二人の女神

「心を癒す?」

「そうよ。あなたには自覚がないでしょうけど。ま、とりあえずはメリスと顔合わせしましょ」

「え、ああ、そうだな」

「そろそろいいわよー」


 戸惑いつつも俺が頷くと、ルミィは後ろを振り返って呼びかける。

 何もないはずの空間。そこに唐突に一人の少女が現れた。この子がメリスなのだろう。

 肩まである艷やかな黒い髪に、クリクリとした黒い目。肌は白く赤い唇がよく映えている。幼気な容姿であるが、ルミィと同様に異常なほど整っている。

 ……なんというかこの女神たちのせいで、俺の中の美人の基準が異様に跳ね上がっていく気がする。


「会うのは初めてね、ファウダー。私がメリスよ。これからの永い時をよろしくね」

「あ、ああ…。よろしく」


 てくてくと近づいてきたメリスから出るクールな声。見た目と、声のギャップがすごい。

 なんというかメリィはちっちゃいのだ。ルミィが大体百六十センチくらいなのに対して、メリィは百四十センチくらいしかない。ただ、メリイはちっちゃいのに大きかった。どことは言わないが。これでモテないというのが不思議なくらいだ。ちなみにルミィは普通だ。

 今の身体が五歳児で助かったよ…。


「じゃあ、顔合わせも終わったしお楽しみタイムといくわよ!」

「おわわっ!ちょ、な、なんだ⁉」


 顔合わせ終わったと判断すると、ルミィはふわりと俺の後ろに回って抱き上げる。

 突然のことに驚く俺をよそに、ルミィはいつの間にか現れていた座敷の上に座ると、そのまま俺を膝の上に乗せ、後ろから腕を回して抱きつくような姿勢になる。

 ふにっとした感触が頭に乗っかってくる。これはもしや、いや、もしかしなくともルミィのアレだろう。前世含めて初めて感じるその感触に自然と心臓が跳ね、顔に熱が宿る。


「な、なあルミィ、これはちょっと恥ずかしんだけど」

「残念ながらあなたに拒否権は無いわ。こんな小さい時期なんてほんの一瞬で過ぎちゃうんだから逃さない手はない無いもわ」

「そうよ。私たちからすれば今のあなたはほんの一瞬みたいなものだもの。ルミィの次は私の番だからね」

「いや、メリィの身長じゃ―――」

「身長じゃ?なに?」

「ひっ!な、何でもございません!大人しく受け入れさせてもらいます!」

「そう?ならいいけど」


 こ、怖え。全く変わらない笑顔だったのに、急に眼光と迫力が激増したよ。とりあえずメリィに身長の話は厳禁だと魂に刻んでおこう。下手したら死ぬ。いや、死にはしないかもしれないが、きっと後悔することになるだろうしな。


「ねえ、ルミィそろそろ私もしたいわ。夜は限られてるのだし交代してもいいでしょ?」

「そうね。せっかくの機会は平等に割り振らないとね」


 転生権利を独占した女神が何か言ってるぞ。ただ、俺は学習する人間だ口に出してはいけないことぐらいわかる。ここは黙っておこう。


「いてててててっ。急に何すんだよ?」

「だって、いま余計なこと考えたでしょ?」

「んなっ!?」


 なぜわかる!つねられたわき腹をさすりながら俺は愕然とする。まさか、思考を読み取るアレをいつの間にか展開していたのか…?


「ファウダーは思ったより表情に出るからわかりやすいわ。肉体が幼いのもあるのだろうけど」

「えぇ…そんなにわかりやすいのか?俺」

「すっごくね」


 メリィが俺を引き寄せながら指摘してくる。どうも俺の表情は誰が見ても、何を考えているかわかりやすうらしい。思わぬ事実にしょんぼりしていると頭に、ふにりとした重みが押し付けられる。うれしい感触だが、いろいろとヤバい。ヤバすぎる。でも離れたくない…。

 身長の小さいメリィじゃ腹の部分で俺を抱えきれないようだ。正直ここの身体が五歳児で助かった。少なくとも体だけはうんともすんとも言わない。心のほうはヤバいが。身体が成熟していたなら理性を失っていたかもしれない。というか失っていただろう。すさまじいまでの美少女のソレを押し付けられているのだから。そもそも、ルミィの時点でアウトだな。


「気分はどう?」


 そんな下心満載意なことを考えていたら不意にルミィが言った。


「どうって?」

「生き物を殺した後の気持ち悪さよ。どう?きえた?」

「…そういえば」


 いつものわがままだと思っていたが、彼女たちなりの気遣いだったらしい。振り回されているうちにいつの間にか自分の中にあった澱のようなものは消えていた。


「ふふっ。そんな感じなら大丈夫そうね」

「ぁ…。あり、がとな」

「どういたしまして。でもね、私たちはいずれ貴方の伴侶となるのよ?弱音だって言ってもいいんだからね。どうせ、誰に聞かれるわけでもないんだし」

「あ、ああ…」


 すべてを包み込むような優しい表情で言うルミィに、ただうなずく。嬉しさと気恥ずかしさでそうすることしかできなかった。


「私も忘れないでよ?ファウダー」

「わかってるよ。メリィ、ルミィもほんとにありがとう」


 自然と出た感謝の言葉にルミィたちはクスクスと笑って頷いた。

 ここでこの話題は終わり、後は時間の許す限りいつものごとくラノベやアニメを楽しんだ。二人の膝に交互にのせられながら。


 目覚めたときは、心も体もスッキリとした状態で、その日からの授業も問題なくこなせるようになっていた。

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