第17話 王都編①観光

早いもので気が付くと町を出てから10日が過ぎようとしていた。もうすぐ王都だ。

その間、魔物の群れに襲われて、みんなで力を合わせて追い払ったり、王都への出立直前に試食した携帯食があまりに不味くて慌てて試作した携帯食の試作品を周囲い食べさせてあげたところ大うけして、危うく俺の分まで喰われそうになったり、何もなかった訳ではないが、まぁ概ね過ぎた事だ。

大事なのはもうすぐ王都に着いて、王城に出頭しなければならない事だろう。


今回の旅で使ったのは乗合馬車だ。

この乗合馬車、ある程度以上の規模を持つ街ならたいてい運行されている。まぁ、規模や頻度は行き先と町の規模によるみたいだけどね。

通常運行されているのは、直行便と周遊便の2種類だ。

直行便は、特定の街(町)と特定の街(町)を結んでその間を往復する便で旅程の合間に含まれる駅はさほど多くない。言ってしまえばミクロな意味での地域の経済を繋ぐ連絡路線でそのエリアの中心都市と衛星村落を結ぶ馬車便だ。運用期間は、短ければ往復2日、長くとも往復で1週間(6日)程度の短期便だ。周辺農村からの中心都市への食料等の少量の販売等にも使われるらしい。

周遊便は半月~1か月位の時間をかけて周辺の町や村々を順々に繋ぐ様に運行されている片道便だ。基本行ったきりでグルっと1周すると元の町に戻る様なコースになるらしい。要は東京の山手線や大阪の環状線の様に大きな円を描く様に運行される馬車便で、ただし単線で擦れ違い駅もないから一方通行で運用されている感じだと思えば良い。舞浜辺りを走ってるモノレールのとんでもなく広い版と言った方が通じやすいかもしれない。頻度は電車やモノレールと比ぶるべくも無い程少なく、月にせいぜい1~2便程度しかない。こいつは弱小行商人なんかがでっかい背嚢なんかを担いで良く利用するらしい。

どちらの便も乗車料には宿泊関連の料金や食費は含まれないので、日を跨い利用する様な場合、その手の準備は自己責任となる。また、旅の途中で盗賊や魔物に襲われた場合は、協力しあって追っ払うのがマナーとされているそうだ。まぁ、自分の生き死にがかかってるんだから当然か。


で、今回利用したのは周遊便だ。と言うか、トレファチャムで乗れて王都に向かう事の出来る乗合馬車は基本これしかない。

こいつを使わない場合、トレファチャムからダナス・タルディアに出て、そこから王都行の便に乗り換える必要がある。

で、調べてみたら、運の良い事に近々王都方面に向かう周遊便があると言うので、こいつに乗る事にした訳だ。

王都まで約10日の日程で、途中村/邑に3泊、街/町に3箔、駅に3泊を予定しているそうだ。

駅と言うのは、馬車を走らせて次の町や村まで1日以上の工程が見込まれる場合に設置される馬車停泊用の施設の事だ。基本無人で日よけや井戸・厩がある程度の簡素な施設が普通らしい。まぁ、狭い馬車の上では無く、板の上で外套に包まって、とは言え手足を伸ばして寝れるだけでもありがたいと言うことだ。

運が悪いと旅人の懐狙いの盗賊団の根城にされている、なんて事もあるらしい。

一応、国が定期的に賊の掃討を行っているらしいが、何処からか事前に情報が洩れて、その時だけ逃げ出している盗賊団もいるらしいとはよく聞く話だ。


で、今回は比較的近い時期に掃討を行ってくれていたのか、盗賊団には遭遇しなかったが、魔物の群れには遭遇した。

それ自体は運が良かったのか、比較的簡単に駆逐できたのだが、その際、運行側の食料を持っていかれてしまった。

まぁ、ご当人たちは、あんなまずいもんどうでもいいんだ、等と豪快に笑っていたが、夜になって腹を鳴らしながらひもじそうに、かろうじて残っていた干し肉なんかをもそもそ食べているのを見かねて、余剰分の携帯食の提供を申し出たら、まぁ遠慮なく喰うわ喰うわ。危なくこっちの必要な分の食料まで喰われてしまう所だった。


王都が見える様になってから2刻ほど、ようやく街門前にたどり着き、入街審査の列に並ぶ事が出来た。

王都に入るまで後ちょっとだ等と安心したのがいけなかったのか、俺のところでトラブった。何のことは無い、傭兵でもないければ冒険者でもない、ただの町人が許可も取らずに大量の武器やら何やらを王都に持ち込もうとしているのが引っ掛かってしまったらしい。


こっちは、別に探られても痛い腹がある訳でも無し、素直に事情を説明をしたんだが、貴族でもなんでもないただの平民に王城からの呼び出し?考えてみればこんなに怪しい話もあるもんじゃ無い。やっと王城に問い合わせをしてもらえる様になるまで、何度同じ説明を繰り返す羽目になったか、さんざんな目に合う事になってしまった。


ようやく、門を通って街に入れたと思ったら、既に日もとっぷり暮れた後で、これから宿を探さなきゃならないのかと思うと、ため息しか出ない有様だった。


おのれ門番ども、覚えておけよ。王城できっちり文句を言ってやるならな!

等と思っていたら、さすがに悪いと思ったのか、交代時間でもうすぐ非番になる兵士の一人が、これからでもチェックインできる宿まで案内してくれた。

実は、こういう事は結構ではないにせよあるものらしい。


と、いう訳で宿に泊まって旅の疲れを癒した後、そのまま王城に出頭するのも何となくシャクだったので、とりあえず王都観光で気晴らしする事にしたのは俺様クオリティと言うものだろう。

何せ、召喚状には特に日にちの指定は無かったのだ。

どこそこの誰兵衛は、王都に来て誰それの元に出頭せよ位の事しか書いてないのだ。

たぶんあまり細かい事を書くと、日程的に来れなくなるやつが続出するからなんだろうが、それなら1~2日観光に日程をあてても誰も怒らないよな?!

と言う訳で、まずはガイド(何でも屋)を雇わねば。


この手の大きな街には、戦闘以外なんでもやります的な事をうたっている何でも屋が大概いるものらしい。口入れ屋で聞けばわかるんだろうけど、あそこは規模が大きいだけに結構やる事が雑な部分があるのはご存じの通りだ。しかも結構な手数料をふんだくる。

とりあえず、宿の女将に心当たりがないか聞いてみたら、あると言う。

言われた所に行ってみると、行った先には雑貨屋?的な店があって、やる気なさげなおっさんが店番をしてたんで、宿で紹介されたんだけどと言うと、裏の方から鼻息も荒くやる気満々な姉さんが出て来た。

何をすれば良いのかと聞くので、2日程かけて王都の名所の観光案内を頼みたいと言ったら、何かあきれられた様な雰囲気で見られた気がしたが、それならこれ位の報酬でと言うのでOKした。

せっかく王都まで来ていざ観光と言う段階で、ガイドと延々値引き交渉なんて野暮の極みだしね。

どうも値引き交渉をしなかったのが良かったのか良い客(鴨)だと思われたらしくて、早速観光にいく事になった。

出来れば小型馬車(観光地にある人力車的なもの)をチャーターしたいと言うので、値段を聞いたてみら、これも案外お安かったのでそれもOKしたら、即店に連れていかれて空いてる小型馬車に乗せられて王都観光がスタートした。

さすがにそれなりの料金を取るだけあって、めったにない観光案内だと言うのに、行くべき場所を心得ていて、効率良く案内してくれる。

2日かけて王都の有名な名所をあらかた巡る事が出来た。

行った先々で飯をおごらされたのは、まぁご愛敬と言うものだろう。


そんななんのかんので疲れて宿に元って見ると、なんかこめかみに青筋浮かべたおっさんが俺を待っていた。

待ち合わせなんてしてないはずなんだけどなぁ。

宿の女将が、おっさんが俺の事を朝から待ってたと言うので、お待たせして申し訳ないと一応下手に出て挨拶したら、ギャーギャー五月蠅い事五月蠅い事。

話を要約すると、

「王城から召喚されて王都に着いたのなら、何でとっとと出頭しないんだ。いい加減にせいよ、平民風情が。」

って事らしい。

そんなこと言っても、出頭の期日とか書いて無いじゃん。

素直にそんな事を言ったら、きっと更に怒りの火に油を注ぐ様な事になるだろうから、下手に出て

「へへぇ、申し訳ございません。」

と答えてみたら、多少は溜飲が下がったみたいで、

「明日の朝、昼の2刻の鐘が鳴ったら召喚状を持って王城に出頭する様に」

と一方的に申し付けてとっとと帰ってしまった。


女将さん、入り口に塩まいといて、って言っても通じねえよなぁこっちじゃ。


「悪いね、女将さん。今日はさぞかし宿の雰囲気悪かったろう」

と言って、迷惑料込みの多めのチップと食堂でたむろしてた連中に一杯やれるだけの金を渡して、部屋に戻る事にした。

幸い食事は、何でも屋の姉さんと済まして来たし。

どうもあの姉さん、俺にはたかれると踏んだのか、自分じゃ普段めったに行けない様なお高い飯屋に案内してくれていた風だった。

まぁ、値段が納得出来るだけの味だったから文句は無いけどね。

そうでなければ、初日で契約打ち切ってた所だぞ。


コン。コン。

そんな事を考えながら部屋で寛いでいると、ノックの音がした。

宿の下働きの娘が体を清める為のお湯を持ってきてくれたらしい。

お礼を言って、チップを多めに渡し、ついでに王城までの道と所要時間を聞くと、俺の考えていたものと大差ないルートと時間で行けるらしいとの事。

それなら昼1の鐘で起きて、朝飯食って身支度してからで十分間に追うだろう。

体を清めてベッドに横になりながらそんな事を考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

観光で疲れてたのかねぇ。

仕事柄ハードな状態は自信があったんだけど。

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