学園へ
社交パーティーなんかに出るのがめんどくさくてその話が出るたびに、ノリノリの女神ナビに従って逃げていると、ついに両親が折れてせめて学園だけは言ってくれと言われた今日この頃。
俺はついに十二歳になった。学園に通う年である。期間は三年。貴族の子供は学園に行くのが義務なんだとか。平民は自由。でも学費はほとんど貴族の寄付で賄われてるからほぼ無料らしく、特別な事情がない限り大体行くらしい。
そんなわけで、学園に行く日。俺は学園生活に必要な荷物とやらを馬車に乗せているのを眺めていた。なんでこんな適当なのかというと、ほぼ俺が用意した物じゃないからだ。準備しろって言われたときに、普段の戦闘用装備一式と数日分の着替え、携帯食料だけを用意したら、あきれた表情で両親が私たちで用意すると言われてしまった。いったい何がいけなかったのか今でもわからない。どうせ向こうで寮生活なのだ、必要な物は向こうで用意すればいいものを。
「おお、よかったです。ファウダー様」
「ああ、マーラさん、ガウスさん。おはようございます」
ボーっとしているとマーラとガウスがやってきたどうやら見送りに来てくれたようだ。俺は顔を明るくして二人を歓迎した。
「しかし、すごい荷物ですな」
「でしょ?装備と携帯食料でいいじゃんって言ったら、ああなったんですよ。勘弁してほしいです」
「いや、貴族にはメンツがあるでしょう」
ガウスと俺で分かり合ったような表情で頷いていると、マーラにあきれたように言われてしまう。そうか、マーラはそっち側か。
「まあ、それはそれとして、二人とも今まで長い間ありがとうございました」
学園に行くため、ガウスたちに教わる時間はおわった。今までの感謝を込めて頭を下げる。
「いえいえ、大したことはできていませんよ。ほとんどご自身で強くなっていったではありませんか。…特にあの日からは。本当に申し訳ありません」
「また、その話ですか?もういいって言ってるじゃないですか。終わったんですし。それに、アレがあったから今の俺がいるんですよ?」
「ですが…って!?」
「ファウダー様がああいってるんだ。素直に受け取っておけ。貴族特有の意味わからん言い回しをする方じゃないのは知っているだろう」
「む、むう」
あの日というのは、六年前のこと。ガウスたちが教会に狙われた時の話。あの日以降、事あるごとにガウスは俺に謝ってくる。それをマーラが小突いて止めるまでが大体の流れだ。
ちなみにこの二人結婚した。ガウスにだけ言葉遣いが違うのはそのためだ。それを知った時にリア充爆発すればいいのになと軽い気持ちで女神に念話で言うと、ものすごいプレッシャーで返された。
『私たちは女として見れないってこと?そうですかそうですかソレはいけませんね』
『ちょっとお話が必要だと思うわ私。今晩は楽しみね』
平坦で無機質な声で言われたときは、全身が総毛だった。その晩は精神を夢に呼ばれ二人にいやというほど女神の魅力をわからされた。
…俺は二度とリア充とか言わないと決めた。内容は…想像にお任せする。
「ファウダー様。準備が整いました」
「お、分かった。それじゃあ行ってきますね。お二人ともお元気で。子供ができたら手紙でも出してください。お祝い送りますから」
「はははッ、まだ早いですよ!それにそんなことは気にせずファウダー様は存分に学園を楽しんでください」
「…そんなことはないような気はするんだが」
エリーが呼びに来たので、俺は立ち上がってガウスに別れを告げる。子供の話をしたら笑い飛ばされたが、マーラの方はお腹をさすってぼそりとガウスの言葉を否定していた。これは…案外早いかもしれないな。
すぐに来るかもしれないめでたい日を想像しながら、ケツの痛くなる馬車に乗り込む。これが嫌で馬にも乗れるように練習し、学園には馬に乗っていこうとしたが全力で止められた。
曰く、馬車もない貧乏貴族みたいに見えるからだそうだ。貴族めんどくさい。
「お元気でファウダー様!」
「そっちこそ!」
動き出した馬車から身を乗り出して、手を振る。やがて二人は小さくなって見えなくなっていった。そこまで来てようやく俺は家を出た実感を得る。そう、家を出たのだ。二人との別れは少し寂しくはあるが、学園に着けば家の目と貴族のどうこうの縛りもなくなる。そんな開放感が俺を満たした。
『ようやくね。ようやく好き勝手出来るわ!教会のゴミどもも蹴散らせるくらいには強くなったし、全力で世界を楽しむわよ!学園!ダンジョン!遺跡にお宝!待ってなさいロマンたち!』
『魔導書、魔剣、宝石、名物料理…欲しいものがいっぱいあるわ全部かっさらうわよファウダー』
『おう!』
女神たちも嬉しそうだ。かく言う俺もかなり楽しみにしている。学園に着けば寮に入る。貴族は一人一部屋だ。ちなみに平民は六人部屋らしい。
そこからは完全に一人。ルミィの言う通り好き勝手出来る。まあ、だからと言って鍛錬をさぼるつもりはない、二度とあんなことにはならないようにどこまでも強さを求める予定だ。
そして、三日後。俺は学園のある国の中心、王都に着いた。
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