レベルを上げたい

 ステータス事件の翌日。相も変わらずうるさい女神たちの会話を聞き流しながら俺はステータスを眺めていた。


『―――て、ねえ?そんなにステータス眺めてどうしたのよ?』


 ずっと俺がステータスを眺めていたことが気になったのか、ルミィが俺に聞いてきた。


『いや、そろそろレベル上げたいなって。でも現状経験値は稼げんし、稼げたとしてもあの司教のとこに行かなきゃならんから、どうしたもんかなって』

『なんだ、そんなことで悩んでたの?それなら問題ないわよ。経験値問題だってメリィが仲間になったから解決したようなものだし』

『どういうことだ?』


 正直あの司教には二度と会いたくない。会わずに済むならぜひお願いしたいところだが。その前に経験値を稼がにゃならんけどな。


『レベル上げのシステムを作ったのはわたしよ?ファウダーの場合は私とつながってるしやり方も知ってるから、いちいち台座まで行ってレベル上げなくても私が直接あげてあげるわよ』

『…この加護って会話する以外にも効果あったんだな』

『当り前じゃない!私を誰だと思ってんのよ!女神よ、女神に役に立たない加護なんてあるわけないじゃない!何なら、ほかにも何個かあるわよ』


 すまん、正直会話くらいだと思ってた。いやそれでもかなり役には立ってはいたんだけど。主に俺の精神保護的な感じで。


『そうだったのか。まあ、その話はおいおいってことで。今は経験値だな。メリスがいたら何とかなるって言ってたけど』

『メリィは魔物関連の管理をしてるって言ってたでしょ。それって任意の場所に魔物を出現させることもできるの。ね、メリィ』

『うん。それくらいならできるわよ。強さの調節もばっちりよ』


 マジかよ。それならこっそり経験値も稼げるし、教会にもいかなくていいからレベルも上げ放題じゃないか。…あ、でも待てよ。


『魔物を倒した後の死体はどうすんだ?』

『そこも問題ないわよ。魔物は倒したら消えるから死体は残らないの。代わりに体の一部が素材として残ったりはするけど、それもないように調整できるわ』

『消えるって…どうなってんだよ。まるでゲームみたいじゃないか』

『うーん。あなたには教えてあげるけど、ほかの人には言わないでよ。この世界の誰も知らないことだから。特別よ?』

『お、おう』


 そんな重要なことを俺に言ってもいいのかよ。この世界ってことはルミナス教とやらも知らないことなんだろ?そうメリスに聞いてみれば、将来一緒になる人だから問題ない、だそうだ。

 出会ってどころか声しか聴いてないってのに、どうしてそこまで信頼するのか。それほどまでに神の独身はつらいのだろうか。


『この世界には正の魔力と、負の魔力があるの。で、生物が生きる上では正の魔力は必要不可欠なんだけど、これを使うと負の魔力に変わるのよ。で、その負の魔力を効率的に正の魔力に戻すために魔物がいるのよね』

『なるほど、つまり魔物を倒すと負の魔力が正の魔力に変わると』

『そういうこと。負の魔力が凝縮して、その地域にある魔物のイメージが反映されたものが魔物として発生するのよ。だから死体は残らない。残った体の一部、俗にドロップアイテムなんて言われているのは、その魔物の残りかす。生きているうちに摂取したものが残滓として残っただけね』

『だから、部屋の中で魔物を倒しても問題ないと』

『そういうこと。でも見つかったらまためんどくさいことになるでしょうから、できれば外に行ってレベルを上げたほうがいいわね。』


 ならば、ためらうことはないだろう。できるだけ早く始めたい。とはいえ、急に強くなったりしたら怪しまれること請け合いなので、、母やエリーと交渉してレベリングの権利をもぎ取らなければならないだろう。まずはエリーの説得からだ。


『いよいよね!さあ待ちに待った無双ロードがようやく始まるわよ!』

『ええ、楽しみね!夢にまで見たリアル無双だもの。期待しちゃうわ!』


 盛り上がる女神たちの声を聴きながら俺はエリーを呼び出した。


「いかがいたしましたか?坊ちゃま」

「エリー、おれはれべるをあげにいきたい!」


 するとエリーは額に手を当て、上を仰ぎながらものすごい深いため息をついた。

 解せぬ。

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