第16話 後始末はしっかりと
ピンク・トロールの処刑が終わったと、王宮から連絡があったらしい。やるだけの事をやったんだから最期くらいキッチリきめてくれるのかと思いたかったが、さにあらずかなり見苦しい最期だったそうだ。
おれは、そう言うのは殆ど興味がない、と言うかグロ耐性低いんで勘弁なんだけど、下種で有名な御大の処刑という事でかなりの評判になり沢山の観衆が集まったらしい。
そんな訳で、そろそろ後始末のシーズンの到来だ。
手間取りいただいたご領主様には、C&Q社謹製のステン製品各種詰め合わせセットと最近やっと試作品が完成したMV鋼を使った大剣、長剣、短剣の3点セットを進呈するとして、勅使様も同じもので良いか?いや、実用性を考えれば、屋敷内での取り回しの楽な短剣やコンバットナイフ、ククリナイフの3点セットのほうが良いだろう。
代官様は、基本文官だし変なもの送るよりむしろ試作料理の試食権とかの方が喜ばれそうだよな。グルメだし。
王家には、どうしたものか…等と悩んでいたら、向こうからリクエストが届いた。取り敢えず王都に来いとのご用命だ。
どんな事になるかは全く分からんが、暫く工房を空ける事になるのは間違いない。
1~2ヶ月位はいなくても良い様にしないと、と考えた時点で気が付いた。
気が付いてしまった。最近、試作・研究と特注品の製造以外の仕事で工房に立って無かった事に。
もしかしてルーチーンの仕事に俺はいらないかも。
弟子どもも最近はかなり頼りになる様になったので、仕上げ研ぎや検品もほとんどを任せていて、俺の仕事は出来のスポットチェック位だ。
誰か弟子の中から一人選んで、仕事のコントロールを任せようか?
むしろ輪番制や合議制にして日替わりでやらせるのもありかもしれない?!
とりあえず、どの程度任せ得るのか、久々に腕を見てやるか!
等と意気込んで、工房に乗り込んでみたものの、
・C&Qブランド 外部委託品の検品:OK
・クァージュ工房ブランド マスプロ品の生産:OK
・クロムとニッケルの抽出:OK
・ステン鋼の生産:OK
・クァージュ工房ブランドステン鋼生産品の生産:OK
・C&Qブランド ステン鋼生産品:OK
・認定鉄鋼材の注文:OK
って、ちょっと待て。それ俺のサインがいる奴じゃね?
え?代わりにサインする奴がいる?
それって偽造じゃねぇの?
そんなの誰も気にしない?
何か問題でも起きなきゃばれないって?
そんなの容認できるわけないだろ。バカちんがぁ!
くそ、外部との諸々のもめ事にかまけ過ぎていたかもしれん!
むしろ俺の居場所がなくなってるじゃねぇか!
…
とまぁ焦りはしたが、考えてみれば、このままのんびりと特注品だけ作って過ごせるんなら、ある意味、希望の通りのスローライフが楽しめるのかもしれない。
どういう訳か、このまま平和な日々が続くとも思えないのんだけどね。
なんでだろう?
っと、そんな事より、王家からのお呼ばれなんだから、早く準備を終わらせて王都に行かなきゃ!
とりあえず、俺のいない間の屋敷の事は、メイド頭のフェンディーナ女史にお金を多めに渡して頼んでおけば大丈夫だろう。
あの人しっかりしてるし。
錬金奴隷の統率は、奴隷頭のペンカースに任せておけば基本的に大丈夫だ。
問題は工房全体の統括だけど、だれかいないか?
ここ暫くの働きっぷりを見る限りでは、今のままの弟子たちの間の合議制でやらせておくのが一番当たり障りなさそうなんだけど…、むしろ誰かに任せると、そいつが専横して暴走しそうで不安しかないしな…
うん、合議制で進めさせる事にしよう。
あとは…
お代官様に後見をお願いしとくか、コジくん(コジーニ氏の意)じゃ、料理器具関係以外ちょっと宛に出来ないし。
MV鋼関係は、未だ俺しか作れないし…
モリブデンにせよ、バナジウムにせよ、単独なら放置しておいても大して危険なものではなかったはずし、むしろ人体には必須元素っぽいし、ただ化合物になると発がん性とか出るんだっけ?
そもそも融点が高すぎるから、この世界の技術じゃ工業的に単離出来ないのがきついよな。地球でもそう言う形でやろうとするときついらしいけど。
まぁ、濃度さえ考えなければ、それ自体そんなに珍しいものじゃないらしいが、単独でその辺に転がってる様なものでもないらしいので、いまいち理解が追いつかないみたいなんだよなぁ、奴隷達の。
今後、その辺の教育をどうするかが、うちの工房がこの先も発展していく為には大きな課題になるのかもしれないな…
あ、そうだ、せっかく王都まで行くんだからステン鋼の上位鋼材として期待されている新素材って事で、MV鋼製品のサンプルを作って、献上しておくか?!
確か、ステンより耐摩耗性が高いから切れ味が落ちにくくなってるはずだし、耐錆性も上がって錆び難くなっているはずだよな?
その分、手入れは大変だけど。その辺は説明しておけばいいことだし。
うん、何を作ろうかな…
そんな感じで、あちこち脱線しながら準備を進める事約半月、やっと王都へと旅立つ準備が整った。
工房の後見は、結局お代官様にお願いした。
俺が知っていて、何かを頼める人の中で、一番バランス感覚が優れた人物だからだ。
お願いには俺謹製の新作菓子を土産に持って行った。
どうも、氏は俺に後見を頼まれる事を見越していた様で、それ自体はすんなり受け入れてもらえたのだが、新作菓子には大絶賛で中々離してもらえなかった上に、何を嗅ぎつけたのやって来たコジ君と二人で絡んできて、全く返してもらえなくなったのには辟易した。
結局この件では、後日王都からかえって来たらコジ君に作り方を伝授する事を約束する羽目になったのだが、出来るのか?あれ。
だって使う糖分の精製に錬金術とか使うんだよ?
いくらC&Qの絡みで最近工房に入り浸っているとは言え、あんた錬金魔法つかえないだろ?!
錬金奴隷を促成栽培…じゃない、教育した時みたいに、スパルタでやってやろうか?
料理以外に全く興味を示さないあんたが、いつ音を上げるのか楽しみだよ?
クックックック…
さて、後は明日の正午に出る乗合馬車に間に合うように行けば、10日もすれば王都だ、どんな所か楽しみだな。
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