自立というのとても気持ちがよいものだ

 自分のステータスを知ってから1年が過ぎた。なんでわかったかって?簡単だ。ステータスの年齢が1になってたからだ。つまり俺は一歳になった。

 もちろん俺のも成長し、視界もはっきりして、なんと自分の意志である程度動けるようになったのだ。ハイハイしながら自分の好きなところに動けるし何なら柵につかまって立っちゃうことだって可能なのだ。感激である。そして、


「まあまあ、ファウダーはもう立てるようになったのね。すごいわ!」


 と、俺が立ち上がると、母親や周りのメイドがほめそやす。とても気分がいい。この調子で歩けるようにならねば。ちなみに、なぜメイドがいるのかというと、俺は子爵家の4男として生まれていたからだ。ルミィによると領地もあるらしい。前々から気配で人がたくさんいるように感じていたけど、メイドだったとは驚きだ。

 そして、ルミィはというと、


『ファウダーさん、ファウダーさん。そろそろベッドに戻らされる時間ですよね』

『そうだな』

『では、昨日の続きをしましょう!今度は私のおすすめですよ!』

『お、いいね。楽しみだ』


 めちゃくちゃ仲良くなっていた。いやだってね、この一年めちゃくちゃ暇だったのよ。んで、暇つぶしに話してたらラノベの話になってな。そこからあれよあれよという間に深みにはまって、今では一つの作品に対して語り合う中になったというわけだ。お互いのおすすめを読みあうなんてこともしている。

 異世界だからそんな本ないだろって?そこはルミィが解決してくれた。ステータスパネルを改造して、電子書籍みたいに読めるようになったんだよ。これのおかげで、俺の赤ちゃんライフは地獄から天国に変わったといっても過言ではないね。

 だけど、そんな生活にも欠点がある。


「ファウダー、ご飯の時間ですよー」


 そう、飯だ。この時ばかりは天国も様な環境も地獄に早変わり。食事という名の拷問が始まる。


「はい、あーん」


 そうして差し出されるスプーンの上にはどろりとしたオレンジ色の物体が溜まっている。離乳食だ。これがまたクソまずい。

 小麦粉を多すぎる水で固めたようなものの中に何かの野菜をすりおろしたのをぐちゃぐちゃに混ぜて、人肌程度に温められた生温いものを口の中に押し込まれる。これを幼児用とはいえ茶碗一杯分。この時ばかりは、ルミィも五感の共有を切って逃げだすほどにまずい。それが1日最低三回は行われるのだ。

 世の中の赤ちゃんはよくこんなものを笑って食べられるな。


「はーい、これでさいごよ。きょうもよくたべたわね。じゃあ、また夜ご飯の時にたくさんたべましょうねー」


 固形食が恋しい。早く成長してまともな飯を食いたい。旅をするようになったら絶対世界中のうまいものを食いまくってやるんだ。そう俺は固く誓った。


 ―――数年後―――


 俺は五歳になった。まだバランスは危なっかしいが、思い通り体が動く。自分の足で立って歩く。自立というのがこんなに素晴らしいものとは思わなかった。うれしすぎて俺はことあるごとに走り回っている。


「うははははははははは‼」


 今走っているのは庭だ。別に目的はない。ただ走っているだけ。だが、とんでもなく楽しい。幼稚園児たちはきっとこんな気持ちだったのだろう。


『うれしいのは分かりますけど、ちょっとはしゃぎすぎじゃないですか?』


 そんなことは知らん。俺は今を全力で楽しんでいるだけだ。自分の意志で動ける幸せがわからんやつには理解できんだろうよ。


「まあまあ、ファウダーは今日も元気ね」


 この世界での母親はそんな俺をほほえましそうに見ている。名前はリリステラというらしい。最近知った。


「うはははははは―――ぐぺっ」

「坊ちゃま!?」

『ほら、言わんこっちゃないですよ。大丈夫ですか?』


 転んだ。顔面から思いっきり行ってしまった。結構いたい。ルミィのあきれた声と、慌てたような声が聞こえる。この坊ちゃまといったのは俺の専属メイドらしい名前はエリー。そして驚くことにこのメイド耳が長い。そう彼女はエルフなのだ。エリーは、俺が生まれた時からずっといろんな世話をしてくれていたらしい。種族差別がある中でエルフの使用人はなかなか珍しいらしい。

 まあ、ルミィ曰く、何かあったときの人柱のようなものらしいけど。


「もんだいない!」


 俺はそんなメイドのエリーとルミィにそう言うと、また庭を駆け回った。ああ、走れるって素晴らしい。次はあの木に登ってやろう。


「ちょ、坊ちゃま⁉危険ですからおやめください‼坊ちゃま‼」


 動けるようになってからは、おおむねこんな感じで過ごしている。

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