目標とお願い
「ぎゃああああああ‼」
とてつもなくうるさい泣き声に頭が痛くなる。しかも自分自身が発しているせいで逃げ場がない。じゃあ、泣き止めばいいじゃんって?出来たらとっくにやってるよ。自分の意志なんか関係なしに、体が勝手に泣いてるもんでどうにもできん。
「ぎゃあああああああ‼」
「おやおや、今回の子はとっても元気ですねぇ。さあ、まずは体を洗いましょうねー」
そんなうるさい自分の泣き声を耐えているうちに、俺は体を洗われ布のようなものに包まれた。
「ぎゃああああああ―――むぐぅっ」
そして、口の中に何やら丸いものを突っ込まれる。俺の体はそれを求めていたのだろう。それが口の中に入った瞬間に泣き止んで、一心不乱にそれを吸い始めた。すると何やら甘い液体が出てきて体の中にしみわたっていく。
ああ、授乳か…。赤ちゃんなら当然だよな。ある意味体の自由がきかなくてよかったのかもしれない。動けていたら恥ずかしくてかなわないだろうから。
ひと通り飲んで俺の体は満足したのだろう。今度は強烈な眠気が襲ってくる。出産というのはもしかしたら母親だけでなく子供もかなり消耗するものなのかもしれないな。俺はそんなことを思いながら深い眠りに沈んでいった。
翌朝、やはり体の自由は聞かない。意識はあるのに体が動かないって思った以上に苦痛だ。視界もぼやけてるしな。せいぜいできることは周りの音を聞くぐらいだ。
『あのー、大丈夫ですか?』
何者⁉今は俺の周りにはだれもいなかったはず。ドアの開く音もしていない。まさか、幽霊⁉
『その、昨日転生させた女神です。今は肉体があるので伝えようという意思をもって言ってくれないと何も聞こえないので、聞こえていたら返事をしてくれませんか。あ、伝え方は頭で念じるだけでいいですよ』
確かに、聞いたことある声だったわ。頭で念じれば伝わるか…
『こんな感じか?』
『あ、つながりましたね。よかったです』
『で、何の用だ』
『先日は取り乱してしまい、勢いで送ってしまったので説明できてない所のお話をと。申し訳ありませんでした』
まあ、あれなら説明出来てない所なんていくらでもあるだろうな。独身に結婚のことを言えば怒るのも当然だ。ましてこの女神は独身歴数千年の猛者だ、爆発するのも無理はないのだろう。
『気にしてないから大丈夫だ』
『ありがとうございます。では、今回の転生での目標についての続きからお話していきましょう』
ほっとしたような声で俺に礼を言うと、女神は前回の続きから話し始めた。
『無双系ですので、前も言いましたが最強を目指すまではいいですよね?』
『ああ』
まあ、ラノベの再現だからな。前も聞いたがこれは納得というか当然だろう。それに俺も男だ。最強という単語にはあこがれもある。
『そこで最終的に私を超えて結婚する。ここまでが、目標の大きな流れです』
『…そうだな』
ここで、下手に口を挟むとまた爆発だろからな…。まあ、神を超えるなんて現実的じゃないし、適当に流しておけばいいだろう。
『その流れの中で達成してほしいことが2つとお願いが2つあります』
『ん?お願い?』
『はい、お願いに関しては達成できなくてもかまいません。余裕があればやる感じでいいです』
『そうなのか?』
まあ、できなくてもいいやつは気楽に考えておこう。見つけたらやるみたいな感じで。
『はい。まず達成してほしいことの一つは、この世界のいろいろな場所に点在している遺跡やダンジョンの攻略ですね。やっぱり無双系なら欠かせない要素ですのでたくさん攻略してください!』
『おう。それは俺もちょっと楽しみだな』
ダンジョンや遺跡か。ゲームじゃなくて現実なんだよな。やばい今からワクワクしてきた。早く体自由に動くようになんないかな。
『もう一つは目標を達成するまでの間にハーレムを作ってもらいます』
『は?』
『何か問題でもありますか?』
問題しかねーだろ。ハーレムってあれだろ女の子たくさん囲んでぐふぐふ言うやつだろ。自分と結婚しろー。なんて言ってるやつが言うセリフじゃねーだろ。
『いや、あんた結婚したいんだよな?』
『ええ、そうですが?』
『なんでハーレム?おかしくない?自分以外は許しませんならまだわかるけどさ』
『ああ、あなたのいた世界ではそうでしたね。天界はちょっと違うんですよ。男神って女神より数がとても少ないんですよね。そんな中で一人し妻がいないとなると、甲斐性ないしってバカにされるんですよ。私もう馬鹿にされたくないので頑張ってくださいね?』
顔も見えない言葉だけなのに恐ろしい圧力を感じる…。もしかして天界って想像以上に恐ろしいところなのかもしれない。
『それとも…、私と結婚するの嫌ですか?』
『ヒュッ!いえ‼全く問題ありません!』
突然低くなった声と、恐ろしい圧力に思わず返事をしてしまった。…まあ、ハーレムなんてできっこないし適当に流しながらやるしかないか。
『ふふ、よろしくお願いしますね。そういえば、名前を伝えるのを忘れていましたね。私の名前はルミナスといいます。気軽にルミィとでも呼んでください。……それと、裏切ったら魂ごと消滅させますからね』
『は、ハイ‼肝に銘じておきます』
その、急に低くなる声やめてくれませんかね。ヒュッてなるからヒュッて。どことは言わないけど。
そして、どうやらごまかしながらなんて真似は出来なさそうだ。多分すぐバレる。俺はこのふざけた目標に全力で取り組まなければならないみたいだ。ハーレムどころか一人ですら荷が重いってのにな。
『さて、今度はお願いのほうですね』
明るい雰囲気に戻った女神ことルミィが再び話し始める。
『まず一つ目、今のつながりを維持ししつつ、五感の共有をしたいのです』
『五感の共有?』
『ええ、私たち神々はめったなことで下界に干渉できませんから。せっかくですのでいろんなところを見たり聞いたりしたいのです。それに、私下界の食事食べてみたかったんですよね。皆さんおいしそうに食べてので気になって仕方ありません』
何というか、ようやく神様らしい事柄が出てきたな。今までのは俗っぽいというかなんというか、神よりも人間っぽい感じだったもんな。
『まあ、それくらいなら構わないけど』
『ありがとうございます!ふふっ、これでようやくこの世界のご飯が食べられます!あ、それとつながりを維持しているので、何時でも私とお話しできますよ!聖女の神託より優秀ですね!』
聖女、いるのか。そりゃいるわな。無双系って言ってたし。ダンジョンとかもあるらしいし、聖女くらい普通か。
『もう一つのお願いですが、この世界にも宗教がありまして、今あるのはせ、聖ルミナス新教とルミナス旧教があるんです』
お、ちょっと恥ずかしそうだ。自分で言うのは恥ずかしいってやつかな。名前的に祀ってんのはルミィだろうし。この流れだとどっちかの宗教に入れってところか。まあルミィとはこれから長い付き合いになるだろうし、それくらいなら全く問題ないんだけど。
『その、新教を名乗る騎士とか司祭とかそういうのがいたら…その』
『いたら?』
『状況が許すなら、徹底的につぶしてください』
『はいい?』
なんで⁉自分を崇めてる人たちだよね⁉それつぶすの?せっかく信じてくれてるのに?
『……とりあえず理由を聞こうか』
『だってあいつら!せっかく苦労して管理して、ようやくできたエルフや獣人たちとか、普人種以外の種族を存在が悪とか言って殺しまわったり奴隷にして使いつぶしていったりするんですもん!このままいけば絶滅する種族だって出ちゃいますよ!しかも、求めてもないのに生贄とかしてますし』
思った以上に重い理由だった。種族が絶滅とか生贄とかなりやばい組織じゃないか。けど、そんな組織つぶせってことは、確実に殺し合いになるよな。
『さすがに人殺す自信はないぞ。精神的に』
『問題ありません。そのための魂の厳選なのですから』
厳選て、俺は卵じゃないんだぞ…。
『精神性、強度、魂の大きさ、容量、成長性、年齢など様々な観点から最高レベルのものを、その分野専門の神とともに死にゆく魂を分析した結果あなたが選ばれたのですから。そもそも殺人程度で折れるような精神なら、あの場に呼ばれていません』
『そうかい』
どうやら、精神的なものはルミィ曰く問題ないらしい。まあ、その時になってみないと分からないし、どれもこれも動けるようになってからだな。今からうじうじ考えても仕方ない。先送りともいうが。
『とりあえず、その目標とお願いってのをもとに行動しろってことだな』
『そういうことです。これから、末永くよろしくお願いしますね』
『あいよ』
そうして、いつの間にか感じていた、満腹感とともに襲ってくる強烈な眠気に俺の意識は沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます