の方向に行ってしまう事が多く、大抵酒盛りが終わる頃には腹もいっぱいになっている。
ただし、試作料理の試食でだ。
味については、そんなに大外れしたものを作る事は多くないとだけ言っておこう。
2人ともその時はそれなりに酔っぱらっている訳だし、後で試作した料理を再現してみて首を傾げる事が無くはない訳だが。
料理番からは嫌がられるけどね、材料を予定が狂うと。
翌朝に使う予定だった食材を全滅させて、大ヒンシュクを買った事もあったな。
それでも時として大当たりを引いて、うちの定番料理になる物が出来る事も無くは無いのだ。
悪い主人にあたったと思って、あきらめてくれぃ。
家に帰って風呂で軽く汚れを濯ぎ、寝床に入ったところで、嫁さんズにつかまってしまった。
なんだ?
今日は悪さはしてないし、払いは俺の小遣いの範囲で賄った。
酒が入っての過激な運動は心臓に悪そうだから、そっちも無しだぞ?
と思っていると、メイド達の今後の事で話がある、と言う。
出来れば、明日以降の方がありがたいのだが、そう言う訳にも行かない雰囲気だ。
出来ればこっそり話せる今日の内に方向性だけでも解決しておきたいらしい。
仕方ないので、覚悟を決めて話を聞く事にしたが、やはりと言うか、当然と言うか、フェンディを娶る事にした状況が、他のメイド達の動揺を誘ったらしい。
まぁ、そもそもそう言うお約束を知らなかった時点で、その種の対応が出来ているはずが無いのだ、普通は目星をつけて娶る心算の娘には、それなりに言い含めておくものだし、それなりの別格の扱いをしておくものであるらしい。
そうすればその娘もその気があるのなら、ある程度そう言う覚悟が出来るものだし、そう言なる前提での所作も憶えていくものなのだとか。
また、普通はそう言う話を知らなさそうな者には、周囲の者がそれとなく話をしておくものらしいのだが、今回はそう言う話が出る前に王都へ行ってしまい、それが伸びて長期出張となってしまった上に、嫁が決まって連れで帰ってくると言うインパクトの強い事になった為、周囲が大混乱する事になってしまったと言う事らしい。
まぁ、奴隷売買の折にその手の話もしておくのがマナーなそうなので、それを怠った町の奴隷商がまず一義的に悪い言う事になるそうだが。
俺がタリン連れで帰って来るまでは、メイド頭のフェンディが年齢的にも立場的にも大本命と言う事で治まっていたらしいのだが、知らなかったが故の爆弾投下で未通女のメイド達にはいささか刺激が強すぎたらしい。
ついでに言うと、メイドの中には俺の弟子で見込みがありそうな者でも良いか的な感じで触手を伸ばしていた娘もいたらしいのだが、今日の飲み会の一件で色々終わってしまったらしい。
いや、それは俺のせいじゃないし。
その上で、色々と考える合わせると、メイドの中から1人2人は妾にしないと収まらないかもしれない、と言う事になるらしい。
チョット待て、それで良いのか、君たちは?
と聞くと、良い訳ではないらしいが、家の事をきちんときれいに収めようとすると、そういう結論にならざるを得ないとの事だった。
それで、他の娘たちはどうなるのかと聞くと、厩番のガートナーとくっ付きそうなのが2番手メイドのエイル、コジ君と良い雰囲気なのが4番手メイドのファーリー、弟子のプレンティ相手に今日砕け散ったのが5番手メイドのフィフィ、残りの3番手メイドのトリーダは未だ良くわからないらしいが、状況次第では俺の妾希望に転じる可能性もあるらしい。
で、フリダシに戻るだ。
「あー、フィフィはプレンティに懸想していたけど、今日、目の前で給仕娘を連れて上に上がって行った(この種の飲み屋は、2階から上の部屋が連れ込み部屋兼になっている。)のを見て冷めた、という感じなのか?」
と聞いてみると、そこまで確り話が進んでいた訳ではなかったらしい。
そもそもこのフィフィと言う娘は、いささか内向的な傾向があってあまり強く自己主張をしないタイプらしく、フェンディもそこは心得ていて注意深く動向を見守っていたので、プレンティ相手に好意を持っているらしいと気づいけたのだそうだ。
ただし今日の飲み会の席で、早々に相手を見つけて上(やり部屋)に上がってしまったのは、かなりの減点になっただろうと言う感じで、たぶん終わったのだろうなと言う事だそうな。
それで、この子の性格からして、年季が明ける2年後までに相手を見つけるのは難しいだろうと言う判断になったのだそうだ。
トリーダに関しては、社交性もあり誰とでも気軽に話せて周囲の評価も悪くないのだが、あまり自分の内側に人を深く立ち入らせる事も、人の内面に立ち入る事も良しとしない性格だそうで、何か過去に人を寄せ付け無くなる様な事があったのかもしれないそうだ。
それが想い違いならいいのですが、とは近くで彼女を良く見てきたフェンディだからこその言葉かもしれない。
いずれにせよ、乙女の一番重大な時期(適齢期)に自由を預かる以上は、主としての責任は重大なものなので色々覚悟が必要だったらしいと、今更ながらに悟るのであった。
あぁ、頭が痛い。
とりあえず、フィフィについては成り行きに任せるしかなさそうなので、当面は様子見をする事にして、トリーダについてはどうするか、年季明けまで未だ3年少しあるので、それとなく意向を確認しておいてくれとフェンディに頼んで、お茶を濁す事になったのは、たぶん、逃げじゃないと思う事にしよう。
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