第36話 聞くと見るとでは大違い?!

王都を出立して、約2週間、俺たちはトレファチャムの街に到着した。

その間、特筆すべき事があった訳ではない。

無いったら無い、この話は一応アダルト分野の話じゃないんで、途中で寄り道した温泉地でのあれやこれやについては、詳しい記述を省略する事にする。

まぁ、色々なものから解放されて、お互い二人きりで諸々発散できたのは、素晴らしい経験だったと思うとだけ書き添えておこう。

それまでお互いの境遇に聊か含むものがあったと思うのだが、そういう部分も含めて互いに吐き出し合い、絆を深め合う事が出来たのは良い事だと思う。


この馬車は、王都との間を高速で移動する高速便じゃなく、俺が運営する工房が所有している荷馬車なので、のんびりした二人での移動を愉しむ事にした。

まぁ、その分、街と王都間を繋ぐ荷便が減って工面が大変だとは思うが、それは、頑張ってもらうしかない。

ただ、乗合便の時にも思ったが、馬車の乗り心地に関しては、色々思う事があったので、街に着いたら早速改良に乗り出そうとは思った。

そんな何のかのを交えながら、実に1年近くぶりにトレファチャムの街に帰り着いた訳だが、概ね俺の知らない街になっていた。


先ず、街の入口、街門の規模が違う。

何も知らないタリンは、

「あら大きな街ねぇ」

等と呑気に眺めているが、何だこの門の大きさ、街壁の規模は!

俺の知ってる町の倍以上の規模になっていないか?

街壁の上に人(街兵)が立ってるぞ?!

俺が街を出る時には、人が動きまわれる余地なんて碌に無かったはずじゃなかったか?!

半ばパニクりながら、街門前までたどり着くと、そこには知り合いの門兵さんの姿があった。内心、道を間違えたんじゃ無いかと自分を疑いながら街門までたどり着いた身としては、知り合いに会えて一安心した訳だが、その知り合いの反応をみて色々ぶっ飛んだ。

碌に馬車の中を改めるでもなく俺に向かって

「ご無沙汰しております、クァージュどの。

1年ぶりですかね?

代官様が公館でお待ちです。

このままお通り下さい。」

と来た。


プロジェクト管理中の俺は兎も角、今の俺は全ての公職を辞して、一介の鍛冶屋のニーチャンのはずなんだが、こんな対応をされると、何か偉くなったとでも勘違いでもしてしまいそうだ。

殆ど検査される事無く街門を潜り抜け、代官公館に向かうことになった。

「もう公人じゃないんだから、勘違いしないように気を付けないとな。」

等と、タリンと見たことも無い様な街並みを見つつ話しつ馬車を街の中心に向けて進めて行くと、もう一つの街門に出くわした。

あれれ、こんなもの、1年前にはなかったはずなんだが?

等と考えながら、周囲を見渡して、やっと違和感の正体に気が付いた。

違和感を感じるはずだ。トレファチャムの町が大きくなったんじゃない。古い街を取り囲む様に、新しい市街が作られて、その外周を新しい街門が囲んでいたんだ。

新しい市街が旧市街の構造を拡大する様に作られていたので、違和感を持ちつつ中々気づかなかったが、大きくなったどころか、広さで4倍以上になっている。

内門の門兵さんもやっぱり知り合いで、顔を合わせると公館に行ってくれと、直ぐに通してくれた。

こんな事で良いのかねぇ、と首をかしげる事しばし、俺の知っている公館まで来ると、公館の建物の自体は変わっていなかったが、周囲に建物がかなり増えていた。


馬車を降りて、代官への取次ぎを頼むと、直ぐに館の中に通され、

「代官が直ぐに参ります。しばしお待ちください。」

とお茶が出て来た。

こんなに良い扱いをされるのは、初めてなんじゃないか、等と考えていると、代官様が本当に直ぐにやって来た。あ、コジ君も一緒だ。


代官様を迎える為に立ち上がり、頭を下げて礼をする。

「お久しぶりです。

ご健勝でしたか?

王都に向かう時にご挨拶申し上げたぶりでしょうか。

今日、久しぶりに街に戻る事が出来て、喜んでおりますが、

ずいぶん、街の雰囲気が借りましたね。」

等とあいさつを始め、言葉を繋いで、旧交を温めていく…

まぁ、この人、食道楽だから、新作のお菓子を持っていくと大概機嫌が悪くても良くなるんだけどね。

扱い易いんだか、難いんだか。

…今日のご機嫌は悪くないみたいだな。

「久しぶりですね。

王都では、ご活躍だったとか?!

噂はこちらにも流れてきていますよ。

おかげで、私たちもおこぼれを頂く形でたいそうおいしい思いをさせていただいています。」

と返してきた。

「このところ、と言っても王都を立つまではですが忙しくて、こちらの街の事は殆どチェックも出来なかったのですが、わずか1年程で大層な発展振りですが、おこぼれ?ですか…どの様な」

と水を向けると、嬉しそうに微笑みながら、詳しく教えてくれた。


事の起こりは、俺のリクエストに応じる為、王都との間に開設された高速郵便馬車便だったらしい。

高速で馬車を運行する為に、王都=トレファチャム間の街道が整備されて交通の便が大層よくなったらしい。

そして、馬車を運行する以上、俺からの手紙だけ等と言う空荷同然の運行では無く、スピードに影響が出ない程度に荷を乗せた馬車が運行される様になり、王都からの直送の形での荷が飛躍的に増えたらしい。

当然の事として、帰りの王都行の便も空荷のはずも無く何かを乗せていく訳だが、この街にはC&Qの生産拠点があり、当時まださほど大量に流通していなかったC&Q製の高品質なステン鋼製品が、王都当面に一気に流れ込む契機となった。

物が売れる程に商人や馬車の行き来も増え、遂には定期直行便が就航する事が決まったのだが、その頃には既にこれまでの町の規模では、訪れる商人を捌ききれない状態になりつつあったのだと言う。

今後も増える事が予測される人と物の流れに対応すべく領主様と相談の上、町の規模を大きく拡張する事になったのだと言う。

こうして、旧市街を囲む様に新しい街門・街壁が築かれ、建物も配されて行った訳だが、町がある程度の落ち着きを取には至っていない状況だそうだ。


「なるほど…、

それで門兵さんたち、あんなにフレンドリーだったんですね。

なんか、やけに丁寧で、荷も殆ど改められる事されずに、フリーで門を通れたんで、妙だなぁとは思ってたんですよ。」

とつぶやくと、アジュール氏も笑いながら、

「ハハハハハ…、

そうだねぇ、これは良い意味でという条件が付くんだが、

今、この町で君ともめ事を起こそうとなんて言う者はいないと思うよ。」

と答えてくれた。そして、それに続けて

「あぁ、そうそう。

君の所で働いている、借金奴隷の娘達だが、そろそろ年季明けが近づいて来ている娘がいて、この前面談したんだが、今の環境はとても条件が良いので、もし同じ条件で雇用してもらえるなら、継続雇用を希望するそうだよ。」

と、教えてくれた。

そう言えば、当面こっちに帰れる見込みが無くなった時点で、この人に諸々の権限の代行を委託してたんだっけ。それにしても、もうそんな時期か…、俺が居ない間に年季が明けていくなんて、なんか騙された気分だけど、やる事をきちんとやってくれていたなら仕方ないか…

「わかりました。任務態度等に問題などが無かったかメイド頭に事情を聴取して、問題が無かった様なら継続して雇用する事にします。お手間掛けいただきありがとうございました。」

と答えておいた。

後は、不在中の細々とした事を引き継いで、代官様と面談は終了だ。

待合室でお茶を飲んで待っていたタリンに声を掛けて、とりあえず今日のtころは退散しよう。

「お家が俺を待っている~♪ふ~ろだ、風呂、風呂~♪」

等と、歌なんだか、独り言なんだか、良くわからない事を口ずさみながら、屋敷に向かうのだった。

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