適性
数日後。予定していた家庭教師が到着したらしい。そうエリーから聞いた俺は、すぐに屋敷の応接室に向かった。
応接室には、父のほかに鎧を着た男と黒いローブを着た女が一人ずつ座っていた。
「ああ、来たね。ファウダーここに座りなさい」
「はい」
父に促され指定された場所、父の隣に座る。これで、家庭教師となる人たちと向かい合う形になった。
「さて、ファウダーに紹介しよう。今日からファウダーの家庭教師としていろいろ教えてくれることになる、ガウスさんとマーラさんだ。高位の冒険者として活躍している」
「紹介に預かりましたガウスです。私は武器を使ったものについて適正判断や指導を行います。よろしくお願いします」
「同じくマーラです。私は魔法関連についての指導を行います。よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
自己紹介を受けて、改めてその二人を観察する。男、ガウスと名乗ったほうは武器を扱うといっているだけあってかなりいかつい顔をしている。マーラは線が細く華奢な体系で、とんがり帽子をかぶって魔女ですって言えるような不思議な雰囲気をまとっている。この二人がこれから俺の先生になるのか。
「うむ、私からもよろしく頼むよ。それで早速やっていきたいのだが…」
「それでしたら魔法の適性から見ていくほうがいいと思います。あまり時間もかかりませんので」
「そうか、ではそうしてくれ。そのあたりは任せよう」
父の言葉にマーラがそう答えた。どうやら魔法の適性検査から始まるらしい。
適正か…。魂の厳選とかルミィが言ってたし、多分大丈夫だろ。…大丈夫だといいなぁ。
「では、大丈夫だとは思いますが、安全のため外で行いますので庭に出てください」
「わかりました」
マーラにそう言われ、動きやすい服装に着替えてから外に出る。すでにマーラとガウスは外に出ており、庭の隅には父と母が並んで座っていた。
「お待ちしておりました。では早速始めていきましょう」
「は、はい」
「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいですよ。簡単にできますし」
俺に緊張を見て取った、マーラが笑顔でそう言いながら懐から丸い石のようなものを取り出した。大きさは掌に収まるくらいで色は透明だ。
「これは、魔法に適性があるかを調べるための道具です。持っていただくだけで分かりますので…」
そう言いながら彼女はその透明な石を差し出してきた。俺はその差し出された石をひと通り眺めた後、恐る恐る受け取った。
「いっ‼」
途端、強い電流が流れたような痛みが走り、思わずその石を放ってしまった。
抗議するような視線でマーラのほうを見ると、そちらも驚いたような顔で俺を見ていた。
「驚きましたね…。普通は少しピリピリする程度で投げ飛ばすほどの衝撃は来ないのですが。ファウダー様は魔法の才能がかなりあるみたいですね」
『当然でしょ!私が見込んだ人間…というか魂よ。才能なんてあって当たり前よ』
マーラのつぶやきにルミィが反応する。どうも、才能があればあるほど持った時の衝撃が強くなるらしく、普通は少しピリピリする程度らしい。
ルミィたちははこうなることがわかっていたようで、なぜ黙っていたのか聞くと、驚くところを見たかっただけらしい。普段うるさいくせに、こういうときだけ静かにしたりして遊ぶのホントやめてほしいよ。
「ま、まあ才能があるのはいいことですから。次はどの属性に適性があるか見ましょう」
「またいし?」
そう言って差し出してきたのはさっきと違って黒い石だった。説明を求めれば、触れると適性のある属性の色に染まるらしい。
ただ、さっきみたいな衝撃が来ることを恐れて手を出せずにいると
「大丈夫ですよ。こちらは触れても痛みはありませんから」
「う、うん」
マーラに優しく言われ、恐る恐る受け取る。…確かに衝撃は来ないみたいだ。代わりに石は静かに色を変えた。青色に。
「…水のようですね」
「あおは水なの?」
「ええ、そうですよ。ほかの色にはならないようなので適正は水一つのようですね」
『ま、そんなもよね。今は』
『今はってことは増えんのか?適正』
『当たり前でしょ。何のための特性よ。その気になれば何でもできるのが〈可能性〉なんだから』
どうやらそうらしい。どうも最初から適性を増やすこともできるそうだが、あんまり目立つとしょっぱなから教会が出張ってくるからこういう形にしたらしい。あと、いきなり強くなっても面白くないとも。俺が思うに、本当の理由は後者の方だろう。確実に。
「では、これで魔法の適性に関しては終わりです。次は武器ですね。既にひと通り用意してあるので、ガウスの指示に従って動いてください」
「わかりました」
指示された方には確かに何種類もの武器がおいてあった。短剣、片手剣、両手剣、槍に弓、曲刀なんてものもある。子供サイズのものではあるがよりどりみどりだ。
「では、ファウダー様こちらにある武器をひと通り振ってみてください。弓は最後にしますからそれ以外で」
「はい」
そう指示されて、俺は順番に武器を持っていく。まずは短剣。小さくとも金属ずしりとした重みが伝わってくる。これが武器の重さか。いつの間にか用意されていた藁人形めがけて、とりあえず上からと横からの二回だけ切りつける。それと同じ作業を武器の分だけ繰り返した。
そして、最後に弓。矢のつがえ方を教わってから的めがけて放つ。しかしそれは、明後日の方向へ、どころか届きもしなかった。うーん武器関係は思ったより才能ない?
「…ふむ」
そんな俺の様子をつぶさに観察していたガウスは悩まし気に声を漏らした。やっぱり才能なしてことかね。
「その、言いにくいのですか、どの武器も特筆して才能が見られるものはありませんでした。その逆もまた…。簡単に言えば凡人でしょうか。魔法には強い才能があるようですし、武器は扱いやすいものを護身程度に魔法をメインにすべきでしょう」
「そうなんですか?」
『なに言ってんのよこのおっさんは!そんなもの鍛えれば何とでもなるんだからおとなしく教えなさいよ!!』
『全くね。これだから人間は』
誰もあんたらには言われたくないと思うぞ。というか相手は俺の特性を知らないんだからこれが普通だろ。扱いを学べる分だけましだ。そういうのは隠れてやれって言ったのはそっちなんだから。
俺が思ったことを伝えれば、二柱はおとなしくなった。
『…そうね。ならここは王道の片手剣を教えてもらいつつ、いずれは全武器コンプを目指すわよ!』
『そうね。それがいいわ。無双するならまずは魔法剣士からよね』
相変わらずハードルが高いなルミィさん。まあ、いいや。今は武器を選ぶか。といってもルミィの言った通り片手剣なんだが。一番癖がなさそうだし。
「じゃあこれをおねがいします」
「片手剣ですな。わかりました。では、今日は時間も時間ですし、明日から学んでいきましょう。マーラもそれでいいか?」
「ええ。内容も考えないといけないしね」
「ということですので今日はこれでおしまいです。ヘウンデウン子爵様もよろしいでしょうか」
「ああ、私はその手の専門家ではないからね。基本は君たちに任せるさ」
「では、これで。失礼いたします」
そう言って二人はお辞儀をすると屋敷から帰っていった。何というか、ようやく異世界らしいことになってきたな。明日が楽しみだ。
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