第20話 王都編④市街探索?!
ハッと目が覚めて空を見上げると太陽が中天を過ぎている。
まだ、そんなには傾いていないから、昼過ぎ昼の4刻を過ぎて半刻ほど(13時過ぎ)と言ったとところだろうか。
背嚢の残りを探った結果、碌なサンプルが残って無かった事がわかって、どうしようかなぁと考えていたら、つい寝入ってしまったみたいだ。
考えてみればそうだよな。幾ら頭の中が煮えてたと言え、王宮に納めるサンプルだ、良い物から順に納めていくのは当然の事だろう。
残りものの中でめぼしいものと言えば、このカービングナイフもどきとホイッパー位か。作った時にはコジくんから絶賛をいただいたんだが、料理をしない輩から見れば、変なオブジェの様にしか見えないんだろうな。
ホイッパー。
素材を泡立てたり、確り混ぜ合わせたりする事の大変さを知っているコジくんだからこそ、絶賛してくれた訳けど。ここのオヤジだって、この道具の意味をきちんと理解できるかどうか…
地球でもこいつが普及し出したのは、ケーキや卵料理が一般でも食べられる様になった18世紀頃まで待たなきゃならなかったはずだ。
こっちで菓子と言えば、未だ庶民が気楽に食える様なものではないし、蜂蜜や蟻蜜を使った蜜菓子や芋や花の蜜などの天然の植物の甘味を使ったものが殆どだ。砂糖を気楽に使える様になるのは、向こうでも産業革命以降だったはずだから、まだまだ先の話だ。
コジくん…代官様辺りを焚き付けて、甜菜(サトウダイコン)でも探させるかね。
あれなら、王都はともかくトレファチャム周辺なら育てる事が出来ないという程気候が合わないと言う事もないはずだ。
考えが変な方向に逸れたんで、一度戻そう。
今あるやつだとうちの力を示すサンプルとしては、かなり心もとないと言わざるを得ない。確かステン鋼を使った製品は、王都方面でも人気があって、それなりの量流通していると代官様も言っていたし。探してみるか。
なんか、自分の所の製品を自分で買うのって変な感じだけど。そうも言ってられないいしな。
そんな訳で、今日もまた何でも屋の姉さん相手に相談でもしようかと、宿を出かけるところで、小間使いちゃんにばったり会ったので、宿の亭主に伝言を頼んだ訳だ。
ちょっとこれだけだと手持ちの商品サンプルとして心許無いんで、手に入れてくる。と、今あるサンプルのナイフとホイッパーを添えてだ。
そして、何でも屋まで行って、姉さん相手に話をした訳だが、やはりと言うか、C&Qの名は、こちらでもそれなりに知られているそうだ。まぁ、未だそれなりレベルでしかないらしいが。
で、調べるまでもなく案内してもらえる事になったのだが、残念な事に手元の在庫が少ないと言うことで、一見さんおの俺には物を売ってもらえなかった。
んなもん、鍛冶場の工面さえ付けば、ナンボでも打てるっつーのに、なんとも歯がゆい話だ。
仕方無いので方針を転換して借りれる鍛治場を探すことにした。
姉さんに聞くと設備は保証出来ないけど、心当たりがないわけでもないらしい。
何か奥歯にものが挟まっているというか、言葉の歯切れが悪いな。
詳しく話を聞くと、知り合いの工房なのだそうが、往時は兎も角として、最近では良い後継者に恵まれず寂れているらしい。
そんななので、設備の更新もままならない状態なのだとか。
正直、こちらの要求するクォリティを満足させることが出来るかどうか、何とも不安が残る話だが、多少の事ならこっちも錬金魔法や魔法錬成を使った力業で対応できなくもない。
と言う事で、先ずは確認をしに行く事になった。
連れていかれた工房は確かに寂れていた。これじゃぁ、姉さんが俺を連れて行くのを躊躇ったのも仕方がない、と言える程度には錆れていた。
だが、ざっと見た感じ、時折最低限の手入れはされている様で、設備が死んでいる訳でもなさそうだった。
簡単な確認を終えて、使えそうだな、と判断した俺は、
「うーん、今すぐにと言う訳じゃないけど、1日2日整備すれば当り合えず最低の仕事はできそうだね。…そうだな…明日から1週間、6日の日程で、ここを借りられる様に手配できるかい?」
そう姉さんにネタ振りをすると、手配すると言う。
何でも、ここの持ち主には顔が利くのだという、それじゃあと頼んで、ついでにとばかりに鍛冶場の稼働に必要な資材の調達をする為に、鋼材やらと燃料やらを扱っている店を紹介してもらう。
自分がこの街では一見である事は重々承知している。
なので、変にちょろまかされない様に現物を見た上での直接買い付けだ。
買った物はその場で工房に運んでもらう様に手配をする。
その間に、姉さんが工房を使う許可を取り付けてきてくれた。
最後に今回の作業の胆、スラグを買い付ける為、鉄工事務所へ案内してもらう。
残念ながら直接見て確認した上で判断したのだが、鉄材を扱っていた店では、18-8ステンを作るのに必要なクロムやニッケルは扱っていなかった。
ただ、経験から言わせてもらえば、鋼を作る鉱石には、大抵こいつらの内どれかが一定量以上含まれている事が多い。まぁ。トレファチャムで扱っている鉱石では、と言う前提が付くが。
ならば、残ったスラグにはそいつらがむしろ濃縮されて含まれている可能性が高いはずだ。
大抵のスラグ類は環境汚染の原因となるので、町から離れた所に場所を決めて廃棄されている筈だ。所謂六価クロムは有名な環境汚染物質で、皮膚病や腫瘍の原因になるだけではなく発がん性物質でもあったはずだ。
普段なら錬金奴隷たちに専用の作業部屋で防護服装備で作業させている。さすがに今回必要な量の抽出をするためだけにそんな準備はできないし、そもそも持ってきてない。適当に使い捨てを前提にした古着を購入し、魔法で必要な強化措置を行う。同じく、錬成を行う姿を見られない様にする為に中古の大型テントを購入し色々手を入れる。その辺も仲介してくれた何でも屋の姉さんも大活躍だ。多分、手数料の事を考えて笑いが止まらないのだろう。
そんなこんなで準備は整った。
なんで、こんな所に来てこんなことやってるんだろ、と一瞬余計な事が頭をよぎったが、そんなもん今更だ。
余計な考えを振り払って作業に集中する。
なに始めてしまえば集中して余計な事なんか気にならない。
好きな事には一点集中。
オタクなんざそんなもんだ。
…
気が付くと、結構な時間が過ぎていた。
魔力も使い果たして、気力も体力も限界に近い。
良く言ってもヘロヘロである。
多分、女将にばれたら、昨日の今日で何やってるんだ、とどやされる。
でも、そのおかげで、結構、色々手に入れる事が出来た。
鑑定で調べてみたところ、ここのスラグは希少な金属がかなり含まれていた。
どれも量的には大した事は無いが、それでもバナジウムは結構豊富だ。
なんで宿の鍋釜にウーツ鋼が使われていたのか理解出来た気がする。
確か、地球でも使われた鋼の鉱石に豊富にバナジウムが含まれていたからこそ出来た製品だと言う説があるそうだ。
これなら、うまくやれば再現する事が出来るかもしれない。
あ、その辺も何か資料が残ってないか姉さんに調べてもらおう。
あの人なら喜んでやってくれるに違いない。
とりあえず、抽出したこいつらは工房に運んでもらう様に手配をして、今日は終わりにしよう。
メイド頭のフェンディーネにも良く言われるけど、体を労わるのも大切だ。
こんなにヘロヘロになって、おまいう、とか誰かに突っ込まれそうだけどなぁ
さーて、宿に帰ろう!
今夜のごはんは何だろうな。
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