決闘

 次の日。学園は決闘のうわさでもちきりになっていた。あれだけ人の目がる場所でやったのだ。噂が広まるの仕方ないだろう。


『ふふふ。もうすぐね。決闘イベントよこれは熱いわ!!』

『どうやって戦おうかしら、魔法、それとも武術?迷うわね』

『いや、さすがに手段を選んでなんてことはしないぞ?』

『そうよメリイ。決闘は楽しみだけどやるからには全力で。手を抜くなんて相手に対する侮辱よ、侮辱』


 まだ朝だというのにうきうきとずっと決闘について話し続けている。この話、もう五回目だぞ。

 と、少々うんざりしながら教室の隅の席に座っていると、教室に昨日の王女サマが入ってきた。その後ろには、決闘を挑んできたラベルク君がついている。うおっ、すっげえ睨んできた。だが、ラベルクはすぐに視線を離すと王女様の後ろに黙ってついていく。


『ねぇ、あの子って伯爵でしょ。王女と身分?がかなり違うのにどうして後ろをついて回ってるのかしら。誇りだなんだって言ってたわりには金魚のフンみたいよ』

『さあ、護衛騎士の出とかじゃねえの?興味もないから知らんけど』

『ふーん』


 一応説明すると名前と家名の間にある単語で家の爵位がわかる。爵位は下から男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵。その他特殊なものもあるが基本的には英国と同じ並びで、それぞれのミドルネームにそれを示す単語が入る。俺ならカオというように。男爵なら『アルト』、伯爵は『レ』、侯爵が『テノー』、侯爵が『ソプラ』。んで王族が『ベデク』。このあたりの判別方法だけはきっちり仕込まれた。というか貴族の名前をほとんど俺が覚えていなかったから苦肉の策でマーラが教え込んだものだ。


「おはよう君たち!!!」


 そんなことを考えながらぼうっとしていると、元気のいい挨拶と共に担任の教師が入ってきた。彼の名前はドミニク・エーベルト。爵位を継がなかった貴族のためミドルネームはない。


「あ、相変わらず暗いよ君たち!?ほら、学生なんだからさワクワクーとかワイワイーとかしようよ。そりゃ決闘はびっくりしたけどさ、せっかくの学園生活だよ?三年間しかないんだよ?」


 昨日の一件から、クラスの雰囲気は最悪だ。それを何とかしようと先生は必死に声をかけるが成果は芳しくない。何というか、訳なく感じるほどにいたたまれない。別に先生は悪くないからな。


『なんかかわいそうね…。ちょっとだけ幸運をあげるわ』

『そうね。私たちが原因だしそれくらいはいいんじゃない』


 そのいたたまれなさは女神二人が同情するほどだ。結局、その後も空気が明るくなるようなことはなく、沈黙の中で授業は進み、時刻は昼になった。決闘の時間だ。


『いよいよ始まるわよ、決闘イベント!!ここで圧倒的な実力を見せて学園中に名前をとどろかすの!!』

『そして上級生から目をつけられて…うふふふふっ』


 騒ぐ女神の声を聞き流しながら控室で着々と準備を進める。装備に異常がないか確かめ感触を確認する。問題は、ない。あとは戦るだけだ。

 闘技場に入ると観客席には大量の生徒が集まっていた。昼飯時だって言うのに飯も食わずによく集まるもんだ。


「逃げずに来たことは褒めてやろう」

「決闘だからな」

「ルールの確認を行う!!双方準備はよいか!!」


 審判の男の声にお互いに頷く。ルールは簡単だ。お互いが戦闘不能になるまで。降参は勝敗が完全に決着したと思える状況でのみ可能。装備の持ち込みは自由。魔法もあり。なんでここまでできるのかといえば闘技場自体に致命傷を受けたら場外に傷を受ける直前の状態ではじき出される魔法が掛けられているから。魔物等、戦闘の絶えないこの世界で真の殺し合いを知らずに生きてはいけない。そういう声から作られたそうだ。


「では、決闘に勝利した際に求めるものを述べよ」

「わたしはファウダー・カオ・ヘウンデウンに貴族としてふさわしい振る舞いを」


『俺欲しいのなんかないけど…なんかある?』

『ないわね』

『私もよ』


これは困った。じゃあまあ適当でいいか。とりあえず変に絡まれないようにする要求でいいだろ。


「じゃ、自分が勝ったら、その振る舞いに口を出さないでくれ」

「双方の要求は述べられた。あとは己の意思を通すため、全力を尽くしなさい。…双方、構え!!」


合図とともに俺は剣を抜き、中段に構える。手加減などしない。全力で殺しに行くつもりだ。


「決闘、始め!!」


審判の腕が振り下ろされる。瞬間、俺は凄絶な殺気を迸らせラベルクに肉薄した。


「ば―――」


その勢いのまま剣を振るいラベルクの横を通り抜ける。音はなく剣はするりと頸に滑り込み、何かを言う間もなく彼の首は刎ね飛ばされた。ブシュリと、血が吹き出す音と共にラベルクの身体が消える。恐らく闘技場の効果で場外に弾き飛ばされたのだろう。

あまりに一瞬の出来事だったからか闘技場は静寂に包まれている。俺は剣を仕舞うと無言のまま審判を見ると、慌てたように彼は勝敗を宣言した。


「しょ、勝者、ファウダー・カオ・ヘウンデウン!!」


『フウウウゥゥウ!!素晴らしいわファウダーッ!!見なさいほかの生徒たちの顔を!!皆私たちの実力に恐れをなしたに違いないわ!!』

『いや、恐れというよりアレは何が起こったかわかってない顔だろ』

『変わらないわよ。今は理解できなくても徐々に理解するわ。ファウダーの強さを』


そんなもんかね。勝利宣言がされた後でも観客はみんなぽかんとした顔で俺を見つめているだけだけど。


『にしても今の一撃は完璧よ。接近から攻撃。残心まで。基礎をしっかりやってきた成果ね。よくぞここまで成長したわ』

『魔法も裏で用意してたみたいだし。躱されても対処できるようにしてたのも高評価よ』

『お、おうありがとな』


はしゃぎつつも、今の戦いを評価をしてくれる女神たちに少し照れ臭さを覚えながら、俺は静かな闘技場をあとにした。

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