第16話 初見です
ものすごい速さで森を突き進むヴィトを追い、木々をかき分けていく。
あの子は小さいからか、俺が通れないような場所もスイスイと入り駆け抜けていくのだ。
ヒィヒィ言いながらも、そんなヴィトとはぐれないように必死で足を動かした。
「ヴィ、ヴィト~~~!っはぁ、もう…俺もこんなに体力が落ちたのか…」
もう限界だと足を止め、膝に手をついて肩で息をする。
こんなに全力疾走をしたのなんて高校の体育祭以来だ。
元々運動は苦手ではないが得意でもなく、学生時代は写真部だった。なんならそれさえも幽霊部員であったがために、全力でスポーツをするなんてものは無縁だったのだ。
こんな大人になってまで全力疾走をするなんて考えられなかった。
いやそれよりもヴィトは…
ぐるぐると思考を巡らせながら息を整える。
やっと普通に立てるか、と思い顔を上げると先程は気が付かなかったがすぐ先に大きく開けた原っぱが見えた。
また、うっすらと何か声のようなものも聞こえる。
「あそこにいるのか?」
その場であたりを見渡してみてもヴィトの姿は見えないため、あそこにいるのだと検討を付けて歩いていく。
近づくにつれ何か争っているような声が聞こえてきた。
もしかして何かに襲われてる!?
重たい体を叱咤し、なんとかヴィトが見えるところまで足を動かす。もし戦闘なんかがあった時でも、いきなり飛び出して足手まといにならないように…とりあえず草木の陰からそっと様子を窺うようにした。
ヴィトの近くに白いモフモフと…ヴィトよりも何倍も大きなものが横たわっていることに気づいた。ヴィトは、その白いモフモフをしきりに舐めている…ように見える。ふむ、戦闘などはされてないようだ。出て行ってもいいだろう。
安全が確認できたのでヴィトの方へ駆け寄り、声をかけた。
「ヴィト、途中姿が見えなくなったから心配したよ。なにかあったのか?」
自分の体の半分程度の大きさしかないそれをしきりに舐めていたヴィトは、舐めるのをやめて俺を見上げた。
「このこが、たすけてって!きこえた!」
この子…と思い白いモフモフを見てみると、縦に長い耳が見えた。生まれたてのウサギだろうか。
小さな体をさらに小さく縮こませるようにしてブルブルと震えている。
そして近くに倒れているのは、ってこれは!まさか!ゴブリンというやつか!?
初めて生で見た!!…いや、初めて見るのは当たり前ではあるが。
緑色の肌に、デカい鼻と牙、そしてとがった耳。ガリガリに痩せた体に、ぽっこり出た下っ腹。腰ミノのようなものを付けており、手に持っていたであろう棍棒のようなものがすぐそばに転がっている。
ヴィトに比べると大きく感じたが、実際は子供くらいのサイズのようだ。2人…2体?重なって倒れている。
「そこの緑のやつに襲われてたのか?」
「そう!ね、だいじょうぶ?けが、ない?マサヨシがなおしてくれるよ」
てちてちと白いモフモフを舐めていたヴィトは、舐めるのをやめて鼻でツンツンとその塊を突く。
するとブルブルと震えてた塊は恐る恐る顔をあげ、まわりをきょときょとと見渡した。
そのあげた顔はほぼウサギ。ただ、額にヴィトよりも少し大きなツノがあることで普通のウサギとは違うことが見てとれる。うーん、一角ウサギとかアルミラージとか言うんだっけ?
子ウサギは真横に倒れてるゴブリンを見上げ、飛び跳ねるようにビックリしたのち固まった。が、2体が動かないとすぐにわかったようでホッと小さく息を吐いた。
「いたいとこ、ある?」
子ウサギが少し落ち着いたところを見計らい、ヴィトは再度声をかける。
その声に子ウサギは首…というか、全身を左右にブンブンと振った後、お礼を言っているのかペコペコとこれまた全身で頭を下げた。
どうやら、暴行を受ける前にヴィトが助けたようだ。よかった。自然と詰まっていた息をホッと吐く。
それにしても、ヴィトも小さいと思っていたがそれよりも半分の大きさしかない子ウサギ。あまりにも小さい、あまりにも可愛い…こう、ギュッと…潰したくなってしまう衝動に駆られる。こう言うのなんて言うんだっけか。キューティクルじゃなくて、アグレッシブじゃなくって。
ウンウンといらんことを考えてるうちに、ヴィトが子ウサギに話を通してくれたらしい。
「ボク…スム。ミズタマリ、アル。オオキイ!」
「ほんと?マサヨシといっしょ、いっていい?いちにちだけ」
「ン。ママ、ヤサシ」
「ありがと!これ、たべる?」
「ミ、ミドリヒト、タベル、ナイ。ク、クサイ!」
「じゃあ、おいてっちゃお!ほかのまじゅう、たべるかな」
「ミズタマリ、コッチ」
「うん!マサヨシ、だいじょぶ?みず、あるって!いこう!」
「えっあ、ああ、はい。どこまででもついて行きます」
頼りない主人ですまん、頼りになるパートナーで嬉しいですヴィトさん。
どうやら子ウサギの住処にも湖か池かはあるようで、一晩そこにお世話になれるそうだ。
こんなに小さな子が生きていけるってことは、強い魔獣なんかは出てこないんだろう。
小さく短い足を必死に動かしてる2匹について行きながら、そんなことを考えた。
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