武術試験
魔法試験も終わり、俺の命も救われたところで次の会場へ。二十メートル四方の舞台のようなものがいくつもある場所にやってきた。ここが武術の試験会場のようだ。内容は簡単。試験官と模擬戦をするだけ。勝敗は関係ない。むしろ負けることが前提だ。用意された試験管もなかなか強い者たちばかりで、よほどの才能でもない限り倒すことはできないだろう。
「おー、やってるやってる」
『甘っちょろいわね。殺気が足りないわ。殺気が』
『いや、試験に殺気を出すやつはあんまいないと思うぞ』
武術関連になると急に厳しくなるルミィに突っ込みながら、自分の番号のある所定の舞台の近くで待機しつつ他の人の試験を眺める。
まあ、確かにルミィの言う通り甘い。だが、中にはかなり強い人もいる。そういういさ人達はきっと俺のように小さい頃から剣を学んできたのだろう。
「次、1109番」
「はい」
「おおっ」
近くで呼ばれて出てきた蒼い髪をした少女。その子は周りと明らかにまとっている雰囲気が違った。
間違いなく強い。受験生の大半どころか、相手になるであろう試験官よりも。
『やるわねあの子』
『ああ…』
舞台で向かい合う両者。二人ははじめの合図とともに同時に駆け出した。
ちょうど真ん中でぶつかり合う。そう見えた瞬間。振り下ろされた試験官の剣を、ほんの少し逸れるように避け、すれ違いざまに一閃。一瞬だった。
「見事」
「ありがとうございました」
試験官が敗北を認めると少女は綺麗に一礼して舞台を降りていった。その美しい所作にその場から自然と拍手が起きる。それぐらい綺麗な戦いだった。
「ん?」
その横で入れ替わるようにして件の少年が舞台へと上がってくる。魔力はすごかったが…剣はどうだろうか。持ち方が凄く独特なんだが…
『なんて酷い構えなの…。剣が泣いてるわよ。ここまで来ると逆に哀れだわ』
どうやらただなってないだけらしい。ただ、身体能力だけは凄まじい。開始の合図があってからそれだけで試験官を苦戦させている。
…しかし、あんなんだと技量はかなり低いはず。それであの身体能力ってことは、もしかしてかなりレベル高い?それか、なんか特殊な特性でも持ってるとか?
『ねえ、ルミィ。あいつおかしくない?絶対技量低いのに』
『そうね。なんか持ってるわよあいつ。何かは分からないけど』
『なんだ、見れないのか?俺のやつみたいに?』
『管理を始めたときに全部わかったらおもしろくないから、私たちの手を離れたものは基本的に中身を見れないようにしているの。それこそ、世界滅亡の危機ですって時くらいしか見れないようにね。だから見れないわ。見えちゃったらその個体の行きつく先まで全部わかっちゃうから。そんなのつまらないでしょ?』
ああ、なるほどな。要するに推理小説で常にネタバレされてる感じなるのか。確かにそれは嫌だな。まあ、見れないなら見れないでやりようはある。
と、そんなことを話してるうちに俺の番がきた。少年の試験から視線を外し、舞台の横に備え付けられた武器置き場から、刃引きされた片手半剣をとって上にあがる。
二、三度振るって感触を確かめる。うん、これなら問題ないな。
「ほう…」
審判役の職員がこちらを見てつぶやく。…このおっさん強いな。それこそ相手になる試験官よりもずっと。正直今の俺でも勝つ自信はない。
逆に試験官の方は勝てるな。多分余裕で。ちらっと別の人の時やつも見たが、特筆することもない。上からたたき潰せるレベルだ。
そんな俺のステータスはこれだ。
〈名前〉 ファウダー・カオ・ヘウンデウン
〈年齢〉 12
〈職業〉 魔導剣士
〈レベル〉 132
〈経験値〉 8946
〈必要経験値〉4845580
生命力 15
精神力 15
持久力 30
筋力 13
敏捷 20
耐久 12
魔力 17
知力 10
〈技量〉 45
〈特性〉 可能性
〈スキル〉 剣術(
〈加護〉 神の観察
ルミナスの想い
メリスの想い
これが俺の六年間、ひたすらやってきた修行の成果だ。加護がなければ単純計算でまだ40レベルだったことを考えると、三倍も馬鹿にできない。
そして、剣術の果無ってのは上級をしっかりにつけたら出るんだと。身につけた技術は決して朽ちず、後は上昇するのみ。って意味らしい。よく言う、剣の道に終わりなしとか言う感じだ。ああ、言葉の意味とかは聞くなよ?ルミィが徹夜で考えた名前らしいから、文句つけたら死ぬぞ?察知は気配とか魔力とかを感知すること、後は言うまでもないな。料理なんかは少しでもうまいものを食いたくて試行錯誤してたらついたもんだし。
「準備はできたようだな」
「はい」
「では、双方、構えッ!」
っと試験が始まるな。余計なことは考えずに集中しないと。
合図と同時に剣を構える。相手は中段に。俺は大上段に。目の前の相手に防御なんて必要ない。近づいてきたところを叩き斬る。それで終わりだ。
「始め!!」
合図がなされる。だが、試験官は近づいてこなかった。いや、近づけないのか。額に玉のような汗を浮かべて、こちらの構えを凝視している。そして、その手はかすかに震えていた。
「ふむ…これでは試験にならんな。いったんやめ。ゴルネオ、変わってやろう。私がやる。お前は審判を」
「ッはぁはぁ。ありがとうございます。団長」
どうやら、相手が変わるらしい。よりにもよってこのえげつなさそうなおっさんに。なんか、団長とか言われてるし、結構偉い立場のやつなんだろう。舞台の周りもどよめいているし。
「少年。確か、ファウダー・カオ・ヘウンデウンだったな」
「はい」
「いままで、ヘウンデウン家に君のような子がいるとは聞いたことがないが。差し支えなければ教えてもらっても?」
「そりゃ、社交パーティーに出るのが嫌で話が出るたび逃げ回ってたからですね」
「は?」
何を言われたのか一瞬理解できなかったのだろう。しばしの間、呆然としていた。そして、理解が追い付いた時おっさんは大きな声で笑いだした。
「は、はは、はははっははははっ。面白いな君は!だが無理もない、あそこは窮屈だからな」
「そうでしょうそうでしょう」
分かってもらえてうれしいよとばかりに頷いておく。行ったことないけど。
「はぁ久しぶりにこんなに笑ったな。ふう…さて試験だが、君の実力が問題ないのはさっきので分かってはいるが、それだと周りが困るからな。悪いが私と戦ってもらう」
「問題ありません」
「感謝する」
別にかまわんさ。ここまできて何もせずに下りるとか不完全燃焼も甚だしいしな。それに、完全な格上との死なないと分かってる戦いをやらないなんてもったいない。
「では頼むよゴルネオ」
「はい。双方、構え!」
合図とともに俺たちは剣を構える。それだけで分かる相手の強さ。手に汗がにじむ。さっきみたいな大上段なんてことはできない。
半身になって中段に剣を構える。防御を考慮した態勢に。
「始め!」
瞬間。俺は弾けるように駆け出した。
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