第15話 寝床を探せ
「進んでも進んでも、緑しかないな。」
あれから、白い騎士が戻った方向を左側にずっと歩いてきた。
しかし、あたり一面緑しか見えず、空もオレンジ色に焼けてきている。
「ヴィト、そろそろ寝床探さないとまずいか?」
目の前でご機嫌にお尻、もとい尻尾を振りながら先導してくれているモフモフに声をかけた。
「そうかも!ぼく、いつもつかれたらね、あなをほってねてた!」
ふんすふんすと鼻の息が聞こえそうなほど張り切っている。かわいい。
「穴か~…俺も入れるほどの穴を掘るとなると、1日かけて掘らなきゃいけないだろうな。ここら辺にいい穴場ないかな。」
隠れなくてもヴィトが言うにはこの辺りは強い魔族は出てこないと言っていたので問題ないとは思うが、気分的に壁や屋根に囲まれていた方が落ち着くというか…
とりあえず街へ向かう足は止め、今日の宿探しをすることにした。
もっと金があればオーダーでテントやらが買えたと思うが、今はもう残金はわずかだ。
「ヴィト、この辺りで一夜過ごせそうな場所を探そう。洞窟とか木のウロがあればいいけど、もしないならないでまぁ…大きな木の下でもいいか。」
大きな木の下。そういえば、栗なんてこの世界にはあるんだろうか
ああ、モンブラン、栗の甘露煮に栗きんとん…オーダーさえ使えれば、こっちの世界でも食べられはする。しかし、値段的に向こうの世界より気軽に食べることは不可能だろうな。
食べられないと意識すれば意識するほど、恋しく食べたくなるのは人間のサガか。
全然違うところに意識が向かっている俺とは別に、うちの可愛い子は小さな耳や鼻を駆使して今夜休めそうな場所を探してくれている。
ああ、面目ない。俺も探そうとあたりを見渡すと、ヴィトの方からフワリと優しい風を感じる。反射的にそちらを見てしまった。
「ヴィト?」
「マサヨシ、みずのおと、きこえる。すこしみぎと、おく?」
ぱっと振り向いたヴィトが、首を傾げながら俺を見上げる。
犬特有の首を傾げる仕草がこんなにもかわいいとは。いや、前から可愛いとは思っていたが、ヴィトがするとその数倍、いや数百倍は可愛いんだ。
「本当か。川のあたりって、強い敵がいるんじゃなかったか?俺たちが近寄っても平気かな。」
「ん~、かわ、より、みずうみ?たぶん、へいき。」
「おお、なるほど。よくわかるな。」
「かぜのまほう、すこしつかった!みみとはな、ふつうよりもっとかんじる!」
なるほど、さっき感じたのは風魔法だったのか。とても柔らかくて優しい風だった。なぜかそれがとてもうれしくて、思わず満面の笑みでヴィトを抱き上げて頬ずりしてしまう。
「ああ、そうなのか。本当にお前はすごいなぁ。俺の自慢の相棒だよ。」
「!!うん!」
その行為にヴィトもきゃっきゃと声をあげて喜んでくれたので、気をよくした俺はその可愛い塊を抱きかかえたまま言われた通りの方向に歩みを進めた。
「こっちであってるか?」
「んと、もうすこし…みぎ!」
ヴィトナビに頼りつつ、湖に近づいていく。
こんな森の中を歩くなんて、本当に小学生以来である。履きなれた靴とはいえ、あまり舗装されていない道を革靴で歩いたおかげで足も痛く、2日後は確実に筋肉痛だと思う。
ここ数年で、筋肉痛が数日後に来るようになってしまったのだ。精神はまだまだ若い気でいたが、肉体が歩みを止めてはくれない。
「マサヨシ、まって!」
と、またどうでもいいことを考えていたら突然、ヴィトが大きな声を出した。
「あ、あのね、まえのおくのほう、だれか、ないてる、こえする…!!!!」
そう言うと、ピョンと腕の中から飛び降りてすごい速さで前方に走っていく。
もしかしなくても、あれは風魔法を併用しているのではないだろうか。うちの子は本当に魔法の使い方が上手いな。
「じゃなくて!まってくれヴィト、俺も行く!!」
少しばかり現実逃避をしていると、もうヴィトのことが見えなくなってしまった。
一応まっすぐ突き進んでいたのは分かったので、慌ててその後を追いかけた。
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