王都へ、そして試験開始
「でっか…」
俺が王都に着いた時の感想である。王都はただただでかかった。いったい何十メートルあるのかという高い壁にそこから覗く城の屋根。その威容にただ圧倒された。
…そういえば言ってなかったが、王都の名前はバニア。俺のいる国はエルバニアって名前なんだとさ。気にしたことなかったせいで、俺も最近知った。なんでも、入学前にクラス分けの試験があるそうで、そこで自分の国名すら答えられないのは不味いとマーラにたくさん勉強させられたのだ。しかし、入学試験なんてまた王道だな。まあ、実力に応じた教育を施すってのが目的だからわからんでもないけど。
「マジかよ…」
そして学園だが、これも恐ろしくデカかった。近くにある王城の三倍くらいの大きさの敷地に城並みの校舎が一つ。それ以外にもいろんな建物が並んでいる。こんな中で迷わず暮らすとかほぼ無理のような気がする。
『…迷ったら、ナビよろしく』
『任せなさい』
メリスの頼もしい返事を聞きながら学園の中に入っていく。そこから馬車で十分ほど、ようやく今日からの俺の部屋がある寮にたどり着いた。どんだけ広いんだよ…。これだと、教室に行くだけで苦労しそうだ。
それに寮の建物も大きい。貴族用だけあって立派だ。早速中に入り割り当てられた自分の部屋に向かい、部屋に入る。
「おお…。これはすごいな」
『ほんとねぇ…。たかが子供一人に2LDK。しかも風呂付きなんて貴族は贅沢ね』
『まあ、使用人も住まわせる前提だからじゃない?ファウダーは速攻で断ってたけど』
前世の記憶があるのである程度の人並程度の家事は可能だ。だから断った。しかし、キッチンがあるのはいい意味で誤算だな。自由に好きな飯を作れるぞ。家の飯は思ったよりおいしくなかったからな。もう、塩味だけは嫌だ。これなら女神たちに調べてもらった調味料の作り方が活用できる。
「とりあえず荷物の整理。いらねえもんは全部捨てるか」
『そうね。無駄にビラビラした大量の服とか全部捨てちゃいましょ。正装なんて一着、二着あれば十分なんだし』
というわけで、ごっそり在庫処分。ただ、マーラがいらなくなった服は売れると言っていたので、売るように皮袋にまとめてドン。次、街に出るときに処分だ。無駄に派手な棚とか机もいらんいらん。この辺も売ってシンプルな物に変えよう。目がちかちかすんだよ。
そんなこんなでいらないものをまとめ、必要な物を部屋の各所に設置しすれば、もう空は暗くなってきている。
明日は試験。早めに寝たほうがいいだろう。ということで、魔法で明かりを確保しつつ、持ってきた食料で簡単なものを作って食べる。味は…少なくとも女神たちが家の料理人よりは喜んでいたといっておこう。
…前に、世界中のうまい料理を食うとか思ってたけどこれだと期待できないな。それならそれで、うまい食材を集めて自分でうまく料理すればいいや。ルミィも料理系の本を仕入れてくれるらしいし。
「ふう…ご馳走様でした」
『うーん美味しいんだけど、こうなると直接食べたくなるわね。何とかして降りれないかしら…』
「さあな。いろんなとこ行ってりゃ見つかるかもしんないし、そこは運に任せるしかないんじゃないか?」
『そうよね。そうするわ。じゃ、明日も早いし今日は寝ましょうか』
『おう』
そうして、俺は寮のベッドで眠りについた。歯磨きは必要ない。時間がなければ風呂も。ホント魔法って便利だよな。個人で使う分には。
―――次の日。
いよいよクラス分けの試験だ。内容は筆記と実技。筆記はあんまり気にしてない。地歴以外は。なんせ小学校程度の問題に初歩の魔法文字解読。間違える要素がない。地歴は知らん。覚えてる部分で何とかしよう。
「試験会場はこちらです」
「席は決まっています。自分の番号を見て各自席についてください!」
職員たちの声を聞きながら自分の席を探し出しそこへ座る。流れは基本的に前世の試験と同じ。時間が来たら始めの合図で解き始め、終わりの合図でペンを置く。筆記用具も特殊で書き間違えたら消せるものになっている。しかも、試験時間の間だけ。
車とかないのにこういう細かいところは実にハイテクだ。
まあそんなことはどうでもいい。今は始まった試験に集中だ。
―――午後。筆記が終わった。
え?何か言うことはって?何もないよ。13+6とか28-8とかだぞ?語るまでもない。午後からは実技。ここからが本番だ。やっぱり魔物とかの脅威がある分、紙の知識よりもこっちの方が重視されているのだ。
『さあ、こっからが学園編のスタートよ!』
『まずは試験用の壊れないとかいう的を破壊しないとね!それで、』
『『俺なんかやっちゃいました?』』
『ていうのよ!!』
女神たちも気合が入っている。…ただそれはクソ恥ずかしいから言いたくない。もっとスマートに行こうよ。
『やめてくれ。壊せるかもわからんのに。たとえ壊せても俺の精神が持たん』
『『えー』』
と、そんなことを言っているうちに試験の説明が始まった。まずはルミィたちの予想通り魔法の試験からのようだ。しっかり的も用意されている。二種類ほど。
「これより魔法試験を始める。試験は二種類。魔法の最大威力を測るものと、操作力を測るものだ。最大威力は簡単だ。目の前にある黒い案山子に全力で魔法を撃て。威力によって色が変わる。新入生程度の魔法では壊れんから思い切りやってくれ」
『言質は取ったわ!!ファウダーッやっておしまい!』
『あらほらさっさー。俺の順番がきたらな』
まあ、今の俺の魔法がどこまでいけるか試したいのはあるからな。今回のはいい指標になるだろう。
「次に操作力だが、これは黒い丸い的がいくつか浮遊している。それを制限時間内に何回命中させるかを測定するものだ。無論外した回数も記録しているから、とにかく数を撃つというのはお勧めしない」
『まあ、ファウダーなら余裕でしょ。私とあなたで考えたアレを使えばね!』
『嬉しそうだなメリス』
『当り前よ!自分で考えた技を誰かの前で撃てるんだもの。最高じゃない!』
メリスもかなりテンションが上がってるな。待ちに待ったテンプレシチュエーションだから無理もないか。
「それでは呼ばれたものから順番に始めてくれ。場所は多めに用意してあるからそんない待たないはずだ」
前に立っていた職員が説明を終えるとそれぞれ、十か所以上用意された場所に番号が読み上げられる。呼ばれたものから順番に所定の位置に立ち魔法を唱え始めた。
『なあ、みんな詠唱してるんだけど』
『ほんとねぇ。しかも、それでも威力が弱かったりするから、魔力操作が雑な証拠ね。規定の魔力が集まるのを無意識に妨害してるわ』
こりゃ本気出すと変に目立ちすぎるか?そう思っていると会場の一部で歓声が上がった。そちらに視線を向ければ、一人の少女がバランスボールくらいの大きさの雷球を出現させている所だった。それを、彼女はそのまま案山子にぶつける。雷が落ちた時の何倍もうるさい爆音が響き閃光が発せられる。事前に障壁を出していたからいいもののかなり迷惑だぞアレ。周囲の人間の視界と耳が回復し、埃が収まるまでしばらく。それが晴れた先にあったのは赤色の案山子だった。
「文句なしの満点だな。素晴らしい才能だ。よし次」
「さすが、王女殿下。我々とは―――」
「強さと美しさ両方―――」
職員はあまり驚いた様子はない。おそらく事前の情報があったのだろう。そして、赤色が満点か。あれくらいの威力なら余裕だな。
周りのささやきから考えてあの少女はこの国の王女らしい。遠くだったからよく見えんかったが、多分美人なんだろう。周りがそう言ってるし
『なかなか―――』
ドゴオオオォォォォン。
ルミィが何かを言いかけた瞬間。また爆音が響く。今度はさっきとは比べ物にならないくらいの大きさだ。放ったのは…赤い髪の少年か。魔力の残滓的に炎だろう。煙が晴れるとそこにあるはずの案山子が跡形もなく焼滅していた。
「まさかこんなことが…宮廷魔導士の魔法にも耐えられるというのに」
「あはは…俺、なんかやっちゃいました?」
あ
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!私のセリフがああああっっ!!』
『イヤア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!』
うるさッ!!
女神が発狂した。
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