操作しよう

『………メリィ。魔力はどう扱うんだ?』

『…そうね。イメージとーーー』

『ちょっと!?せっかく教えたのになんで無視するのよ!』


 くっ。無かったことにして進めたかったが無理だったようだ。


『いやだって、なぁ?』

『ええ…ルミィは魔力の説明だけはなぜかこうなるのよ』

『どういうことよ?』

『気持ちはありがたいんとけどな…正直ルミィの説明じゃわからん』

『嘘でしょ……』


 愕然とした声が頭に響く。そんなこと言ったってあれでわかるのは感覚派の天才くらいのもんだろ。少なくとも俺は違うし、理解できん。


『というわけで、メリス先生お願いします』

『…先生。メリス先生。んふふ、いいわねそれ。じゃあ教えてあげるからしっかり聞くのよファウダー君』

『うす』

『あああっ!ずるい!私も先生って呼ばれたい!!』


 外野が一人騒いでいるがここは無視だ。さっさとスタートラインに立つためにも魔力の操作をモノにしなければ。


『いい?まずは心臓から腕に流れる魔力を意識なさい。右は…別のが流れてるから左ね』

『わかった』


 指示された通りに左手に通う魔力を意識する。こうしてみると、細かいところまでしっかりと流れているのがわかる。指の先その先端までじんわりと広がるような感触。冷たい手をお湯につけたようなといえばわかりやすいだろうか。


『初めてだから大まかでいいわ。それを掌にとどめてみなさい。腕に力を入れて血管を締めて押し出すようなイメージよ』

『っと意外と難しいなコレ』

『魔力の知覚さえできれば簡単だし、ファウダーならすぐできるわよ。それが出来たら晴れて魔法のスタートラインよ』


 指示されたイメージで魔力を止めようと何度も挑戦するがうまくいかない。若干流れが緩くなってるような感覚はあるからやり方はあってるはず。あとは俺の努力次第だろう。

 力を籠める位置を変えたり、加減を変えたりと試行錯誤すること約一時間。ついに魔力を手にとどめることに成功した。

 イメージは子供のころによく流行った手から光弾を放つ動作だ。その、力をためるような動作がピタリとはまった。


『できたぞ!!』

『おめでとう。これであなたも魔法士の仲間入りね。まだ、半人前ですらないけれど』

『おうっ』

『ただ…これ以上進むと天才じゃすまなくなるから今日はおしまい。魔法に関してはまた明日ね』


 あんまり目立ちすぎると神父が乗り込んでくるかもしれないんだそうだ。だから、普通の天才で済むぎりぎりのラインであるここで習得はいったん終わりだ。俺もあの神父には二度と会いたくないので素直にうなずく。

 後は手を握ってじっと待ってるマーラに報告するだけだ。


「できたっ」

「ええ!?」


 そう言って驚くマーラに、俺は今しがたできるようになった魔力の操作で掌に魔力をとどめて見せた。


「うそ…」

「どうですか?」

「あ…その、ええ完璧です。知覚だけでなく操作まで身に着けるなんてファウダー様は本当に才能がおありなんですね」

「そうかな?」


 確かに俺は神々に厳選されたって言われてるけど、俺自身は今までそんなに天才だって言えるほどの特技を身に着けた覚えはない。今回だってメリィのおかげで出来たようなものだ。あのアドバイスがなければ俺は知覚すらままならなかっただろう。


『まあ、ファウダーが選ばれたのはすごい才能だからじゃなくて、大きな成長性だからね。それこそ神を超えられるほどの。一で十を理解する天才のような劇的な成長は自分だけでは無理よ。だからあなたは全力で私たちを頼りなさい。ちゃんと応えてあげるから』

『お、おう。ありがとな』


 俺が首をかしげると、ルミィから優し気な言葉が届く。何というか頼もしくもあるが、少し照れ臭い。


「…ファウダー様。一つだけ約束していただけないでしょうか」

「どうしたんですか?」


 魔力をとどめる俺の様子をしばらく見ていたマーラが何かを決意したかのような表情で口を開いた。それは言葉こそ質問の体をとっているが、有無を言わさない謎の圧力があった。


「今日学んだことは決して誰にも言わないでください。もちろんご家族にも。私も誰にも言いませんし、もちろん契約の魔法も使います」

「どうして?」

「ファウダー様ははっきり言って天才です。その才はきっと教会が目をつける。そして、今の教会は腐っている。あなたという一人の才能を、未来を潰そうとするくらいには。ですから、自身を守ると思って誰にも言わないようにしてください」


 そういうマーラの目はどこまでも真剣で、純粋に俺の将来を案じての言葉だと理解できる。そのあって二日目でしかない、俺を思う優しさと真剣な目に自然と頷いていた。


『へえ、いい子じゃない。教え方は雑だけど』

『教え方はあなたが言えたことじゃないでしょう。でもいい子ってコトには同感ね。ほんの少しだけ魔物のドロップがよくなるようにしてあげましょう』


 女神たちからも好評のようだ。ただ、前も思ったがそんなノリで加護みたいなのつけていいのだろうか?いや、問題があればやらないだろうから大丈夫なんだろうけど、なぜか心配だ。


「あまり進みすぎても目を付けられますから、今日はここまでにしましょう。魔法に関しては明日から少しずつ怪しまれない程度にお教えしますね」

「わかりました」

「では、少し手を出してください」

「ん?こう?」

「ええ、ありがとうございます」


 マーラは差し出した俺の手をつかむと何やらぶつぶつと唱え始めた。その呟きが終わると、俺の掌とマーラの掌にじわりと魔法陣が浮かぶ。おお…魔法らしい魔法を初めてみた気がするよ。


「『我、マーラはここに誓う。ファウダー・カオ・ヘウンデウンに関する魔法に関する情報を他言しないと』」

「おお!?」


 今度ははっきりとした口調でそう唱えると魔法陣がふわりと浮かびお互いの胸の中へ吸い込まれていった。


「ファウダー様。これで制約は完了です。それでなんですけど…もし、目の前にに紅い塊が現れたら迷わず叩き潰してください」

「?わかりました」

「はい。それでは今日の授業は終わりです。午後の剣術頑張ってくださいね」

「はいっ」


 そうしてマーラは最後に屋敷に入って両親にあいさつすると帰っていった。


『へえ。やるわねあの子』


 門を出るマーラを見送っているときにかすかに聞こえたルミィの呟きがやけに耳に残った。

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