怨
あの後俺はロズミスティを寮に送り届けたあとしっかりと残りの訓練を行った。しかし、彼女の異常な強さに対する執念が頭にちらつきどうにも集中できず、早めに切り上げて戻ることになった。
そして次の日。いつものように登校すると教室がざわめいた。
――昨日、王女がボロボロで寮に帰ったって
――王族にも容赦なしかよ。あの王女とはいえ…恐ろしい
どうやら、昨日の王女の様子が早くも噂になっていたらしい。まあ、寮に帰るまでに結構な人数に見られてたから仕方がないと言えば仕方がない。
『相変わらずみみっちいわね。こいつら言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。聞こえてるけど。あの王女…ロズミスティだったっけあの子とは大違いね』
『盛り立て役のくせしてほんと陰気ね。つまらないわ』
『まあ、そう言うなよ。どうせ三年で終わる』
『ま、そうね。こんな奴らより次のイベントについて考えたほうが楽しいわ!!』
不機嫌だった女神たちも、切り替えるように言葉を明るくする。気がそれたようで何よりだ。朝からずっと言ってたからな。
『一番近いのは…闘技大会だっけ?』
『闘技大会!!』
また不機嫌になられてはかなわないと話題を発展させれば、予想通り食いついてきた。
『これまた逃せないイベントよ!!一度近くで見てみたかったのよねもちろんファウダーも参加するわよね?』
『一応な。この様子だと強いやつもいなさそうだけど』
『何言ってんのよ!!闘技大会といえば乱入するテロリストでしょ!常識じゃない!!』
『そんな常識あってたまるか』
一応貴族の子女が通う学園だぞ。警備も対策もとんでもなく強固だろうに。
そんなことを話しながらいつもの席に座る。この教室は大学の大講義室のように奥に行くほど高くなっている。そして俺は一番後ろの窓側。入り口から一番遠い。人並程度に楽しむのは決闘あたりでもうあきらめた。
お、ちょうどロズミスティが入ってきた。けど、なんかプルプルしてんな。
ロズミスティは俺を見つけると小刻みに震えながらゆっくりとこちらに向かってくる。一歩進むごとに涙目になってんな。
「な、何でこんな遠い場所に」
「いや、座る場所に文句言われてもな」
「それもそうですが。…ひぅっ」
座る動作をするだけで小さく悲鳴を上げている。ああ、なんか見覚えあるとおもったら訓練が始まったころの俺だ。全身が筋肉痛なんだな。
「で、今日もくんのか?」
「もちろんです」
『だとよ』
『んふふ、そう来なくちゃね。ちゃんとメニューを考えてきた意味がないわ』
どうやらすでにメニューは決まっているらしい。その内容を聞くと…何というかご愁傷さまだな。明日はもっと筋肉痛になってそうだ。
「なら授業が終わったら昨日の場所に」
「はい」
そう伝えてから、今日の授業の準備を始めた。
そして放課後。授業はどうだったかって?始まって一か月は座学だけだからな。内容もルミィたちに聞いたことがあるやつだったり、来る前に勉強してるやつだったりで真新しいことは何もないから寝てたよ。特に魔法に関しちゃ最高峰がいるからな。それと比べると…まあ、ね。ともあれ今日も訓練だ。
「それで今日は何を?」
「ロズミスティ。お前は別メニューだ」
「ッ…。あ、いえ、別メニューですか」
一瞬変な表情をしたロズミスティだが、すぐに元の顔に戻して首をかしげる。…昨日とおんなじのをやったらさすがに死ぬだろ。
「ああ、まずは体を作る。それに今の状態で激しい訓練をしても壊すだけで意味はない」
「そうなのですか」
「そうだよ」
まあ、ルミィたちが言ってることをそのまま言ってるだけだが。でも、これで俺は強くなれたんだし間違ってはいないだろう。
「では何を?」
「筋トレ。それも体幹だ」
「たいかん?」
「ああ…簡単に言うと、戦う時に体勢を崩されにくくするためのトレーニングだ」
「なるほど、それは確かに重要ですね。では早速やり方を…の前に少し反しておかなければならないのでした」
「ん?」
「いえ、訓練が終わったら私は話すどころじゃないでしょうから。今のうちにと」
「そうか」
真剣な表情で言う彼女に嫌な予感が湧き上がる。これだから事情は聞くまいと、話を振らないようにしてたのに、まさか向こうから来るとは。
「強さを求める理由をお伝えしておかなければなりません」
「何で急に?」
「決して綺麗な理由ではありませんので。無理やり参加するのではなく合意の上ならば話すべきだと思いまして。もし、これを聞いて嫌だと思うなら突き放していただいてもかまいません」
無表情になったロズミスティの手は少し震えている。俺は少し迷った末に頷くと藩士の先を促した。どうせここまでかかわったのだ。どう転んでもこいつに関わるそれは絡まってくるだろ。
「わたしは、王家の中で…いえ、貴族を含めた上流階級の者たちには無能と呼ばれています」
「無能?あの雷でか。王家ってのはずいぶん強いやつらの集まりなんだな」
「違います。王家は代々光魔法を使えなければなりません。それが、王家の象徴でしたから。ですが、私は特性故に雷しか使えない。だから無能なのです」
ああ、なんとなく読めたぞこの話の先。これはルミィたちが好きそうなやつだ。証拠にいつもなら割り込んできそうなタイミングだってのに妙に静かだ。
「城では…私の部屋は物置なんです。見栄えだけは気にして、学園に入学させて寮で暮らしてもいますがね」
「ああ、だから王族なのにメイドもいなかったのか。あーでも、あいつは?ラベルクだったっけ」
「ふふっ、あの人も王族という部分に関しては敬っているようですが。裏では私の事を無能といっていましたよ。一応の護衛として命じられているのです。陰口くらいならいくらでも聞く機会がありましたよ」
なんだあいつ、誇りとか何とか言いながらそんなことやってんのか。見損なったぞ。けど、あの時はそんな風には見えなかったが…。まあ、現場を見たわけじゃない。決めつけるのはよそう。ただ、今後はもう少し注視してみるか。
「んで?」
「わたしは、あいつらを見返したい。光なんかなくても無能じゃないってッ。お前らより強いんだってッ!!毎日毎日ッことあるごとに私を殴って、抵抗したら私が悪くなる。もう、こんなのは嫌なのッ…。だから、だからッ…」
「………」
「父も母も、兄や姉、妹、弟たちも…強くなって今までの分返してやるんだ。全部全部…」
昏い目だ。それに、少女とは思えない殺気だな。ずいぶんため込んでいたらしい。
『これは…ざまあの気配ね!!』
『いいわ!!私たちが全力鍛えてあげましょう!!』
『いや、ちょっとは控えろよ…』
『何言ってんのよ、同情なんて傲慢よ傲慢。そんなことするくらいなら笑って吹き飛ばして前向かせる方がいいに決まってるじゃない』
『いやまあそうかもしれないけど』
なんだかなぁ…。いやまあ、前世含めて同じ目に合ったわけでもないし気持ちがわかるなってことは言えないんだけどさ。
「とりあえず事情は分かった。だからといって俺がどうこうするつもりはない。強くなるのに必要なメニューを示してあんたはそれをこなす。それでいいだろ」
「否定しないのですか」
「復讐をか?そんなの俺が口に出すことじゃないだろ。まあ、自殺みたいなやり方だったらとめるけどな。鍛えた意味がない」
「ッ………ありがとう、ございます」
「礼はいい。それよりもさっさと訓練を始めるぞ」
「はいッ!!」
俺が促すとロズミスティはやる気をみなぎらせて頷ずくと、訓練に使っている広場のの中央に駆け出した。
――――――
操作ミス。公開遅れました。大変申し訳ありません。
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