第15話 暗転と思いきや

脂ぎっていて実に不味そうなピンク色の肌をしたトロール(仮)くんは、何やら意味不明な事を好き放題言い放った後、俺が答える暇も与えず帰ってしまった。


余りの意味不明さに何も答えられずにいるうちに、馬車に乗って帰ってしまった訳だが、なんで馬車から降りる時あんなに苦労してたのに乗る時はスムーズだったんだろう?

と言う本筋とは全く関係のない印象しか残らなかったのだが、一部始終を目撃していた料理番のエルダ君が解説してくれた。


曰く、

家を訪ねて来たピンクトロールの名前は、マルク・ブレヒノール。この王国で伯爵 家の位を賜っている名門ブレヒノール家の主人だそうだ。

かつて、王統に連なる事を許された名門:ブレヒノール家であるが、不運が続きすっかり落ちぶれてしまった。

ついては、お前の持つステン鋼の権利を使ってやるからよこせ。

権利の委譲には色々な手続きが必要だろうから、その準備に何日かくれてやるので、その間に準備しとけよ

よろしくな。

だそうな。


全く、ボラギ〇ールだか、ブレビノー〇だか知らんが迷惑な。

善良な市民相手に恐喝かい!

人が過労で死にそうな目に合いながらどうにか形にした事業を、後からきて旨い所だけ丸のまんま持っていこうだなどと、天が許しても俺が許さん。


とは言え、相手は没落したとは言え、お貴族様だ。

きちんと対応を考えておかなければ、どんな手を使ってくるかわからん。

俺の知己でお貴族様相手に多少なりとも顔が利くのは、代官公館料理番のコジーニか、その上役で代官そのものであるアジュール氏位しかいない。

他は殆ど平民のお客さんでこういう時に頼れる相手じゃない。

確かこの町は子爵領だか伯爵領だかの一部で、アジュール氏はそのお貴族様に委託されてこの町を治めていたはずだ。

どうにかその辺のつてを使えないものか…


まぁ、前世から庶民の俺程度が考えても、どうにもならんか…

何か良い手が無いかアジュール氏に相談してみよう。

そう考えて、ちゃちゃっと出来る土産を台所ででっち上げて、代官公館へいく事に。

運が良い事に、今日はアジュール先生、公館で執務中だそうで、暫く待っていると割と直ぐに執務室に通さしてもらえた。そこで今日あった事を簡単に説明すると、いきなり頭を抱えてうなり出した。


どうも、ボラギ〇ール家は現王家との血統的つながりを前面に出して、うまーくおいしい所だけを進呈する様に恐喝をしては、お金をむしりとる事で有名な碌で無しだった様だ。アジュール氏か知っているだけでもかなりの数、ひどい事をされて泣き目に合った領民(平民)も多いらしい。


いやらしい事に今まではっきりとした尻尾を出すことなく、王宮からの追及をのらりくらりとかわしてきたらしい。

正直、俺としては今の工房が維持できるのであれば、ステン鋼の利権なんてどうでもいいのだが、そんな事をすれば頭に乗って何をして来るか分かったもんじゃない。

その辺の心積もりを説明して何か抜本的な対策が出来ないか検討していくうちに明光らしきものが見えてきた。

確りとした根回しが必要で、タイムリミットまでに成功するかどうかもわかったもんじゃないが、何もせず手をこまねいているよりましなのも確かで、何より何もせずにいれば負けは勝手に確定してしまう。それだけは嫌だと言う俺の意向もあって、とりあえず感触を確かめて貰える事になった。


さて、骨を折ってもらう以上、成功してもしなくてもお礼は必要になる訳で、どうしたもんかな…

あんまりあからさまな物じゃ、お貴族様のプライドを傷つけるかもしれないし、かといって、あまり安っぽいものだと、お礼にならない可能性がある…うぅむ。

そういえば、C&Q事業って、ここ領主様のお声掛かりで始まったんだっけ?

なら、こんな感じでどうだろう…

最近、新素材の研究以外で鍛冶場に殆ど立ってなかったしなぁ…


そんな感じで諸々の準備を進める事数日、アジュール氏から手配が事の他スムーズに整った旨の連絡が来た。

どうも、件のボラギ〇ール家の専横は王家側からしても目障りな問題となっていたらしく、王家もお灸をすえるタイミングを見計らっていたらしい。

王都から使者様が直ぐに来てくれて、万事調整の上で準備を進めていると、来たよ来た来た、来ましたとも、ピンク色のトロールくんが、チンドン馬車に乗って。


他人事ながら、金に困っているのなら、ちっとは喰うのを控えたり、この無駄に派手な乗り物をやめれば、ちっとはマシになるんじゃないの?、とか好き勝手な事を考えていると…

王家の名において権利を接収する位の事を言い出しちゃったよ?

この人。

良いのかねぇ、そんな事言って、後ろで聞いてる使者様、今頃、こめかみをピクピクさせながら、怒鳴り声をあげるのを必死で我慢してるぞ、きっと。


こみあげてくる笑いを必死でこらえつつ、畏まって(顔を見られない様に)頭を下げ、ご高説を拝聴していると、いよいよクライマックスに到達したのか、俺から権利を取り上げる為に何やら契約書様の紙をを突き付けて来た。

あ、これって魔法契約の証紙だ。

なるほど、そうやって利権だけ吸い取る様に人々を食い物にしてきたのか。

このやり方なら契約が終われば証紙は勝手に消滅するし、王家の関与を全く伺う事は出来ないし、天罰も下されないって訳だ。

特許を侵害するのではなく、その利益の上澄みをかすめ取るだけだったとはね。


俺が神妙な顔をして羽ペンを手に持ち、証紙に手を文字を書く振りをする為のアクションを始めた段階で、

「ちょっと待ったぁ!」

使者様が待ったをかけてくれた。

ここぞというタイミングで邪魔が入ったので、トロールめ目を白黒させているが、証紙には既にこいつの名前が書いてある。

王家への重大な裏切り行為の証拠、と言う訳だ。

使者様が勅命監察使を名乗って、トロール氏を縛り上げようとすると、グダグダ言い訳を始めるが、今更そんなもの、受け入れる訳無いだろ、ここにいるのはお前の幕引きをする為に集まったメンバーなんだからな。


あえなく証拠の契約書を没収され、王家の関与を伺わせてだまそうと演説を行ったことへの証人も、監察使様を含めて多数確保している。

今更、逃げ道なんてあるわけないんだよ。

あんたにふさわしい場所に送ってもらいな。


その後、捕らえられたピンク・トロールくんは余罪も含めて追及され、全部?きれいに自白した(させられた)上で、罪を償う為獄門台に登ったそうだ。処刑法は絞死刑だったそうだ。

かなり評判になった処刑で、特等席になる広場に面した民家の部屋はかなりの高値で貸し出されたらしい。

因みに、この世界では凶悪犯の処刑は原則、公開処刑で処刑方法は処刑の素となった罪によって変わったはずだ、一番楽なのが一瞬で死ねるギロチンで、次が絞死刑、逆にかなりひどい罪を犯した奴は、薬を使った薬殺刑で薬を打つ執行官の加減次第で死ぬまでの間さんざん苦しみ抜く事もあるらしい。そういえば牛裂き刑なんてのもあったな。こいつもケースバイケースで死ぬまで苦しむ事もあるって聞いたよ。

日本でも不義密通は二つに重ねて四つに分ける何て刑があるって聞いた事があるけど、本当かね?!

そういえば、文明人ぶって気取っていても、フランスじゃあ1939年までギロチンの公開処刑をしていたそうだ。人間なんて所詮そんなもんだんだろう。


--------------------------------------魔法契約について

魔法を介在させる事で魔法的な強制力を持たせた契約。奴隷契約でも使われる。

二者間で交わす契約の場合、一般的に3通同じ内容のものを用意して、それぞれが1通づつ持ち、最後の1通を魔法契約に使うが、略式なら1通あれば良い。

契約に関する条件を描いた魔法契約用紙にそれぞれが署名し血を垂らす、署名者同士がその内容に納得していれば、契約は有効となり、契約書は消滅するがそれぞれの当事者の体のどこかに契約印が現れる。この状態で当事者の一方が契約を履行すれば、もう一方にも強制力が発効する。

例えば、AとBの間で大金貨1枚の対価に10日間の役務を果たす契約をしたとする。契約後、AがBに大金貨1枚を支払ったとすると、Bには10日間の役務を果たす義務が生じる。が、Bがそれを果たさない場合、Bには精神的肉体的な苦痛が課される事になる。ちなみに、それでも果たさない場合は、熱死すると言う噂があるが、正しいか否かは定かではない。(死んだら、それが正しいか否か報告出来ないんから当然である。)










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