女神様はラノベをしたい

柚子大福

プロローグ

 死んだ。享年17歳。別に轢かれそうになった少女を助けて代わりに轢かれたとか、中卒ブラック企業での疲労がたたってといった運命的な理由があったわけではない。自分の部屋の散らかっていたモノにつまずいて頭を打って死んだだけ。

 間抜け。ただただ、間抜けな死に方である。そんな間抜けな俺は今、真っ白な空間にいた。右も左も上も下も真っ白。距離感もくそもない。そして眼前には、現実離れした美しい顔の女がいた。


「自らの死を知ってなお、その落ち着きよう。やはり私の見立ては間違っていなかったようですね」


 この言い方から考えるに、この女は意図して俺をここに連れてきたようだ。


「その通りです。ランダムではなくあなたを狙ってここに喚び出しました」

「ッ⁉なんでわかったんだ?」


 自分の考えていることを読まれたことに驚き警戒をあらわにすると、その女はクスクスとおかしそうに笑った。


「そんなに警戒しなくても、大丈夫ですよ。それに、私は心を読んでいるわけではありませんよ?」


 はて、それはどういうことだろうか俺がそう思っていると、女は笑顔のまま答えた。


「ここにいるあなたは、魂だけで肉体がありませんから、心がむき出しになっているようなものです。だから、あなたが思うこと考えていることは全て漏れてしまう状態ですね」


 それは、なんというか、あまりいい気分はしないな。


「そういわれても仕方ないですよ。ここは死者たちの行き先を決めるあの世とこの世の狭間みたいな場所ですから。嘘なんてつかれて間違えたら大変じゃないですか。量も多いし、天使を目いっぱい動員しても手一杯なのに、真偽の判定までやってたら過労死まっしぐらです」


 そう言うことなら仕方ないのかもしれない。人間だけでも1秒に2人は死んでるって話だ。1秒ごとにわいてくる仕事…。想像したくもないな。

 ということはだ、目の前にいるのは天使ってやつで俺もこの先を決めるためにいる中の1人って感じだろうか。


「いえ、あなたは特別です。直接専用のエリアに私が呼び出しました。あと、私は女神です」


女神だったのかよ。全然わかんなかったぞ。それに特別ねえ。自慢じゃないが俺には特筆できるようなもんはないぞ。


「そこは、問題ありません。それと、わからないなんてありえません。天使とは神々しさが違います」


まあ、呼び出したんならなんかあるんだろう。あと、女神なんて見たことねえんだからわかるわけねえだろ。


「……まあ、いいでしょう。その通りです。あなた、異世界転生に興味ありますよね?今からあなたにはそれをしてもらいます」


おおう。俺も高校生だ。ラノベもアニメもゲームも好きだから興味はある。けど実際に起こるなんて考えてこともなかったんだが…。というか、なんで俺なんだよ。


「その理由もお話ししましょう。事の始まりは数年前の事です」


そっからか…。それに時間も微妙だし。


「天界。すなわち私たち神や天使たちが住まう世界にはあまり娯楽がありません。あるのは味気ない景色と、無駄に有り余った時間ぐらいです。寿命もないですしね。やることと言ったら自分の伴侶になった神とくんずほつれつするくらいなのです。忌々しい」


想像もしたくねえな。というか忌々しいってあんたもしてたんじゃないのかよ。


「黙れ!相手もいない独神たちの気持ちも知らないで口を挟まないの!」


そ、そうか。な、なんかすまんな。そうだよな、リア充なんて見たくないよな。


「わかればいいのです。…ンン。そこで、退屈を持て余した私たち神々はあるとき思いました。管理してる世界の娯楽持ってくればいいんじゃね。と」


お、おう。別にそれだけなら俺は関係ないだろ。というか気づくの遅くね?


「そこで、私たちはいろいろな世界をのぞいて探した結果、見つけたのが地球世界のラノベです。今は、特に無双系がはやっています」


だから、それと俺に何の関係が…、ああ、この女神聞いてねえや。完全に自分の世界に入ってる。というか無双系って…ちょっと古くねえか。


「スローライフや恋愛ものなんかもありましたが、そういうのは普段見ている世界の中にそれなりに転がっていたのでつまらないと、あんまり人気が出なかったんですよ」


そうかい。だからどうしたとしか思えないんだが。


「そうして次々に仕入れられるラノベについて独神仲間で語っているときに、面白そうだからこれ実際にやってみないかという話になったのですよ」


どうしてそうなった。…いや、神だからこそか。


「思い立ったら吉日。善は急げということで、早速実行に移すため最高神にお伺いを立てたところ、『面白そうだからおーけー』と許可をもらったので、天界にたくさんいる独神たちとの熾烈な争いの果てに転生させる権利をもぎ取った。というところで最初のところに戻りますね」


なぜ、独身限定なのが気になるけど、とりあえずあんたたち神様がしたいのは俺を異世界に転生させて無双させたいってことでいいのか?


「簡単に言えばそうですね」


じゃあ、そう言ってくれよ。途中のくだりはいらなかっただろ。


「まあ、そういわずに。それと、数ある独神たちから転生させる権利をもぎ取ったのである程度目標を決めたいと思います」


目標ね。確かにあった方がやりやすいけど、俺にできるのかね。


「問題ありません。死にゆく魂たちを天界に住まう神々総出で、精神性や魂の大きさなど、様々な要素にかけて厳選に厳選を重ねた結果あなたが呼ばれたのですから。素質に関しては全く問題ありません」


そうかい。というか、自分たちの娯楽のために天界の神様総出でやんのかよ。そんなんで大丈夫か天界。


「問題ありません。基本的な業務は天使にさせますので」


娯楽のためにこき使われる天使…。哀れすぎる。


「そんなことよりも目標です」


そんなことって…。ブラック企業も真っ青だな。


「無双系ですので、まずステータスは当然最強を目指してもらいます。というか神である私を超えてもらいます」


おいおい、いきなり無茶苦茶言ってきやがった。神を超えるとか普通に考えて無理だろ。というか無双だけなら別に超える必要ねえじゃん。


「いえ、超えてもらいます。というか超えてもらわないと困ります。権利をもぎ取った意味がありません」


なんで?


「それは…その、最高神が転生者が転生させた神の能力を超えたら伴侶にしていいといったので」


は?


「い、いいじゃないですか!私だって夫が欲しいんですよ!友神の女神にあんたまだ結婚してないのとか、永遠の処女神とか言われたくないんです!あいつらこれ見よがしにイチャコラしやがってマウント取ってくるんですよ!?もう何千年も!いい加減私だって頭に来てるんです!ここらでぎゃふんといわせてやらないと気が済まないんですよ!」


ちょ、いきなりなんだよ!てか、独身の方々が争ったてのはまさか―――


「そうですよ!悪いですか!夫が欲しいからですよ!私だって女なんです!ちょっとぐらい夢見たっていいじゃないですかぁ!」


わ、わかった。わかったから、一回落ち着け。落ち着いて話し合おう。な、な?


「と、とにかく、あなたには転生して強くなってもらいます!私よりも!拒否権はありませんから!とにかくいってきてください!」


は?ちょ、うぇ?おわああああああああああ。


女神がいってきてくださいという言葉と同時に、俺の視界は周りの白よりもまぶしい光で覆われ、地の底に落ちていくような感覚に襲われた。


「ぎゃああああああああああ‼」

「おめでとうございます!立派な男の子ですよ奥様!」


そして、気づいた時には俺は転生を果たしていた。

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