圧倒

 下段からの切り上げ、剣がぶつかる。一瞬の拮抗の後弾き返された。空中で体勢を立て直して着地。しかし、そこで落ち着く暇はない。既に眼前にはおっさんが迫ってきている。


「……ッ!!」


 大上段からの振り下ろしを丁寧に受け流し、すれ違う。ほんの少し崩れたその背中に剣をーーー


『下がって!!』

「チッ!!」


 突きつけようとしたがルミィの警告に弾かれるように飛び退る。瞬間、俺のいた場所におっさんの剛剣が薙ぎ払われた。

 ……危ねえ。あのままいってたら確実に貰ってたな。ルミィに感謝だ。


「気づくか。参考までにとうして分かったか教えてもらっても?」

「………」


 その質問に対し俺は無言で返す。模擬とはいえこれは戦い。戦場で指示や探りでもない無駄な言葉は発するべきではない。語るくらいなら斬れ。そう、俺はルミィに教わったからだ。

 俺は無言で、あの男の一挙手一投足すべてを見逃すまいと観察していた。


「ふむ。そう言うことならば、ゆくぞ?」

「っ!!?」


 ドンッとおよそ人間の踏み込みとは思えない音とともにおっさんの姿がブレる。と思った時には目の前にいて剣を振るう直前だった。


『ぐっ…おっも……!』


 しかもとてつもなく重い。受け流すにしても、それを超えた衝撃が腕を痺れさせる。そんな斬撃を数合。最後の斬撃では大きく剣を弾かれてしまった。

 がら空きとなった胴体に向けておっさんの両手剣が薙ぎ払われる。


「くうううっ!!」

「なんと!」


 全身を粟立たせた俺は、思わず魔法の障壁を複数同時に展開。そう、展開してしまった。障壁によって遅くなった剣からするりと逃れはしたが、これはルール違反だ。


「俺の負けですね」

『ま、これは仕方ないわね。ファウダーは頑張ったけどアイツのほうが強かったわ。悔しいけど負け、いつかボコボコにしてやりましょう』


 ルミィも素直に認める強さのようだ。俺は剣をしまって舞台を降りようとすると、おっさんが呼び止める。


「いいのか?」

「ええ、魔法禁止で使ってしまいましたから。ルールはルールです。それに、あそこを魔法なしで切り抜けられても負けていたでしょうしね」

「そう、か。君がいいならそれで構わない。……いつか機会があったら全力の君と戦ってみたいよ」

「それはどうも」


 振り返らずにそう返事だけをして俺は静まり返った舞台を降りた。

 …ああ、どんな形であれやっぱり負けるのは悔しいな。

 こうして俺の試験はなんとも言えない後味の悪さを残して終わった。



 二日後。試験の結果とクラスが張り出されると言うことでその場所にやってきた。結果によってクラス分けが決まるため、皆必死で上の優秀者一覧を見つめている。


「さてと、俺のは…一番上かよ。いや、まあ何となくわかってたけど」


 順位表の一番上にでかでかと書かれた俺の名前。そして、横には成績一位の方は職員室までと張り紙がされている。ああ、これはあれだな。地球でもよくある入学式に一位のやつをさらすやつだ。まあ、案内として書かれている以上は一応行くが…めんどくせえな


『呼び出しねえ。いわゆる新入生代表ってやつかしら?』

『そうなんじゃね。流れ的に』


 中を全然把握してないのでメリィナビにに従って職員室へ向かう。たったそれだけだというのに十分もかかったぞ。いや、ほんと広すぎこの学園。

 とそんな文句を心の中で呟きつつ、職員室の扉をノックしてから入る。


「失礼しまーす。試験一位の者です」

「おっ来たか。学長がお待ちだ。こっちについてきてくれ」

「はい」


 そう言って案内された学長室。奥にでっかい机と柔らかそうな椅子があり、そこに学長と思われる婆さんが座っていた。しわくちゃの顔にとんがり帽子。まさしくできる魔女って感じ。


「よく来たね。さ、お座り」


 示された部屋の真ん中にある学長と向かい合うように置かれたソファに座る。うおっ、柔らか。家にあったやつの数倍心地いいな。ちょっと欲しいぞ。


「まずは自己紹介をしようかね。私はこの学園で学長を務めているラクサ・モンドラクだよ」

「ファウダー・カオ・ヘウンデウンです。一応ヘウンデウン子爵家の四男です」

「ああ知ってるよ。顔を見たのはこの間の試験の時が初めてだったけどね。一度も社交界に出さないなんてあんたの両親は何考えてんだかね」

「いえ、出さなかったんじゃなく、俺が逃げまくってました」

「………噓じゃ、なさそうだね」


 呆れたとばかりにつぶやく学長ラクサ。仕方ないじゃん教会とかのこと考えたら強くなろうとしないと不安だったんだし。まあ、何よりもめんどくさかったのが大きいけど。なんせ立食パーティーとか言いながら飯に手を付けたら大顰蹙をかうとか言ってんだぜ?しかも終わったら全部捨てるときた。ばかばかしくてやってらんないね。


「まあ、あんたの事情はおいとこう。それでここに呼んだのは入学式の事だ。毎年一位の子には代表としてあいさつをしてもらってるからね。今回はあんたってわけだ。どうだいやってくれるかい」

「……謹んでお断り申し上げます」

「は?え?いや、一応かなり名誉なことなんだよ?普通ならみんな喜んでやるような役なんだけど?」


 いやだってめんどくさいし。文も俺が考えないといけないんだろ?絶対いやだよそんなの。そんなことするくらいなら、ルミィズブートキャンプやってる方がましだ。


「めんどくさいのでいやです。二位の人にでも任せといてください」

『ま、代表挨拶の名誉なんて貴族界のアレコレでしょ。そんなのいらないからファウダーの選択に賛成ね』

『同じく』


 女神たちも同意見のようだ。俺もいらん。飯も自由に食えん貴族界なんぞ進んで関わりたいものではない。そういう事で話はおわったと立ち上がると、学長がなぜか必死に止める。


「ま、待ってくれ!今回の二位は王女なんだよ。それで王女に代表なんてやらせた日には権力の乱用だとかで王女の名前に傷がついちまう!それは困るから、頼むからやってくれ!」

「えー」


 泣きそうな顔で言う学長。さっきまでのできる魔女の雰囲気は消えてしまった。てか、普通に一位が断ったでいいじゃん。なんで乱用になるんだよ。意味わからん。


「ほ、ほら。代わりに私にできることなら何でもするからさ?頼むよ!」


 ほう。なんでもするとな。


「それってあの試験の時の団長とか言うおっさんに俺の望むタイミングで会う事できます?」

「へ?それくらいなら簡単だけど。」

「なら、どんな挨拶でも文句言わないのと。その会いたいときに会う約束を取り付けるやつで」

「やってくれるのかい?」


 ぱっと顔を明るくした学長に俺は頷く。すると彼女は嬉しそうに俺のお願いを了承してくれた。これでリベンジの目途はたったな。あとはひたすら鍛えまくっていけるって思った時にカチコミするだけだ。負けたままは絶対に嫌だからな。


「コレ入学式の日程だよ。一応頭に入れといてくれ。それと原稿用の紙だ。当日はこれを見て読んでもらってもかまわない」

「わかりました」


 俺は学長からそれらを受け取ると部屋を後にした。代表挨拶…やっぱりめんどくさいな。まあ、お願い聞いてもらう以上はちゃんとやりますかね。

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