第13話 不吉な魔物

マサヨシがこの世界に来る、数日前…

とある酒場にて。


『その生き物は、黒い体と赤い瞳を持っている。

その魔族は、不吉の前触れである。

その魔獣は、見ると近いうちに親しい人間のに死が訪れる。

たとえどれだけ体が小さくても、子犬のような見た目をしていても、その姿は相手を油断させるためなので近づいてはならない。』


数年前から囁かれている噂話だ。

噂話というよりも、3年ほど前からこの街で目撃情報が多発している、黒い毛と赤い瞳を持つ小さな魔獣に対しての注意喚起と言った方が良いかもしれない。


「おい、またドラグ地区であの魔獣の目撃情報が出たらしいぞ。」

荒々しい足音を立てながら酒場に入ってきた男が、すぐ近くの席で飲んでいる1人の男に声をかける。


「またか。今月で何回目だ?」

「さあ?3回目くれぇじゃねぇの。ったく、普通の魔獣なら討伐するだけだが、目にするだけで親しい人間が死ぬ魔獣なんだろ。倒し方も面倒くせぇし、討伐隊で呼び出される俺たちの身にもなってほしいぜ。」

「冒険者は便利屋じゃないんだけどな。警備隊は自分たちの仕事じゃないって対応してくれないし。ま、警備隊はいいとこの坊ちゃんばっかだ、どうせ命は懸けられんのだろう。討伐隊も、独り身の冒険者しか呼ばれんしな。しかし、だからか被害は少ないというから、この方法が適しているんだ。一抜けしたければお前もお相手を見つけることだな。」

そのセリフに言い返すことができないのか、荒々しい男は舌打ちをしつつ店員に声をかけ自分の酒やつまみを注文する。


「でもあの魔獣も大したもんだ。目撃情報があれば討伐隊が駆けつけてボッコボコにするのに、懲りずに人間の前に出てきやがる。しぶてぇやつだ。さっさとくたばっちまえばいいのにな。」

「ああ、なんせあいつの餌は人間の悲しみや苦痛って話だ。人前に出て、そいつの親しい人が死んだときの苦痛や悲しみを喰ってんだろう。そりゃ死んでも人前にでるしかないさ。」

「それはそれは。命懸けて飯探してんなら、坊ちゃんらやお偉いさんよりご立派じゃねぇの。」

男はケッと吐き捨てるように言う。


「お偉いさん、ね。そういえば、そのお偉いさんが討伐隊が何年経っても成果が得られないって怒って白銀の王騎士達を呼び寄せたらしいぞ。」

「はぁ?うちの領主様に、んな権力ねぇだろ。阿呆みてぇな話だな。どこ出だ?」

「警備隊が話してたことを直聞き。あいつら、でかい声で話してたぜ。なんとも、王国の方に"そちらに脅威が行かないためにも、こちらで処理を致します。どうかお力添えを"って伝えたんだとよ。」

あまりにもな内容に、男は唖然とする。

「そこまでヤバいやつなのか、あのチビは。」

「さあ…でもま、王国が動くってなるってことは、そういうことだろうな。見ただけで周りの人間が死んでいくんだ。そんな強力な魔族が人間界の、王国に近い街に野放しになってんのがやばいんだろう。それに言うなら、もう既に白銀の王騎士たちは到着してる。さっき白い鎧を着た数人とすれ違ったし、領主様の家あたりが騒がしかったからな。気づかなかったか?」

「まっっったく!そうか、じゃあもう討伐隊も今日で解散ってこったな。やったぜ!これでやっと解放されるのか。ああ、今日はめでてぇ日だ。飲むぞ!!!」

「そうだな。明日にはもう、討伐されてるだろうし。今日くらいはたらふく飲むか。」

「そうこなくっちゃ!おい、ねぇちゃん!こっちに酒を追加でもってきてくれ!!」

男は、店に入ってきた時とは変わり、上機嫌で店員に声をかけた。


「それにしても、バーゲストが線超えて来るなんてな。向こうで倒す分にはそれほど支障もないが、こちらにこられたらこんなにも面倒な相手になるとは思わなかった。」

「そうだなぁ。ま、なかなかないことだし、今回は不運だったっつーことで。ほら、んなことより乾杯すんぞ!乾杯!」

「ああ、乾杯。」


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