第13話 初めての奴隷契約
こちらに来てから1年少々が過ぎようとしていた。
あれからもうちの工房の状況は悪化?の一途をたどって行った。
いや、悪化じゃねぇだろ、業績は右肩上がりに上がってるんだし、等と悪魔のささやきが聞こえた気がするが、そんなはずはない。
魔力切れになるまで魔法錬成で素材抽出にいそしみ、魔力が切れれは切れたで気力か体力が危険ゾーンに入り込むまで鍛冶仕事いそしまなければならない日々、そんな日常が、どんなに業績が上向いていたとしても、悪化以外の何物であるはずがない。
心が折れて家に引き籠ろうにも、家が仕事場(工房)じゃぁ全く意味がない。
金に目が眩んだマッチョな弟子どもに、籠った寝室のドアをぶち破られて、錬成部屋の閉じ込められたところで、心底どうにかせねば死んでしまう、と思い悩んだのはほんの数か月前の事だ。
それで、色々悩んだ挙句、奴隷を買う事にした。
奴隷と言うと、現代の地球人にしてみれば、TVの影響かなんかで、体のどこかに焼き印か何かを入れられて、主人の所有物として非人道的な扱いを受ける道具的存在を思い浮かべるかもしれないが、こちらの世界での奴隷は、むしろローマ帝政期の奴隷制度に近いもので、主人の所有物である事は確かなのだが、財産の所有権なども認められ、貯めたお金で自分を買い戻す権利のある人格権を認められた存在だ。ただし、無条件に権利が認められるはずもなく、重犯罪を犯した為に奴隷に落とされた重犯罪奴隷や、敵軍にいて戦争犯罪者扱いとなって捕らえられた者が落とされる戦争奴隷には原則人権に認められないそうだ。
因みに、この世界でも人権と言う概念は存在するが、それが現代地球の先進国の様に温いものではなく、自分の人権は自分で守るもの位の厳しい感覚が必要とされるものとなっている。
何故こんな事を言ったのかと言えば、この世界にある奴隷制度と言いうものは、弱者救済の為のセーフティネットの側面を持っており、実際に奴隷の半分以上は借金奴隷と呼ばれる存在で、そのうちの半分以上が税金を払えなかった為に奴隷落ちしたか、家族の税金を払うために自らを身売りする形で借金奴隷となった者なのだそうだ。
地球のどこぞの先進国の様に、労働意欲も碌に無い阿呆にナマポだ等と言って税から金を与え飼い殺しにする様な甘っちょろい社会では無く、最低でも自分権利を主張する為には自分で自分を守る事が求められる世界なのだ。
借金奴隷に関しては、税金代わりに奴隷落ちした者は税金相当額(+そいつが奴隷として売れるまでにかかった諸経費+買われた後そいつが生きていく為に必要な費用+奴隷商の利益)を贖える事が出来るだけの期間、自ら借金をして奴隷落ちした者はその借金を返済する事が出来るだけの期間、奴隷を購入した者の下で役務を務める義務が生じる。奴隷を購入した者は、購入した奴隷に役務を課す事が出来る代わり、最低レベルで良いのでその奴隷が役務に就く事が出来るだけのレベルの衣・食・住を与える義務が生じる。なお、奴隷の希望で必要以上の待遇の向上を行う場合、その待遇向上に必要となった分のコストを役務期間に加える事は正当な行為として認められる。
先も書いた通り、重犯罪奴隷と戦争奴隷(戦争重犯罪者相当の者)に関しては、基本的に死刑に準ずる重労働などが死ぬまで課せられる。
因みに、死刑に準ずる重労働とは、就労者の致死率が高い鉱山に鉱夫として送りこまれるか、闘技場で危険な動物や魔物と戦う闘士にされるか、稀にあるのだが死ぬ危険性が高い高難易度の任務を課されるか、の何れかだそうで、これもやはりと言うべきか、賦役相当分の労働をする事で、奴隷身分から解放される事もあるのだそうだが、さすがに、必ずではないらしい。
最後に、重犯罪者ではない犯罪者や戦争犯罪者扱いを免れた戦争奴隷(捕虜)などについては、むち打ちなどの何らかの刑罰が科された後、相応の賦役(生きていくだけでも金は掛かるのだ)を課されたのち解放される事もあるのだそうだが、刑の執行時点で何らかの負債(罰金・賠償金等)があり支払う事が出来なかった場合、犯罪奴隷落して、債務の償還に努める事になる。この場合、普通の借金奴隷より厳しい扱いになるらしいが、借金奴隷に準じた扱いで金銭で売り買いされる事を許される者もいるらしい。
今回俺が購入したのは、この犯罪奴隷のうち基本奴隷身分からの解放が認められていない奴隷で、その中からINT値・MMR値・MP値がある程度以上高くて、錬金魔法に適性があり、教育次第では俺の代わりに魔法錬成でクロム等の抽出作業する事が出来ると期待できる者達だ。
彼らには、通常課せられる労務(工房での下働き)に加えて、毎日少しずつ教育を受け、錬金魔法を覚える義務が課される事になる。
もちろん、錬金魔法を覚えた後は、それを使って素材の抽出や錬成をする事になる。
日々のきつい業務(ノルマ)をこなしつつ、その上で更に奴隷たちに教育を施すのがどれほど辛かったか。
その甲斐あってか、彼らが俺の期待に応えてクロムの抽出を達成した時には涙がちょちょぎれて止まらなかった程うれしかった。
彼ら解放を禁じられた犯罪奴隷は、犯罪に対する忌避感が比較的低く再犯の可能性が高いと判じられた存在である。その為、例え購入時に支払った金額を相当の労働力で贖った後でも解放する事が禁じられており、そういう意味では俺にとって実に都合の良い奴隷たちだった。
ただし、重要な知的労働ポジを担うものたちなので、日常生活ではそれなりの待遇を与えらている。ただし本当の意味での行動の自由を与えられる事は生涯ない事が通常の借金奴隷とは異なる。
彼らの投入と、その後の購入した後続の犯罪奴隷たちの投入で、うちの工房のドル箱錬成物、ステン鋼の量産もかなり捗る様になり、俺もようやく枕を高くして寝る事が出来るようになった。彼らにしても魔力的には毎日きついかもしれないが、奴隷商館の奥で牢に入れられて延々購入されるのを待っている状況よりよほど良い生活が出来る訳で、良かったのだろう。(あまりに長い期間売れないと結局鉱山送りになるそうだ。)
と言う訳で、今後はあまりやらかす事無く静かに暮らしていこうと、心にひそかに誓い、今ある普通に寝起きして生活できると言う幸せを嚙み締めるのだった。
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