神命・ヤツを超えろ
『ふざけるなふざけるなふざけるなぁあああ!!!!』
『せっかく最高のシチュだったのにいい!!』
『許さない。絶対に許さない!!』
『あのやろぉ、絶対潰してやるんだから!』
頭の中で女神たちが少年を呪う。いや、君らがそれ言うとシャレになんないから。
『落ち着けよ…』
『落ち着けるわけ無いでしょ!せっかくの舞台だったのに!見どころだったのに!アイツが奪っていったのよ!ファウダーはなにか思わないの!!』
『別に思わんよ』
『なんですって!!』
むしろ助かったまである。あんな小っ恥ずかしいセリフよく言えるわ。俺は無理だね。ただ…このままにしておくとうるさすぎて試験どころじゃないから落ち着かせないとな。
『要はあれより目立てばいいんだろ?こんなのはどうだ?ーーー』
『………いいわねそれ。ソレならあんのクソ野郎の鼻っ柱を叩き折れるわ!』
『私もそれでいいわ。とにかくアイツに負けなければいいもの!もし負けたらルミィズブートキャンプ、負荷百倍でやるからね』
『お、おう。任せとけ……』
それはまずいってメリィ。そんなことになったら俺死んじゃう。自分で言ったこととはいえ早くも後悔している。これは、マジで負けられん。
「次!1056番前へ」
「俺だな」
俺の持ってる番号が呼ばれたので前に出る。所定の位置に付き少し離れた位置の案山子を見る。ちなみに、四桁あるからといってそこまでの人数がいるわけではない。最初の二けたは分類だ。10が貴族男子。女子は11。平民が20と21だ。
「ファウダー・カオ・ヘウンデウンか…。ヘウンデウン子爵のところ子息なのだろうが、初めて見るな」
そりゃ、社交会からひたすら逃げてきましたからね。周りも初めて見る俺にざわついている。注目度は問題なし。後は結果だけ。明日の命のために全力で、いざゆかん。
「準備ができたら何時でも撃ってくれ」
「わかりました」
俺は頷くと手を前に出し案山子に狙いを定める。俺の持ってる魔法で一番のロマン技だ。基本当たらんから使えんが、相手が案山子なら話は別。
座標を確定させ、手を握り込む。これでおしまい。
「どうした?早く撃ちなさい」
「もう、終わってますよ」
俺はそれだけ言ってその場を後にする。そうすればざわめきは更に大きくなった。あいつは一体何をやってるんだと。
「何を言っーーーなぁ!?」
しかし、それはすぐに驚愕に変わった。何故なら案山子が端からサラサラと形を崩し始めたからだ。
これはメリィと考えたロマン技の一つ。対象を芯まで凍結させ微細な振動を与える魔法。それによって対象を脆くし粉々にするものだ。科学的なことは知らん。魔法とはイメージなのだ。
ただこれは発動するときは座標指定なうえ、起動も遅く、使えば魔力の半分は持っていかれるため実戦では全く使えない残念な子なのだ。せっかく考えた魔法だから一度は使ってみたかったから今回はいい機会だったよ。
「ヘウンデウン家だと?なぜ、あれほどの才能が今まで無名だったのだ…」
「無詠唱かつ無駄のない魔力操作。宮廷魔導士にも引けを取らないぞ」
元の場所に戻るまでの間、そして戻ってからも周りは俺に対する話で染まっている。これなら女神のオーダーも問題ないだろう。
『ふっふっふー。これが私たちのファウダーよ!さあ、崇めなさい人間たちよ!!』
『私とファウダーの愛の結晶。ああ…見せつけるって気持ちいぃ』
うむ、ご機嫌で何より。これで俺の命は守られた。今も毎日やってるルミィズブートキャンプはいつも俺の限界ぎりぎりまで追い詰めてくるからな。それを百倍なんて…想像もしたくない。ただ、俺の命は助かったんだが…
『すっごい敵意を感じる』
『ほっときなさい!あんな負け犬なんて。次の魔力操作試験も圧倒するわよ!』
『へいへい』
ものすごい形相で少年が睨んできていた。まあ、他を圧倒して気持ちよくなってたと思ったら、それを超えるやつが見せつけるような結果を出して来たらそうなるよな。
お、少年が次の試験に呼ばれた。周りも注目している。
始めの合図とともに少年が魔法を放つ。…ふむ、いくつもの火球が的に命中する今のところハズレは無し。ただ、大量の魔力によるごり押しなせいか、無駄になってる魔力が多い。見ている俺からすればもったいないと言わざるを得ない。ただ、これでもほかの受験生からすればかなりすごいことのようで一部を除いて賞賛のまなざしを送っている。残りは、少年の魔力の無駄がわかってる人たちだろう。王女とか呼ばれてた人もその一部の人の中にいた。
やがて終了の合図が来る。最後まで、魔法は外さなかった。その事を自慢するようなどや顔でこちらを見てそいつは去っていく。…ちょっとイラっとした。ということで、女神じゃないけど全力で潰すことにします。
『アレ、やるぞ』
『何よ、ファウダーもノリノリじゃない』
『まあな』
すぐに俺も呼ばれたので、所定の位置につく。距離は最大威力と同じくらい。ざっと十数メートルってところか。これから使うのは実戦でも使えるやつ。この三倍あっても問題ないから余裕だな。
「制限時間は砂時計が落ちきるまで、始めの合図があってから魔法を行使してください」
なるほど、大きさ的に二分くらいかな。それくらいなら魔力も問題ない。
「…では、始めッ!!」
「ロック…」
合図と同時に指鉄砲を構えそう呟く。瞬間前方に浮遊する的の前に魔法陣が現れる。これは対象を固定するものだ。呟くのはイメージを完全にするためなのと、メリィのこだわりだ。
「砲陣展開」
俺の背後にいくつもの魔法陣が展開される。その数、二十。それだけで周りのどよめきはすごいことになっていた。そして腕を振り上げ、
「斉射!!」
掛け声とともに振り下ろす。途端、凄まじい勢いで光弾が的に向かって降り注ぐ。事前にロックしているため、外れることもない。ズドドドドドッ!!と凄まじい音を響かせながら降り注ぐ光弾に皆言葉を失っていた。これがメリィと考えた対軍団魔法。別にロックせずに放つこともできるのでその気になれば無差別爆撃もできるあぶねえ奴といいたいところだが、威力は結構控えめなので牽制程度の魔法だ。見た目は派手だがな。それをきっちり二分。砂時計が落ちきるまで撃ち続けてやった。
魔法を止め、振り返ると少年があんぐりと口を開けてなんとも間抜けな顔をしていた。どうだ、これが魔法というものだよ。そんな気持ちを込めてにっこり笑いかけてやると腰を抜かしていた。実に気分がいい。
さて、仕返しも試験も終わったことだし、最期は模擬戦闘試験だ。魔法は禁止。両方使う者を評価するのは学校に入ってからだそうだ。
ガウスとルミィに教わった武術。どこまで通用するのか、今から楽しみである。
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