貴族

 王女、おうじょ、王女。国に数人しかいないレアな人じゃないか。せっかくだからよく観察しておこう。

 ………金髪に金眼。若干タレ目の整った顔。王女というだけあって可愛らしい。というか、試験のときの雷の子じゃん。よく見たら思い出した。


「あ、あの?」

「んぁ?ああ、そうだった。それで王女サマはあいつの言ってるように敬語にしたほうがいいのか?」

「いえ。むしろ今の方が新鮮で、嬉しいです」

「んじゃ、このままで。だそうだぞ少年」


 そう言って、王女との会話に戻ろうとすると、


「ふ、ふざけるな。例え問題ないと言われても敬語で話すのが礼儀だろうが!貴様も貴族の端くれならソレぐらい分かるはずだろう!」

「えー」


 知らんがな。一応そういう系の家庭教師も来てたが内容はほとんど覚えてない。メリィがその時に教えてくれるって言ってたからな。そのメリィが何も言わないってことは大丈夫なんだろ。まあ、もしかしたら、


『いいわねいいわね。盛り上がってきたわ!!』

『かっこうのかませ犬君ね。さぁ、あおりに煽って叩き潰すわよ!!いざ、無双ターイム!』


 場面に盛り上がりすぎて忘れてるだけかもしれんが。


「何だその態度は!貴族なら貴族らしくしろ!」

「別にいいじゃん俺みたいなやつもいたって。それに、貴族なんざ卒業と同時にやめる予定だからな。正直どうでもいい」

「んな!」

『いいわ、いいわよ!その調子で煽りまくりなさい!』


 俺の返しに目を見開き、愕然とする少年。そんなに驚くことかね?四男なんてそんなもんだろうに。あと、ルミィ煩い。

 それはそうと今は王女だ。せっかくだから名前くらいは聞いとかないとな。


「んでだ、王女さん。あんた名前なんて言うの?」

「そ、それも知らないんですか!?」

「おう。その辺はからっきしだな」

「よく、それで首席になれましたね」

「それ以外は完璧だからな」

「ものすごい自信ですね」


 まあ、前世の知識の流用だがな。薄れてるとはいえ高校まで行ってたんだ。小学校二、三年程度の問題なんざ間違える要素なんぞない。無論、歴史だって真面目に解いた。合ってるかは知らんけど。


「んで、名前は?」

「で、では…改めまして。私はロズミスティ・ベデク・エルバニアと言います。三年間よろしくお願いしますね?ヘウンデウン様」

「ファウダー・カオ・ヘウンデウンだ。様はいらんし、ヘウンデウンなんて長いし言いにくいだろうから普通にファウダーでいいぞ」

「そ、それは…その……いえ、ではファウダーさんと」

「おう」


 3年ばかりの付き合いだがよろしく頼むよ。いい友人になれるといいな。そう願いを込めて頷いたその時、


「ふざけるなっ!」

「……なんだよ」


 さっきの少年が叫ぶ。さっきからうっとおしいな。


「さっきからなんなんだ!?その王族に対する敬意のなさは!やめるにしても貴族の誇り、マナーがあるだろう!?」

「知らんよ。大体これから長けりゃ三年はおんなじクラスなんだろ?いちいちそんなこと気にしてたら禿げるぞ」

「気にするのが貴族だろう!無知な平民ならともかく、貴様は違うだろうが。王族は至高にして孤高。それを態度で示し民を導くのが貴族の役目。それを貴様は…」


 そんなの堅苦しくてやってられるか。まあ、きっとこの世界じゃこいつの言い分が正しいのだろう。周りも同意するように頷いてるし、王女様も否定はしない。どことなく表情は寂しそうだがな。


「貴族、貴族、平民、平民。そんなのどうでもいいだろうに。枝葉の影に住もうが、玉座に座ろうが人は人。結局そこは変わんないんだからよ。それに、学園じゃ一応身分関係なくって謳ってるんだろ?」

「ッッ……!!」

「ッき、サ、まァァ……!!」

「っと、あぶねえな」


 顔を真っ赤にした少年がいきなり履いていた手袋をぬいでこちらに投げつけてきた。


『人間ってめんどくさいわよね』

『私たちからすれば、ファウダーの意見が普通だからね。あ、ファウダーは特別だから安心してよね』


 そこは分かってるよ。

 よくある小説のように、貴族が手袋を投げればそれは決闘の申し込みだ。投げられた者は基本的にソレを拾わなくてはならない。無視すれば臆病者として嘲笑の的になるからだ。あまりに実力差がはっきりしすぎてる場合はその限りではないがそれは挑まれた方が弱かった場合だけだ。


「このラベルク・レ・モーレント。王国貴族のはしくれとして、貴様の腐ったその性根叩き治してくれる!!」


 ラベルクって言うのかあんた。まあ、それはいい。今はここに落ちてる手袋だな。制服も、正装も手袋ついてんのはこういう事なんだろう。貴族の慣習なんちゃらのせいってやつ。


『別に無視してもかまわないんだけどな…』

『何言ってんのよ!!せっかくの決闘イベントよ!受ける以外にないでしょ!?』

『そうよ!それに、私は臆病者って言われるファウダーを見たくないわ』

『ああっ!露骨な点数稼ぎ!!ずるいわよ、メリィ!』

『なによ、私は思ったことを言っただけじゃない!!』


 逃げるのは性に合わない。騒がしい女神たちの声を聞きながら思う。何より、彼は彼自身の誇りをもって挑んできたのだ。臆病者と呼ばれるのは正直どうでもいいが、やっかみや妨害ではなく想いで挑んできた彼をないがしろにするのはちょっと違う気がした。


「…」

「拾う、のですね」

「場所と日付は?」

「明日正午。学園の闘技場で」

「わかった」


 俺は手袋を拾い上げ最低限の事を聞く。帰ってきた答えに頷くと俺は静かに椅子に座った。その直後、クラス担当の教師が教室に入ってくる。


「な、なんかすっごい雰囲気悪いんですけど…」


 彼は盛大に顔を引き攣らせていった。

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