剣を振るう

 午後になると、ガウスがやってきた。午後からは剣術を学ぶ時間なのだ。

 魔法もいいが剣も楽しみである。小さい頃に新聞で作った棒を剣に見立てて振り回した記憶が蘇る。だが、今回は本物。地球ではほぼ叶わなかった本物の剣を、振れるのだ。


「こんにちは。ファウダー様。早速始めていきましょう」

「はい!」


 早速実際の剣。ではなく木剣を渡され、授業が始まった。といっても、中に鉄心が入っていて重さは普通の剣とほぼ変わらず、けっこう重い。片手剣を選んだというのに両手で持たなければかなりきついくらいだ。


「今日は剣の基本的なことを学んでいきましょう。まずは握り方ですね」


 そう言ってガウスは同じような木剣を実際に握ってみせ、真似するように示す。


「こうですか?」

「……少し握りすぎですね。指の後ろの二本で握って前の二本は添える程度ですよ。…と、こうですね」

「こう?」


 ガウスを真似して構える俺の剣を握る手にふれ、指の力を抜かせたり、動かしたりして位置を矯正してゆく。一通り終わったところで聞けばガウスも満足そうに頷いた。


「はい。これで問題ないでしょう。次は素振りをしてその後にまた握り方をチェックします。今日はこれを繰り返して剣の基本的な振り方、握り方を覚えましょう」

『はぁ?何言ってるのよこの人間。ぜんぜんだめじゃない!』

『へ?』

『あー……』


 わかりました。そう答えようとした瞬間ルミィが怒りを伴った声が響く。横で聞いていただろうメリィからは諦めたような声がもれていた。


『ぜんぜんだめってどういうことだよ?戦士なんだしこれが普通なんじゃないのか?』

『なわけ無いでしょ!まず手首が内側に曲がってる時点でおかしいし、指も親指は曲げない!構え方だって肘を伸ばし切るとか馬鹿じゃないの?片手で持つならまだマシだけど両手でやってるのにこれとか話にならないわ』


 貴方この世界の創造神的な立ち位置じゃなかったか?なんか武神みたいなこと言いだしたんだが。頭に響く怒りの声を聞きながら俺は思った。


『一応創造神の中に分類されてるし、ルミィは…並の武神より強いのよね。武器とかの扱いもなんでもござれよ。持ち方、戦い方、使い方。そういった技術はその手の神以上にあるから、ああいうのを見たら口を挟まずにはいられないらしいのよね。魔法はあんなだけど』

『そんなに詳しいなら先生いらねぇじゃん!普通にルミィ習ったほうが早くね!?』

『んふふー。どうよ、私だって先生になれるんだからね。それと、私から教えなかったのは目に見えるものがあった方がいいかなって思ったからよ』


 ちゃんと考えがあって教えなかったらしい。メリィの魔法に関しても同じようだ。それにしては、勝手に抜け出せとかさっさとレベル上げろとか言っていたような気がするが…。まあ、教えてくれるのはとてもありがたいので何も言わず感謝する。


『でも…これの指示に従ってたら変な癖がつくわね。仕方ないわ。こいつに言うことを聞くような動きをしながら適当に剣を振りなさい。その都度、指摘するから修正するように』

『お、おう。わかった』


 とりあえず剣を振ることに変更はなしと。ガウスにも、ルミィにも言われた通りまずは、剣を上から下に振り下ろす。


「おお、なかなか様になってますよ。ファウダー様」

『掌で握らない。小指と薬指を中心に持ちなさい。あと手首が柄のの中心に来るイメージ。手首は外側に曲げるように』

『わかった』


 ガウスが褒め、ルミィが頭の中で指摘する。俺はガウスの言葉を適当に聞き流しながらルミィの指摘をもとに少しずつ剣を振るう基礎的な姿勢と型を修正していった。

 時間も忘れてそうしているうちにいつの間にか日は陰り、ガウスは無言ただ俺を眺めるようになっていた。


『ま、今日はこのくらいでしょう。ちょっと窮屈な姿勢かもしれないけど、慣れなさい。それが一番いい姿勢になるから』

『おう…ってもう夕方じゃねえか』

『あら、ほんとね』


「何という…」


 ぁ…。完全にガウスの事を忘れていた。それだけ必死になってたってことなんだろうけど、わざわざ来てもらってる分申し訳ない。


「あ、ごめんなさい。むちゅうになっていました」

「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした」


 俺が謝るとなぜかガウスも深々と頭を下げて謝ってきた。意味が分からない。俺が戸惑っていると真剣な表情をしたガウスが折れの目を見て言う。


「わたしはあなたの本質を見抜けずに凡人と断定してしまいました。ですが、今日の素振りを見る限り、貴方は天才といっても過言ではない。故に謝罪させていただきたい」

「え…あ、うん。いいよ」

「ありがとうございます」


 どうやらガウスは俺のメリイの指摘を受けて修正されていく素振りを見て天才と判断してしまったようだ。

 力強い瞳に押されて思わず頷くと彼はただ一言お礼を言って元の姿勢に戻った。そして、明日よりの授業を考え直すということで、そのまま帰ってしまった。その足取りは軽く、とてもうれしそうに見えた。


『なあ、もしかして女神からの助言って結構ヤバい?』

『今更それきくの?』


 呆れたようなメリスの返事が返ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る