祝福
「でっか…」
街の中央にあるという教会を最初に見た感想である。いや、ほんとにでかいな。小学校の体育館ぐらいはあるぞ。
『まあ、職業の取得やレベルアップ、ステータスの取得にけがの治療などなどいろいろ用途がありますからね』
なるほど、需要があるから教会も大きいと。生活する人たちにとってなくてはならない存在というわけか。
中はよくドラマなんかで見るような、結婚式の会場みたいな作りになっていた。左右に長椅子が並んでいて、真ん中が通路になっている。奥にはステンドグラスがあり、透き通った光が神秘的に下にある台座を照らしている。
この世界の文明は中世に近いものが多く、ガラスは貴重だ。そのガラスをふんだんに使っているうえ、それなりの町ならばこの規模の教会が一般的となるらしい。
「ようこそいらっしゃいました。ヘウンデウン子爵家の皆様。本日は…祝福でしたな?」
「ええ、そうね。お願いしますわ」
ガラスを眺めていると奥から、神父っぽい服を着た爺さんが出てきた。母との会話を聞く限り、どうもこの日に行くことは事前に連絡が言っていたらしい。
「では、ご子息様。あの祭壇の上で女神、聖ルミナス様に祈りをささげてください」
「わかりました」
『言われたとおりにやればいいんだよな?聖ルミナス様さんや』
『やめてください。あなたにそう呼ばれると、なんかこう背筋がぞわぞわします。あ、祈りに関しては問題ありません。天使にいい感じにぴかっとしてくださいって頼んどいたので』
『へいへい』
ちょっと冗談で聖ルミナス様って呼んだらものすごくいやそうにされたな。まあ、俺も普段からそうは呼びたくはないし、もう呼ばないことにする。それよりもぴかっとするってなんだよ。ぴかっとって。そっちの方が気になるわ。主に不安で。
だからと言って何もしないわけにもいかないので、覚悟を決めて祭壇と言われた台座に上り、片膝をついて祈るよううな姿勢をとる。
しばらくすると、俺を中心にして光の粒が地面からいくつも立ち上り始めた。何というか、ちょっと神秘的だな。しばらくその状態が続くと、体が強く輝いた。…ほんとにぴかっとしたよ。
『ちょ、ちょっと強すぎるわよ!いい感じにって言ったじゃない。なんで加護もちクラスの光だすのよ!…後で文句言わないと』
だが、どうもルミィ的に光が強すぎたようだ。口調も崩れてるし。というか、加護もち並みの光ってやばくないか。どうすんだよ。目の前に神父いるんだが。
俺は内心の動揺を悟られないように立ち上がり、そっと神父の様子をうかがう。神父は変わらず穏やかに微笑んでいたが、最初と違って目だけは鋭く笑っていない。
『おい、ルミィどうすんだよ。なんか、あの神父ヤバい目してんぞ』
『ど、どうしようもないですよ。とにかく加護持ってることさえバレなきゃいいから何とかごまかすしかないです』
『マジかよ』
あの神父最初と違ってめっちゃ怖いんだけど。
俺が内心でおびえていると、神父は笑っているのに笑っていない表情でゆっくりと近づいてきた。
「ほっほ。せっかく祝福を受けましたので、確認してみてはどうですかな。頭の中で見たいと思いながらステータスと唱えれば見れるはずです」
「わかりました」
ここでごねても怪しまれるだけだ。とりあえず言われたとおりにして、おそらくいろいろ質問されることが予想できるので、ルミィと相談しながら答えていくしかない。
「みれましたかな」
「う、うん」
表示されたステータスはこれだ。
〈名前〉 ファウダー・カオ・ヘウンデウン
〈年齢〉 5
〈職業〉 なし
〈レベル〉 0
〈経験値〉 8
〈必要経験値〉 10
生命力 0
精神力 0
持久力 0
筋力 0
敏捷 0
耐久 0
魔力 0
知力 0
〈技量〉 5
〈特性〉 可能性
〈スキル〉 なし
〈加護〉 神の観察
ルミナスの想い
メリスの嫉妬
…行く前にも確認したが、なんかその時より増えてるんだけど。とりあえずわかってることは、経験値は普段の生活からの微増分。技量は自分で自由に動くために必要な分なので、大体幼児はこの数値になっている。あとは生まれた時から変わっていない項目ばかりなんだが…。
『なあ、このメリスの嫉妬てのが急に増えてるけど、どうゆうこと?』
『んな!…やられた。あの女、祝福に合わせてつけやがったわね。だから勝手に光ったんだわ』
『…大丈夫か?てか、キャラ変わってんぞ?』
『大丈夫なんかじゃないわよ!猫かぶってる場合なんかじゃないわ!あいつルール破って無理やりはいいてきてんだから!ああもうっ!とにかくまずはこの状況を切り抜けないとね』
…今まで猫かぶってたのかよ。
まあ、それはともかく、ほとんど状況は分からないがルミィの言うことも正しいので、詳しい事情は後回しにして目の前の状況に集中する。
「ほっほ。ひと通り確認できたようですな。して、先ほどの光、わたしにはいつもより強く感じましてな。少し確認したいことがあるのですが…、少し聞いてもよろしいですかな?」
質問の体をとってはいるが圧が強い。有無を言わせぬといった雰囲気だが、このままうなずいてもいいものか。
『ここで断っても変よ。うなずいておきなさい。言っていいところとダメなところは私が教えるからそれに沿って答えて』
「う、うん」
そう言われ、俺は話しかけてきた神父とルミィそれぞれに向けて了承の意を伝える。
「おお、それはありがたい!感謝いたしますご子息様」
『一ミリも感謝なんてしてないくせに白々しい』
神父の言葉にルミィが荒れている。どんだけ教会嫌いなんだよ。一応ここ旧教のほうじゃなかったか?
「では早速なのですが、ステータスの加護という部分に何か書かれていたりしないでしょうか?」
『言うまでもないけど、これは絶対言っちゃいけないわ。それと加護を持ってない人は、何も書かれていないからなしって答えて』
「えっと、何も書かれてないです」
精一杯、不思議そうな雰囲気を出しながら答える。どうにかばれないでくれ。
「そう、ですか」
…これは何とかなったのか?相変わらず目だけ笑っていない笑顔をしている神父の表情からは、どんなことを思っているのかを読み取ることはできない。
『この世界は教会の権力がかなり強いし、さすがに子供が神父をだまそうとしてるなんて思いもしないだろうから大丈夫なはず…』
『そこは断言してくれよ』
「では、特性が特殊かもしれませんな。ご子息様、教えていただけますかな?」
どうやら質問はまだ終わっていなかったらしい。
特殊な特性と言われても、どんな特性が特殊かわからないんだが、このまま答えていいのだろうか。
『あなたの特性はあなた専用でつくったものだから、これも言わないで。そうね、よくある健康体とか言っておいて』
「け、けんこうたいです」
「ふむ。ではステータスの数値はどうで――」
「もう十分でしょうラモル司教殿。他人のステータス探るのはマナー違反ですわよ」
まだ続くのかと思ったが、母が神父の言葉に割り込んできた。あの神父、ラモル司教だっっけ?無駄に圧が強いし、変な目で見てくるし正直かなり助かった。
「しかし、もしかしたらご子息様は聖人様やもしれんのですぞ?詳しく確認しなければなりますまい?我々聖職者にとってこれは最も重要なことなのです」
「ですが、規定では加護と特性の確認のみとなっているはずです。これ以上の確認はあなた方教会の規定から逸脱するものではございませんこと?」
「しかし…。では、祝福の際の光はどう説明するのです。我らに伝わる聖ルミナス様の加護の光と同じ」
「伝わっているだけであなたが見たわけではないのでしょう?」
『なーにが最も重要よ。聖人見つけて自分の地位と権力と金を増やすためでしょうが。忌々しい。ゴミくずどもが』
『ルミィ、お前教会嫌いすぎないか?しかもあれ旧教のほうじゃん』
突如始まった母と司教の言い合いを眺めていると、ルミィが吐き捨てるように神父を罵倒していた。
『比べたら旧教のほうがましってだけで、旧教も腐ってるわよ。あいつら金と権力と性欲しか頭にない脳みそゴブリンみたいなやつばっかよ。ちゃんと祈ってるのなんて田舎の末端神父やシスターぐらいね』
『そ、そうか…。なのに、生活には欠かせないと』
『そうなのよ!ほんとに最悪。しかもあいつら、毎年上がる無駄に高い治療費に必要もないのにレベルアップのお布施要求とか、私の名前使って好き勝手するんだもん。好きになれるわけないじゃない』
『それは…いやだな』
自分名前を勝手に使われて好き勝手される。想像だけでぞっとする。それをルミィはずっとやられてたわけだから、そりゃ嫌いになるのもおかしくないわな。
「―――そういうことですので、わたくしたちもステータスを規定以上に公開する必要はありませんから、もう行かせていただきますわね。…ファウダー帰るわよ」
そうこうしているうちに、母と司教の言い合いが終わったようだ。結果は母の勝利。俺はこれ以上ステータスを司教に教えることなく帰れることになった。
「…っ」
教会を出るときちらりとみた司教の顔は、言い負かされたことに対する悔しさというにはやさし過ぎるほどに歪んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます