ロッカー内に男女二人入ればそりゃまあ……1

『〝イってはならぬ。イったらそれは、約束を反故した事と、同義なり〟』



 そう俺に言い残したのは人ならざる者だった。


 もし、この誘惑の多い世界でそれでも自分を見失わずに過ごせたら……元の世界の、筏井家の生活を楽にしてやるとの事。


 初めこそ胡散臭くて仕方がなかったが、その人ならざる者は人ならざる者の証明をしてみせた。仲間〇紀恵もお手上げの力だった。


 そう……俺がこの変態しかいない世界にいる事こそが証明だ。


 だからこそ、俺は馬鹿げた命を馬鹿正直に信じて従っているのだが。



「ねぇ…………理生君はどうしてエッチを拒むの? 嫌いなの?」




 ……限界が近いかもしれない。




「ねぇ……どうして? 今も女の子とこんなに密接してるのに、興奮すらしないの? 勃ちすらしないの?」



 興奮しない? してるに決まってるだろッ! 勃ちすらしない? おッ勃ちビンビンフィーバーに決まってんだろうがああああああッ!



「確認、してみよっかなぁ……触って」



「や――やめろッ、触るなッ!」



 牧瀬の侵略に対し、俺は身を捩る事で抵抗して見せるが、この狭さじゃ防げもせず、



「――――はうぁッ⁉」



 握られてしまう。



「……おっきくなってる、ね? ふぅー」



 顔を近づけてきた牧瀬が甘い息を俺の耳に吹きかけてきた。


 はッ、はッ、はッ――――はああああああああああああああああああああああああッ、うわあああああああああああああああああああああああああッ!



「すんごい……更に大きく、硬くなっていってるよ? 理生君!」


「そ、そんなわけ……はぁ……ふぅ……ないだろ……」


「ううん、そんな事あるよ? 今だってほら……体は正直なんだね!」


「は……放せッ!」



 このままではまずいと俺は牧瀬の手首をとり、陰部から引き離す。



「い、痛いよ、理生君……もっと優しくしてぇ」


「悪いな牧瀬……ちょっとの時間、我慢しててくれ」



 痛がる彼女の声に若干の後ろめたさを感じるも、仕方がない事と目を瞑り、俺はロッカーを開けるべく空いた方の手を伸ばす。



『いやー今日も朝からいい汗かいたーッ!』


『主に下の口から……だろ?』


『ちょっとやめてよ~もおッ!』



 そしていざ開けんッ! とした瞬間、下品極まりないトークが聞こえてきた。


 し、しまった――――もうそんな時間かッ!


 クラスメイト達が続々と教室に入ってくるのが通気口から見える。




「これじゃ……出たくても、出れない」


「出したいなら出させてあげるよ♡ 手がいい? それともお口で? も、し、く、はぁ……」



 俺が口にした出たくないを完全に勘違いしておられる様子の牧瀬は、ロッカー内という狭い空間で器用にスカートの裾をつまみ持ち上げ、雪のような色した太ももを見せてきた。



「中に……出してみる?」


「よ、よせッ! 誘うな馬鹿ッ! 俺はな、。出したいんじゃなくて出たいだけだッ!」


『――ん?』


『どしたの?』


『何か今……あのロッカー動かなかった?』



 ――なぬッ⁉


 ロッカーを怪しむ声が外から聞こえ、俺は咄嗟に口を手で覆った。


 通気口から見えるは、こっちを訝しげに睨んでいる女子と、その隣でヘラヘラと笑っている女子。



『全然動いてないじゃん! もう、脅かさないでよ』


『……おかしいな。確かに音がしたんだけど』


『ふぅん……あ! あれじゃない? ロッカー内でヤッてるとか!』


『あんな狭いとこでヤッてるわけないじゃん。もっと場所選ぶって』


『そう? ウチはいいと思うけどな~……今度試してみよっかな~』


『うーわ、普通にホテルとか広い場所の方が良いでしょ、絶対』


『狭いからとかじゃなくてさ……皆が教室で授業受けてる時に後ろで隠れてシてるとかちょ~良くない? 興奮しない?』


『…………それは、まあ。ちょっとは、するけど』



 ……あ、危なかったぁ。


 こっちをやたら怪しんでいた女子は、下の話に花を咲かせる日常へと戻っていった。


 しかしながらまだ、非常事態は継続中。


 人の目がある中でここから出ていく事はできない。


 ここを出るには教室内が無人の状態でないとならない。直近でその条件を満たせるのは……2時限目の体育か。


 それまでロッカー内で辛抱しなくちゃならないわけだが……、



「はぁ……なんか体が火照ってきちゃった。上、脱いじゃおうかな♡」



 果たして俺は、それまでに理性を保ち続ける事ができるのだろうか?

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