入学式

 おっさんが剣を振り下ろしてくる。俺はそれを受け流そうとするが、力で押し切られ剣が地面に叩き落とされる。

 直後、それを拾う間もなく剣が俺の喉元に突きつけられた。


「くそっ…また負けた」


 そのつぶやきと当時におっさんが泥の塊となってその形を崩す。これはクレイゴーレムの亜種。メリィがこの場に創出し、ルミィが見たおっさんの強さをインストールしたものだ。

 結果発表の日から二日間。俺はこれを相手に訓練していた。無論、本物相手だともっと厄介だろうが、これに勝てないようではあの男にかなうわけもない。そういうわけで、まずはコレを倒すことを目標に訓練を続けているのだ。


『ファウダー。時間よ』

「はぁ…はぁ…。そうか、なら準備しないとな」


 今日は入学式だ。メリィの呼びかけを聞いて、片付けを始める。正直すっぽかしたいところだが、やるといった以上は責任を果たさなければならない。

 訓練着から式用の正装に着替えて会場へ向かう。


「あ、ヘウンデウン様、こちらです」


 入口近くで俺が来るのを、おそらくこの学校の教師の一人であろう職員が待っていた。彼女は俺を式の所定の位置まで案内すると、他の仕事語あるのかここで座って待っていてくれと指示を出すとどこかに行ってしまった。


「只今より〇〇学園入学式を始めます。先ずは学長よりーーー」


 指定された場所に座って待つことしばらく。入学式が始まった。流れも雰囲気も地球とほぼ変わらない。学長の話が長くて眠いところも一緒だ。


「続きまして新入生代表、挨拶。ファウダー・カオ・ヘウンデウン様お願いします」


 お、やっと来たか。長かったな。ルミィたちがいなきゃ寝過ごしてたね。長時間座っていたせいで固まってしまったような感覚の身体をゆっくりと起こして壇上へ上る。台本も一応真面目に考えてきた。まあ、伝統とか言ってたからセオリーとかあるかもしれんが、知り合いのいない俺に知るすべはないので前世の高校ので聞いたやつを丸パクリしただけだがな。


「暖かな風に誘われ桜の蕾も開き始め、私達も無事に王立学園の入学式を迎えることが出来ました。本日は、このような素晴らしい入学式を開いていただきありがとうございました。初めての登校に緊張しながらくぐった門でしたが、―――」

『なあんかつまらないわね、入学式って。よくこんなのクソ真面目にやってられるわね人間は』

『ほんとよね。普通に入学おめでとうじゃダメなのかしら』


 その気持ちは痛いほどわかるがしばらく堪えてくれ。こっちも条件を聞いてもらってる立場なんだからさ。


「―――新入生代表、ファウダー・カオ・ヘウンデウン」


 ぺこりと一礼。拍手の中をさっさと舞台から降りれば俺の役目は終了。舞台から見る限り、変な表情をしてる人はいなかったのでこれで問題なかったのだろう。

 それから一時間ほどでようやく式が終わると、全員に一枚の封筒が届けられる。何百もの封筒が空中をひとりでに飛んで一人一人の手に渡るさまは実にファンタジーらしい光景だった。中を見れば自分のクラスが書かれている。俺は1クラスだ。

 クラスは1から10まであり実力によって振り分けられる。当然一番上は1クラスだ。10以外は人数が決まっていて1が一番少なく三十人までだ。他は、下に行くにつれ十人ずつ増えていく。半年に一回クラス替えがあるらしく、油断すれば簡単に転げ落ちていく。


「さて、いきますか」

『そうね。クラスの人間の顔はちゃんと拝んどかないと』


 いや、喧嘩売りに行くわけじゃないんですよ?ルミィさん。ただのホームルームみたいなやつじゃないか。

 ルミィの言葉に内心でツッコミつつ、メリィナビに従って歩くこと十五分。自分の教室にたどり着いた。…やっぱ広すぎだっての。

 中に入ると驚いたことに、もうほとんどの生徒が教室にいた。いったいどんな手を使ったのだろうか。機会があったら聞いてみよう。

 クラス中の視線が俺に向く。が、誰一人として話しかけようとする者はいない。それどころか敵意すら感じる視線もちらほらって、あの時の少年じゃないか。恨まれるような覚えは…あるな。


『人気者ねファウダー!これは楽しみだわ!!』

『何がだよ…。これだとボッチと変わらんぞ?』

『何言ってるのよ。みんなの目つき、獲物を狙う目だわ!これはきっとクラスの人間相手に無双するフラグよ!!』


 んなわけあるか。まあ、席は自由らしいし、ちょっと離れたところに座って様子を見るか。それで、仲良くなれそうなやつがいたら話しかけよう。流石に学園でボッチは嫌だ。せめて人並程度には楽しみたい。

 そう思いながら大学の講義室みたいな机の間を通り、真ん中の窓際、集団から離れた場所に座ってぼうっと次の動きを待つ。


「お隣、よろしいですか?」

「お好きに~」

「そうですか、では遠慮なく」


 不意に隣をいいかと聞かれたので、適当に答える。しかし、他にもアイテル席があるのに物好きなやつだな。わざわざ自分の席を狭くするような行動をとるなんて。


「ねえ、貴方ヘウンデウンといいましたね」

「それが?」

「話に聞きましたが、社交会から逃げ続けたというのは本当ですか?」

「ああ」

「なぜ?」

「めんどいから。何より飯も自由に食えんパーティーなんぞ参加する価値はない」

「そ、それだけ?」

「おう」


 しっかし、そんなことを聞くためにこんなとこに来たのか?いや、もしかしてこいつもパーティーで悩んでるのかもしれん。それならば逃げ出す方法を伝授してやらねば。しがらみは面倒だからな。


「貴様!!黙って聞いていればその方になんという言葉使いだ!!不敬にもほどがあるだろう!!」

「あ?方?何が?」

「まさか知らないわけないだろう!?仮にも貴族。王女殿下の顔くらいは分かるはずだ!」

「そうなの?」

「え、ええ、まあ」

「ふーん」


 そうか、王女だったのか。え…王女!?

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