インターミッション1 小泉小夜子(18歳)の場合
私がこの世界に来る事になったのは、地球で人類が過剰に繁殖しすぎてしまい、間引きする必要が出来たとかで、その対象に私が選ばれてしまったからだ。
何で私がと思わないでもないが、現在80億人からいる世界の人口を10億人以下に減らす必要があるそうで、そう言う意味では人類の殆どが早かれ遅かれ間引きの対象になるはずなので、早いか遅いかだけの問題なのだろう。
何せ間引き対象の選択は無作為に行われるそうなので、変な時期に選ばれると社会が大混乱した状況で生きていけねばならず大変な苦労をしそうだ。
育ててくれた両親には申し訳ないが、そう言う意味では運は悪くなかったのだろうか?
あ、大学受験を控えて、ほとんど遊びに行く事も出来ない様な状況だったから、むしろラッキーだったのだろうか?
頑張って合格をもぎ取って喜んでいるタイミングで間引かれた日には目も当てられない。
どうやら私は運が良い?事に、これから剣と魔法の世界に転生出来るらしい。
そんなのラノベの世界だけの話かと思ってたよ。
私の適性や希望に合わせて色々盛れるらしいので、少しだけ楽しみだ。
…
キャラ作りは、結構大変だった。楽しくもあったけど。
結局私は、自分の適性じゃなく希望を優先して、ホビットの魔法使い:サーヤとして生きる事にした。女性の魔法使いだから魔女って呼ばれるのかな?
ホビットはあまり魔法使いには向いてはいない種族らしい。日々旅をしながら暮らしていく、放浪者の種族だと言う事だ。
本当は、魔法使いに向いた魔族って種族(エルフ)もいたのだが、どうも個人主義色の強い一定のエリアに引きこもりがちな種族だそうで、その辺が私の希望に合わなそうなので断念する事にした。
せっかく転生するんだから、色んな所を見て回りたいじゃない?
ホビットは種族的には俊敏さはあっても体の頑強さや力強さに欠けるらしい。
最初は魔法剣士になるのを希望したのだけれど、それは難しい様だった。
何せ背が低く筋力が弱過ぎるので、大きな剣の類が持てない。
普通の大きさの剣を背負っても引きずる事になるのだから、ダサすぎて草しか生えてこない。
でも、旅暮らしで何も闘う術がないのも厳しそうなので、ダガーとショートボウで武装する事にした。一見レンジャー(野伏)風だが、魔法も使えると言う設定だ。
ダガーとショートボウを持ってそれらしく振舞う為に、短剣術と短弓術のスキルをそれぞれLv2で取ったのは、ポイントがもったいなかっただろうか?
旅暮らしをする上で、荷物は少ない方が良いだろうと言う事で、ショートボウは弓琴と言う弓と楽器の間の子の様なものにしてみた。これなら、吟遊詩人みたいな事をして日銭を稼ぎながら旅が出来る。野宿なども多いだろうと言う事でその辺の技術も取った。
魔法の能力を強化する為に、魔法の才能と言うスキルを取る事にした。
これがあると、あまり魔法使い向きでない種族でも大きな不自由なく魔法が使えるようステータスに補正が入るらしい。魔法のLvが上がると増えるMPの最大値が余分に増える可能性も上がるらしいのだが、結構コストの高いスキルだったので、魔法のLvをあまり上げる事が出来なかったのは残念だ。
…
なんのかんのと言いながら、私が転生先で生きてゆく為のキャラクター作りが終わった。
個人的には、少し色物じみている気もするけど、行く先の世界に全くいないと言うほど珍しいキャラクターでもないらしい。
今まで、親に言われるままに何となく生きて来た私としては、珍しく自発的に考えて作りあげた結果がどう出るのか、楽しみであり怖くもある。
神様は、私たちの存在自体だけで十分な刺激となるので、そんなに構える事は無いと言ってくれるが、私たちのこれからなす事の成否がこの世界に及ぼす影響を大きくすることもあればほとんど無いものにすることもある訳で、全く構えないと言うのも難しい。
ぶっちゃけ、後は1歩踏み出せば、転生する事になるのだが、その1歩を踏み出す勇気が出てこない。
自分って、こんなにビビりだったのかな?とか思わなくも無いが、考えてみると今まではほとんど失敗の責任を親に押し付けてきたような気がする。
ぐずぐず躊躇っていると、後から来た誰かがほとんど躊躇わずに踏み出し転生していくのを感じた。
すごいな。怖くなかったんだろうか?
他に転生する人は、今回は36人いるらしいけど、どんな人たちだったんだろう?
神様は、他の人たちの事は教えてくれない。
私たちは、みんなで小さくまとまって暮らしていくのでは無く、一人一人がそれぞれ別々にそれぞれのいる地域の社会に参加し暮らしていき、可能であればその社会の発展に貢献する事を期待されているのだそうだ。
だから、別の転生者を見つける鍵の様なものは無いし、与えられないらしい。
私が転生を許された先は、中央大陸/サイファデール・カノラと呼ばれる地だそうだ。その中でも、比較的気候の穏やかな東部地域の中心的都市/ダナス・タルディアの近くに転生することになるらしい。
季節的にも、光の季の始め、日本の初夏に相当する時期で、日中は暑すぎもせず、夜も寒くなる事も無い、旅をするには良い季節らしい。
そういえば、この地方には四季に相当する季節があるそうだ。
私の感覚では四季は春夏秋冬だけど、こちらでは緑の季(春分~夏至)・光の季(夏至~秋分)・実りの季(秋分~冬至)・闇の季(冬至~春分)と呼ぶそうで、それぞれが30日毎に上の月・中の月・下の月に分かれていて、それぞれの月は5週間に分けられて、更に1週間は6日に分けられるそうだ。そして季節と季節の間に季移りの祝祭日が設けられ、緑の季の始めには新年の祝祭日、4年に一度実りの季の始めには祝実の祝祭日が設けられているそうだ。これで1年は365.25日になるらしい。
今は光の季・上の月だそうで、日本なら6月頃のやや強い日差しの中、新緑と言うにはやや濃くなった緑に囲まれて旅を出来るらしい。そんな事を考えているうちに、自分がほとんど何も躊躇わずに第1歩を踏み出したのを感じた。
それまで白い靄に隠されていた世界が急速に色帯びて、輪郭を取り持っていく。
と同時に、自分が体を新しい体を得たのを感じる。
小っちゃい手だ。
データとしては理解しているつもりだったけど、実際になってみるとこんな感じになるんだ…
ふと前を見ると遠くに小さく街並みの様なものが見える。
たぶん、あれが当面の目的地、この地方の中心都市、ダナス・タルディアなのだろう。
「よろしくね、ドゥーム世界」
ふっと心の中から言葉が出てきた言葉をつぶやいて、私はこの世界での第1歩を踏み出すのだった。
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