第38話 あれってそう言うものだったのか…
風呂に浸かってのんびりしていると、何時の間にか溜まっていたあれやこれやが少しずつ溶け出して行くのがわかった気がした。
何か知らないうちに、ずいぶんと色んなものをため込んでいた様だ。
頭を空っぽにして、温めのお湯に体を浮かべる様に浸かっていると、誰かが入って来た気配がする。
最近では、そういう勤めはタリンがする事になっていたので、特に気にする事なく、お湯の中で揺蕩っていると、
「お体をお流しします。」
とタオルで軽く体の前だけ隠したフェンディーネ嬢が入って来た。
え?この辺では、フェンディーネ位の齢になると、嬢とは呼ばない?
良いんだよ、俺がそう思う限りは、女性は幾つになってでも、嬢呼ばわりで!
もちろんこんな事、彼女との借金奴隷の契約条項に無いし、強要すれば俺の手が後ろに回る事請け合いだ。さらに言わせてもらえれば、今まで一度としてこんなセクハラめいた事、彼女を始め5人いる借金メイドたちの誰にもしてもらった事も強要した事も無い。
つい、マジマジと彼女の方を見つめると、半分べそかいた様な表情をして、顔や耳どころか体まで真っ赤に染めている。まだ風呂に入って無いにも関わらずだ。
とは言え、彼女とそう言う関係になった事は無く、今迄は法的に認められた主従の関係で収まっていたはずだ。
それでも、彼女の雰囲気から相当の覚悟が伺えるのも確かで、これってどんな敵討ち?って聞きたくなる様な雰囲気すら微妙に醸し出している様にも見える。
まぁ。後で揉めるのは確定の様な気はするが、ここまで出来上がっている女性に恥をかかせるのは男のする事じゃない、等と心の中で言い訳をしつつ、彼女の事を受け入れる事にした。ごめんよ、タリン、節操のない亭主で。
彼女の顔を確り見つめ、目を合わせて、少し首を傾げる感じで彼女の覚悟のほどを一応確認する。半泣きが8割笑みが2割位の微妙な表情をしながら、時間をかけてわずかに頷くのを確認して、こちらもうなずいて見せる。
なるべく何気ない口調で、
「それじゃぁ、お願いしようかな。
でもそうだな、先ずはその前に、自分の体を清めなさい。」
と言ってあげると、フェンディは半は飛び上がる様に反応して、ひっくり返った様な声で、「はい」とも「ひゃい」ともつかない返事をして、慌てて自分の体を清め始めた。
そんな彼女を見るとも無く見ていると、やがて体を清め終えたのか、桶を持ってこちらへっぴり腰で近づいてくる。
そう言えば、あの桶、浴室に入って来る時にも持ってなかったか?
あれ?と思って桶の中を覗いてみると、何処かで見たような白い素焼きの酒瓶が入っている。
なるほど、景気付に一献ってか?
風呂に入っている時に飲むのは、あまり体に良くは無いのだが、彼女にしてみれば、勇気が必要な訳で、それを与えてくれる魔法の水って感じなのかな?
そんな事を考えていると、彼女がぐい吞みを俺に向けて差し出して、
「先ずは、一献どうぞ」
と言ってくる。
ぐい吞みを受け取って、酒で器を満たしてもらって、そいつをクイッと飲み干す。
ぐい吞みを返して持たせ、酒を満たして、うなずくと、彼女もそいつを飲み干した。
その後は、特に何かを話すでも無く、お互いにぐい吞みと酒瓶を交換しあいながら、チビリチビリと酒を飲ませ合って、少しずつ酔いは深まって行き…
まぁ、その後の事はは想像にまかせるよ。
多分、彼女が俺にくれる心算だったものは、確りいただいたとしか言い様が無い事があったのは確かだ。
俺も男だ。
それを否定したり、逃げたりする心算も無い。
翌朝、色々思うところはあったが、彼女に謝る事はせず礼の言い、タリンには謝りに行ったのだが、それでわかった事は、この件は彼女の公認と言うより、彼女がけしかけた事で起こった事だったと言う事だ。
元々、昨日も飲んだ『女神の恩寵』って酒の出元は彼女だったそうだ。
もっと言えば、大本の出元は某王都の隊商宿の女将だそうだが。
それで、あの酒は元々、こういう状況でも手を出さないヘタレ男をその気にさせる為の酒だそうな。
チョット待て、誰がヘタレだ? 誰が?
と言ったら、何を今さらと言う目で見られてしまった。
くそ、ヘタレ評価は確定かよ。
まぁ、フェンディにしてみれば、俺が受け入れてくれるかどうかが判断つかない状況で年季明けはどんどん迫ってくるしで、どうしようか迷っていたのだそうだ。
それを見かねて、後ろから背中を押したのがタリンだそうだ。
今覚悟を決めないとずっと後悔するよと。
ついでにタリンに言わせれば、女にここまで覚悟させた時点で男のヘタレは確定だそうだ。
元々、未婚の奴隷女を未婚の男が買うと言う事は、そう言う明文化されていないお約束的なものを含めて行われるものであるらしい。
そんなの初めて聞くんだが…?
男はその女が自分の妻(妾)としてふさわしいか見極め、女は男の甲斐性の採点をする習いだそうな。
全く、女将と言いタリンと言い、この世界の女ってやつは、男前すぎだろ。
と言う訳で、今日、俺に第2夫人が出来た。
タリンが第1夫人で、フェンディが第2夫人だ。
年から考えれば、逆だろと言う意見もあるかも知れないが、2人の精神的立ち位置を考えれば、こうなるのが妥当と言う事になる。
2人とも、それで異存無いそうだ。
今日の予定を色々考えていたんだか、何か吹き飛んだな。
先ずは奴隷商を訪ねて、フェンディの解放をせねば。
朝食の席でみんなを集めて、フェンディを娶る事になったのを発表する。
彼女は、湯気が出る位顔を真っ赤にして恥ずかしいがっていたが、それ自体はまんざらでも無さそうだ。
皆から祝福されて、とてもうれしそうにしていた。
何か他の娘たちの鼻息が微妙に荒くなっている様な気をするのは、気のせいだろう。
さすがに連チャンは無いよな…、無いよなタリン?
とりあえず、その辺は考えない事にして、フェンディの事を考えよう。
こっち(奴隷)方面の事はあまり詳しく無いので、フェンディに聞いた話になるのだが、通常、年季明けを除く借金奴隷の解放と言うのはめったにある事では無いので、資格を持つ専門の奴隷魔法士による解放の手続きが必要になるらしい。
どうもこの(隷属)魔法と言うやつは、適性を持つ者で悪用しない事を宣誓した者だけが教育を受ける事が出来る類のものだそうで、その数もかなり限られており、当然国家の管理下に置かれているそうだ。
そんな奴隷魔法士だが、数が限られている事もあって、普通は幾つかの町を1人で受け持っていて、日頃から巡回して廻りつつ面倒を見ているものらしい。
だから、奴隷の早期解放を希望する者は、奴隷魔法士の巡回予定の日程に併せて奴隷商の元に集まるのだそうだ。
あちゃあ、直ぐに出来ないのか、残念。
と思ったんだけど…、あれ?お金で年季を短くする事出来なかったっけ?
と思って聞いてみたら、基本的に奴隷契約に組み込まれているやり方で年季の短縮を行うと、追加料金がすごい事になるらしい。何でも、小金貨1枚位の追加料金が必要になるとか。
話を聞いて、小金貨1枚位どうと言うことないだろうと思ってっしまったこの感覚は、この前まで国家主導の事業を差配していたせいなのだろうか。
大金貨や白金貨の単位で事業を動かしていた弊害で、金銭感覚がおかしくなっているのかもしれない。
考えてみれば、1小金貨=1万小銅貨≒10万円相当の金額だ。
下手な事を言うと、おかしな奴だと引かれる事になりかねない。
気を付ける事にしよう。
と言う訳で、奴隷商の所に確認に行くと、奴隷魔術は少し前に来たばかりだから、次に来るのは予定が狂っていなければ7日後の予定だとか。
予定が狂わなければって、そんなに狂うものなのかと聞いてみたら、基本1人で馬車を使って街々を廻っているので、1つの街でする仕事が多くなれば、枯渇した魔力を回復するためにも余分に泊まる事もままあるし、当然予定は順繰りにズレて行くことになる、と言う事らしい。
仕方ない、奴隷解放は少し待ってもらう事にしよう。
家に戻って、みんなにその旨を告げると、7日後とか言いながら皆が鼻息を荒くしている。
待て待て、ここは君らが頑張る場面じゃないから。
後でエルダに聞いた話では、王都に呼ばれて行った後中々帰って来ないのでみんなで心配していると、王家に目をかけられて王都で国家事業を指導する立場についてブイブイ言わせているらしい、との情報が代官様経由で入ってきたり、遠からずお貴族様に陞爵されるんじゃないかと言う憶測が流れていたそうだ。
実際には、社畜よろしく過労死ギリギリの線まで働かされて、区切りの良いタイミングで逃げる様に帰って来た訳だが、そんな事はここの娘たちが知るはずもない。
良い所だけメイド達に聞こえていて、ここでうまくやれば(やられれば?)、労せずお貴族のお妾の地位が手に入るんじゃなんて話で盛り上がっていたらしいのだが、ここに来てフェンディの第2婦人就任だ。
別に夫人の地位にこだわらなければ、国から支払われた報酬だけでも凄い額になっているらしいと言う話もある事だし、この先を金の心配する必要は無くなりそうだという事で、メイド娘たちのテンションは上がりっぱなしな状態になってしまったのだと言う。
「俺といい雰囲気になった娘もいなかった訳じゃないんですけどね」
と黄昏た様に言うエルダをどうにか元気づけられないものかと、小遣いを渡してプロの居るお店に行かせたのは、みんなには内緒だ。
…暫く町中で宿でもとって、ほとぼりが冷めるまで、そっちで暮らすか?
色魔なんてとんでもスキルを持っているなら兎も角、若い娘6人を含めて7人の世話?
確実に干からびてしまう。
あっと言う間に赤玉が出るって、そんなに頑張ったら。
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