第40話 孤児院はいつも元気
知っての通り、俺は基本的にさほど信心深い方ではない。と言うか、こちらの世界に来るまで神様の実在なんて信じて無かった。
当時の俺に信仰と呼べる概念があるとすれば、
『神なんてものはいない。あれは心を落ち着かせる為の方便である。』
であったろう。
以前、信仰について人に聞かれた時に、無信仰と答えていた位だ。
だが今は、神または神に相当する存在が実在する事を知っている。
信じているんじゃなく、知っている訳だ。
ただし、その時の感触から、神と言うのが縋るべき相手ではない事も感じていた。
神はよほどの事が無ければ、その世界のリソースの調整や極端に大きなカタストロフィの回避など以外で人界に介入する事は無いのだと思う。
ただし、加護や試練と呼ばれるある種の恩寵を希に与える事を除けばだが。
だから、教会に詣でても詣でなくても大した意味は無いのだとは思うのだが、俺にしてみれば、それゆえに救われた感があるので、つい、感謝?の気持ちを表す為にも詣でてしまう。そして詣でると、それに付随している孤児院だとか養護院だとかが目に入り、つい、追加の寄進をしてしまうのだ。
幸い、俺は一般的に成功者に分類されるカテゴリーに属しており、自由になる金だけはそれなりにあるのだ。
その結果気が付けば、篤志家等と呼ばれる様になっていたが、特に篤い志がある訳でも社会福祉に熱心なわけでもなく、気が付けばそう呼ばれる様になっていた、と言う感じである。
とは言え、孤児院に行くとなると、それなりの土産を持っていく事にしているし、その為の準備を王都を出る時にしていたのも事実だ。
教会に着いて日頃の感謝の祈りを捧げ、浄財をして孤児院を訪う。
世話役の助祭さんに教会に納めた分とは別に少し喜捨を行い、土産を抱えて部屋に入ると、部屋にいた子供たちがハンターの目で俺の持つ土産を見つめていた。
この孤児院は、街の教会本院併設の孤児院で、この街にある孤児院の中ではかなり規模が大きい部類に入る。
とは言え、バカみたいな規模があると言う程でも無く、全部で40人程の子供(内10人程はシングルマザーの子供)を預かって育てているのだそうだ。
と言う話を向こうに行く前に聞いていたのだが、なんか雰囲気変わったか?
つらつらと部屋にいる子供たちを眺めると、向こうに行く前とさほどメンツは変わってはなさそうに見えるんだが…?
確か、手前で一角兎の人形を抱えてるのはウランちゃん、後ろの方で小さな子供の世話をしている坊主はリアム君だったか、左の方でおままごとしているのは、エマとオリヴィー、ソフィーにシャルだったと思うんだが…
何か、微妙に引かれてる感じがするのは気のせいか?
「おっちゃん、久しぶり!」
子供たちの態度の微妙さに違和感を感じていると、俺に声を掛けてくる子供が出て来た、確か子供たちのリーダー役の一人のノア君だったか、確か結構人懐こい子だったと記憶しているが…
「おう、ノアか、久しぶりだね。」
と答えると、ちょっと驚いた顔をして、
「全然、来ないから、ここに来るのを飽きたのかと思ってたよ?」
と毒を吐く。
おぅふ、そう言う事かよ。
どうやら、1年放っておかれた形になったものだから、拗ねてるらしい。
「なーに、仕事で王都に呼ばれて行ったのは良いけど。
おっちゃんが有能だからって、全然返してくれなくてな。
隙を見て逃げだして来たんだよ。
わははは…」
ん、なんか反応が微妙だな。
もう一押ししてみるか。
「帰りしなにみんなへの土産を買ってきたからな。
先ずは、お前さんから渡して行くか。
確か、ノアには、肥後守を用意したはずだよな。
えーと、どこに入れたっけ???」
と土産の中を探して、やっと、見つけだした。
「お!
あった!あった!
こいつが肥後守だ。
ほれ、こうやって…」
折りたたみになっている刃を引き出して見せて、軽く箱の角に当て、ずらして削って見せる。
「お前も、あと1年もすれば卒業だったろう。
少し早い様な気もするが、お前なら大丈夫だろう。
気を付けて、使うんだぞ。」
と言って、肥後守を渡した。
現金な事に、目を輝かせて肥後守を見ている。
ノアに続いてと、近くを見回すと、不安そうに俺を見ている女の子がいる確か…
「お前さんは、確かアンヌマリーと言ったか?
確か、土産は…」と箱の中を見回して、あったこれだ。
「確か、お前さんは花の世話が好きだったんだよな。
ほれ、こいつを受け取れ。」
と言って袋を差し出すと、嬉しそうに受け取って中を見る。
中に入っているのは、お子様用花壇のお手入れセット&花の種だ。
「良いか?
こいつは花の種だ。色んな種を用意してある。
これからの時期に播く奴もあったはずだ。袋に蒔く時期と手入れの仕方が書いてあるからちゃんと読むんだぞ。
こっちは、小型のシャベルとジョウロ、くま手に種蒔きだ。
使い方はわかるな?
よし。」
ふむ、大分雰囲気が変わって来たな。
やっぱり全員そろって見捨てられた訳じゃないらしいとなれば、自分の事はどうだろう、って事になるよな…
「お次は…。
お前さんの番だ、マディー。
確か、マディーには…、お、これだこれ、これ。」
そう言って差し出す袋を、良いの?、と言う感じで受け取って、嬉しそうに胸に抱えて込んだ。
こうなると、他の子どもたちも黙ってみてはいられない。
ワッとばかりに集まってきて、俺の近くで、
「「「「「「「「「「「「僕(私)の分は!」」」」」」」」」」」」
と大合唱だ。
むしろこっちの方が、圧に負けてタジタジだ。
「わかった!
わかったから。
お前ら、ちょっと、落ち着け。
これから、名前を呼ぶから、呼ばれたら、取りに来るんだぞ!」
と言うと、周りから
「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」
と元気のいいお返事が返ってくる。
それに合わせて、
「それじゃあ、先ずは、カミラ。」
と、名前を呼ぶと、
「はーい!」
と元気のいい返事と共に、赤毛の女の子が飛びだしてくる。
「お前さんは、お絵かきが好きだったから…」
と簡単に中身の説明をしてやると
「やったー!」
と言う声を上げて、飛び跳ねている。
次の土産をつかんで中身を確認して、
「お次は、レヴィー。
お前さんには…」
次々と名前を呼んでは、土産を渡し、中身の説明していく。
少しづつ、箱の中身が少なくなるに連れて、呼ばれてない子供たちの目が真剣みを帯びると言うより、縋る様な目つきなっていく。
大丈夫、全員分忘れてないし。
少なくとも、1年前にここにいて、俺と交流があった子の分は、全部思い出を捻り出して、何かしら好みに合うように土産を準備したんだし。
最後の一人が呼ばれ、土産が全部渡される。
無事に、当時いた子供たち分を全部買ってくる事が出来た様だ。
うん一安心。
2人分程、残っているのは、当時いたのにいないメンバーがいたって事だ。
まぁ、ここが孤児院である以上は仕方がない。成人すれば、当然、独立する事になるし、希にもらわれて行く子もいる。
案の定、二人は俺の居ぬ間に成人を迎え、ここから独立していったそうだ。
さて、さっきから騒がしい先住組に対して、はなからあてにしてないと言う態度で静かにしているメンバーが5人ほどいる。
恐らく、俺が王都に行っている間に入って来たメンツだろう。
助祭さんに紹介してもらうと、上から順にライアン(10才♂)、ハンナ(8才♀)、アディン(7才♀)、アロン(6才♂)、ゾーイ(6才♀)だそうな。
何か、バリバリ警戒されている感があるんだが、汎用の土産を渡して、挨拶だけしておいた。
さて、お次は、大人の時間だ。
って言っても、別にいかがわしい事をする訳ではない。
ここで子供の世話を担当している修道女さんたちは、助祭のサマンサさんを筆頭に5人ほどいるので、彼女たちにも土産を渡すだけの事だ。
土産自体は大したものではなく、向こうで希少金属の抽出をした時に一緒に抽出した銀を使って作った小物にした。純銀等のあまり値がかさむものになるとむしろ迷惑だろうからとあえて銅やパラジウム等を混ぜ込んで、ある程度の硬さや耐変色性も確保した銀パラ合金で作ったちょっとしたアクセサリの類だ。
物の価値としても本当にちょっとしたものだったんだが、何故か抱きつかんばかりに喜ばれた。
同時にどういう訳か、タリンにもこっそり&ぎゅっと尻を抓られた。
すんごく痛かったよ。
何か、タリンの目つきが、未だ懲りないのかと言っている様で、すごく怖いんだが。やめてよ、入浴中や就寝中に奴隷メイドズをけしかけるのは。あの子たち迄相手にしていたら、ホントに干乾びるから。
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