第34話 王都編⑱抽出場改修
真夜中と言うより明け方にウージ様に内宮に呼び出されて、抽出施設の改修案についての協議でもおっぱじめるのかと思いきや、一蓮托生とばかりに身分を明かされて、逃げ場を奪われた。実はこの兄さんは3等位の王族だった、…って、ばっちり次々期国王候補の1人じゃねーか!
3等位という言い方すると、えらいのかえらくないのかよくわからないが、これは王侯貴族なんかを含む王国民に対する正式な階級の呼称で、1位は王族で王様1人しかいない。2位も王族で原則王太子1人だ。一応いざと言う時のスペア的な意味で王妃だったり、上皇(生前に王太子などに位を譲る形で退位した元国王)もこの位になるし、細かな順位付けがあるらしいが、普通は考えないらしい。
で、3位になると王太子候補と言う意味になり、たいてい複数人の候補者がしのぎを削る状態になっているらしい。更にここからは完全に一位対応な意味での在位者が複数いるのでみんな等しく何位と言う意味で、3等位、4等位…と言う言い方になるんだとか。
以下、4等位:3等位以外の王族、5等位:大公、公爵等の王統である事が公認されている貴族籍の元王族、6等位:侯爵、辺境伯/最高位の貴族、7等位:伯爵/高位貴族、8等位:子爵/中位貴族、9等位:男爵/下位貴族、10等位:士爵/最下位貴族、11~15等位:騎士階級、階位無し:平民、奴隷、その他等となる。
基本、なんの係累も持たちようがない平民の俺が、そんなお方のブレインの1人扱いだなんて…、嫌、係累が無いから選ばれたのか?
だとしたら、いらなくなったらどうなるのか、嫌な予感しかしないんだが…
そう言えば、3回目の会見の時、談話室の両サイドを囲まれた事があったけど、あれはやっぱり偶然じゃあなかった訳だ。警護の為に囲まれて、探られてたんだよなぁ、きっとあれ。
考えてみれば、初めての俺からの面談希望だったし。何か怪しい動きでもあれば、壁の一つも突き破って切り込んで来る算段だったのかねぇ、それともそういう仕掛けのある部屋だったとか?
どっちになっても、碌な未来じゃなかった…、いや、穏便に行ってもこの未来が待ってたんだとしたら、どれを選んでも碌な未来が待ってなかったってか?!
何処で道を町を間違えたんだろうねぇ…
等と逃避気味に考えながらも、すべき話を進めていく。
今回の話は、ウージ様一人が相手じゃない。自己紹介では工技庁のお偉いさんと名乗った痩せぎすさんと、頭髪が聊か寂しくなりつつある財務省のお偉いさん、えらくガタイが良いのは近衛騎士団のお偉いさん、それと、明らかに他人事扱いで他の面々を面白そうに眺めている魔法士団の副士団長さんだ。
どうも、俺はウージ様の名代として、この方々を説得しなければならないらしい。
とりあえず、問題を整理しよう。
今回最大の問題となっているのは、全くこっちの審査を受けずに勝手に設計し、必要事項や動線を全く考慮せずに建てられてしまった抽出施設の構造なのだ。
本来、俺の想定していた抽出作業の流れは
① 未加工鉱石・スラグの搬入
② 洗浄1 > 汚水・残留物は処理⑦へ
③ 荒加工:粉砕
④ 洗浄2 > 汚水・残留物は処理⑦へ
⑤ 中加工:細微化
⑥ 抽出 > スラグは処理⑦へ
⑦-1 抽出素材は錬成工程へ
⑦-2 汚水・残留物処理・スラグ処理
⑧ 廃棄
の8ステップになる。
要は、原石・スラグ等の鉱石を処理施設に持ち込み、余分な汚れを除去して、原石をざっくり粉砕して、更に不要物を除去して、原石を次のステップで材料を抽出する際に、術士の負担を軽減できる位に極限まで粉砕して、粉末状の原石から錬金魔法を使って、モリブデン及びバナジウムの抽出を行う。
途中の処理や、抽出後に残った残留物やスラグは、環境汚染源になりそうなものは浄化処理して廃棄する、と言う流れだ。
となれば、当然、それぞれの工程で出る産物・廃棄物は極力動かさないで処理をする事が望ましい。何せ、原料を細かに粉砕するんだから、雑に扱うとその辺に舞い散る事になる。
それを想定した理想的な動線や部屋の構成・形を考え、次の工程への引継ぎも考えて各部屋の配置等を設計をする必要がある。
あるのにだ、その辺が全く考慮せずに勝手に設計され、施工が開始してしまっていた。
各工程で行う洗浄や不純物の除去に含まれる不純物の内容如何では、設備の内容や配置も考えなくてはいけないのに、その辺の検討も碌にしてない内に、勝手に工事を始められてしまったのだ、完全に施設の施工を管理する工技庁のチョンボだ。認められる様な話じゃない
各工程毎に隣の部屋にモノを移せば効率よくモノを回せるのに、何が悲しゅうて、一旦上に上げたり、元に戻したりせにゃならんのだ…
一通りの状況説明が終わり、質疑の時間となった。
先ず、工技庁のお偉いさんが
「なぜ、今ある建物をそのまま使えないのか?
今の方が建物としてみた時、合理的な設計だろうに?」
と聞いてくる
「合理的って言うのは、量産に全く向かない施設を無理に使う事を言うんですかね?
こっちは、その辺を見据えて動線を考慮した設計を考えていたんですけど?」
と返すと、
「たかが建物一つで何を大げさな?」
とおっしゃる。
「そのたかが建物一つの中身が違うだけで、生産効率が倍ほども違ってくる見込みなんですよ。
今回の案件に関して、ウージ様から最終的に何をどの位作れる様になれば良いのかについて、最終的な月産の目標量と開始時点で必要とされる最低限の製造量を提示して頂いていて、今回の失敗設計の施設では最低限の製造量の達成すらおぼつかないんですよ。
だから、こう言う形で作ってくれよとオーダーする為の視察だったのに、それを無視しして側を勝手に作っちゃったんで、仕方ないから内側の直せる部分を直して、とりあえず製造目標を達成させて、その間に問題点も考慮したきちんと設計された施設を立て直す。
これしかやり様がないでしょう?」
そう返せば、額に青筋を立てて、
「たかが平民が、王国の方針に口をはさむな!」
とおっしゃる。
「仕方が無いでしょう、その国の方針を達成するのに、うちの次世代主力商品のMV鋼が必要だっていうんですから。」
と返せば、
「それなら黙って作れば良い。」
と言うので、こちらもいささか熱くなって、
「聞こえなかったんですか?
私は次世代主力製品って言ったんですよ。次・世・代。
現時点でガンガンに量産が可能なら次世代なんて言いませんよ。
うちの工房だと量が作れないから、作り方教えるので国で作ってくださいって言う話になったんです。
そうしたら、どうすれば作れるのか?って聞くから、
こうしたらいいでしすよ、って教えてあげたら、全く明後日の方を向いた様な建物を建て始めちゃって。一体、何がしたいんですか?」
と言い返す事になる。すると、今度は、
「こんなに大規模な改修が建てたばかりの建物に行うとなると、担当技官の経歴に傷がつく。」
とおっしゃる。泣き脅しかよ?
「それに配慮して生産量を目標に達しない過少で我慢するのと、今のうちに量産に対応できる様に手直しするのと、国としてどちらが望ましいとお考えで?
お好きな方をお選びください。
お答え次第では、抽出施設の建造に関して、私は手を引きますから。
量産を求められて設計するはずの建物を勝手に改ざんされて、量産が見込めない建物を建られてしまう様な状況に、私がかかわる必要は無いでしょう。
好きにしてください。」
と突き放した。
取りなす様に、ウージ様が
「現行の設計でどの程度の量産を見込めるか?」
と聞いて来るので
「そうですね。このままであれば、月産200~300程度が限度でしょう。もちろん投入する錬金魔術士を倍にして、2交代で昼夜の別なく稼働させることが出来るのであれば、倍程は作れるのでしょうが、ね。
ただし、わたしは、この案件で製造を担当する錬金魔法士の育成も担当していますが、現時点で倍の人材育成は請け負っていませんよ。今育成している人材を使いつぶす心算で労働を強要しても、使える魔力には自ずと限界がありますから、生産量は最大でも300~500程度で頭打ちでしょうね。」
と返しておいた。
近衛兵団のおっさんが、
「今日、鍛錬場から量産試作の剣がロールアウトして来た。結構な数があったが?」
と言うので、
「あれは、私が今回の視察中に、自分の身を削って生産した材料を使って量産試作に廻したものです。現時点で、あの材料を生産…、抽出できる魔法士は私しか確認出来ていませんし、私は普通の魔法士よりいささか魔力量が大きいみたいで、1週間近くの間、馬車での移動中や宿の中で魔力を振り絞って生産して、やっとあの量が生産できる材料の抽出が出来たんですよ。
まぁ、馬車の中での作業だった為、工場の抽出作業に比べるといささか効率が悪くなったのも事実ですが、普通の魔法士があの量を抽出しようと数ると何人必要になるか…
先ほどの数字も、私が今のうちの工房の主力製品であるステン鋼の量産体制を整える際に、うちで確保した錬金魔法士に教育を施して、達成できる様になった数値からの推測量です。
現時点で抽出が出来る様になった魔法士はいませんので、実際にはどうなるか…
それと、私は今回の案件で、契約が満了した時点で王都から離れる予定です。
余り、過度の期待はしないでいただきたいですね。」
と釘を刺しておく。
すると、ウージ様が意外な事を聞いた、と言う風に、
「王都から離れると言うのは?」
ち聞いてくるので、
「そもそも私は、ここから乗合馬車で10日近く行った先にある、トレファチャムという町を本拠地としています。
今回は別件で王宮から招聘を受けまして、こうして王都まで参りましたのはご存じですよね、ウージ様?
基本、王都になんの係累もない民間人で、今は、今回の案件の為に仮の工技官の位を頂いておりますが、あくまで仮の物で、この案件へ口を出す必要性が無くなった時点で契約は完了しますし、王宮に立ち入りする権限も消失するものと考えております。
もちろん、私は本拠地に帰る予定です。」
と答えておく。
俺の言葉を聞いて、工技庁の代表殿が
『トレファチャムのクァージュ…、どこかで聞いた様な…』
とかつぶやいているのが聞こえるが、無視だ無視。
何かウージ様の表情を伺う様にしていた近衛騎士殿が
「遠路王都まで来られて、官位を得ながら、今後、王都を離れて帰られるとは、奥方でも待っておられるのかな?」
と聞いて来るので、
「残念ながら、妻を娶ってはおりません。
専修学校を卒業後、最短に近い期間で鍛冶士として独立を認められ、工房を持つことを許されました。
その後は働き詰めで…、忙しすぎて妻となる人を探す暇がありませんでした。
此度の王都滞在で、ほぼ愛人と呼べる女性と巡り会いましたが、果たして向こうまでついて来てくれる気があるのか無いのか…何とも言い難い部分ですね。」
と、話が本筋からそれた所で、休憩を入れる事になった。
あまり根を詰めて一つの話を突き詰めるのも良くないと言う事だろう。
気分転換にと出て来たのは、ミント系の香りがするハーブ茶とバームクーヘンとも何ともつかない複数の層構造を持つ焼き菓子だった。あまり生活に余裕のないこの世界では、殆ど見る事のない菓子の類だが、無い訳では無い。この前こっち(王都)に来る前にあいさつに伺った代官のアジュール様にも新作と言って献上しておいた。材料にせよ、作り方にせよ、特に珍しいものを使う訳ではないのだが、ひと手間加えねば出来ない類の菓子だ。言ってしあえば、あまり生活に余裕のないこの世界ではまだまだ今後に発展が期待される類の食べ物だ。
聞くと、最近王都でも評判の店で供される様になったのだとか。
その後、このリフレッシュが効いたのか、抽出施設は全面的に俺の意見書を参考にて改修する事で話がまとまり、程無く終了する事になった。
俺に、改修案に基づく設計変更のチェックを含む、途中途中のチェック役の立場が割り振られたのは言うまでも無い事だった。
…また忙しくなっちまったよ、とほほ…
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