第12話 名付け

「黒、夜…ノクス、いや、月でルナ…いや、だめだな…」

名付けはとても重要なものだと思いながらも、自分のセンスの無さに頭を抱えた。

さすがに、黒だからってブラックだったり夜でナイトだったりを付けるわけにはいかんことは分かっている。

こんなことになるなら、もっと向こうで単語を勉強しとくんだった。


「フェンリル…あ、」

そうして自分のない引き出しを引っ掻き回して思い出したのが、たしかフェンリルは別名にフローズヴィトニルという名前があったはず、ということである。北欧神話やギリシャ神話など神話系の話はまったく興味がないので知らないことの方が多いが、フェンリルについては読んでいた小説の中で何度か語られていたため覚えていたのだ。


「そうだな、お前の名前はヴィト、なんてどうだ。」

フローズヴィトニルから取ってヴィト、ということである。

我ながら単純ではあるが、かっこいい名前じゃないか?

「ヴィト…」

子犬は耳をぴくぴくとせわしなく動かし始めた。

「ヴィト、ヴィト、ヴィト…!ぼく、ヴィト!うれしい、うれしい!ありがとうマサヨシ!」

何度も自分の名前を呟き、耳と尻尾をピンと上に伸ばして喜ぶ。思わず頭を撫でてしまう。


「ああ、気に入ってくれてよかった。ヴィト、これからよろしくな。」

「うん、マサヨシ、よろしくね!」

ヴィトが嬉しそうにキャン、と鳴いた途端、頭を撫でている手が熱くなりヴィトの額に何かの紋章が浮かび上がって消えた。

吃驚したが、ヴィトは特に気にした様子もなく、むしろ先ほどよりも嬉しそうにお尻が揺れる勢いで尻尾を振っていた。


「ヴィ、ヴィト。おでこ痛くなかったか?何かが光って消えたけど…」

「うん!いたくない。これ、けいやく!マサヨシとけいやくできたの、うれしい!」

「契約、か。名付けて人間のMPを送れば成立ってことか。」

「んとね、なまえ、つけて、ふたりともいいよってなって、まりょくこうかんしたら、けいやくになる!」

「なるほど。両方が納得しないと成立しないし、あとは魔力の交換が必要なのか。さっき俺の手が熱くなったのは俺の魔力とヴィトの魔力が流れたからってことだな。」

「ん!」

「ヴィトは物知りだな。ありがとう、よくわかったよ。」

再度頭を撫でながらお礼を伝える。ヴィトは嬉しそうに目を細めながら撫でられている。かわいい。

ああ、こんなに可愛くてモフモフしてて可愛くて物知りで良い子なモフモフの仲間ができたなんて、ツイてたなぁ。


「よし、じゃあ後回しにしていたヴィトのステータスを伝えようか。」

出しっぱなしだったヴィトのステータスを読み上げる。


――――ステータス――――


【 名前 】ヴィト

【 種族 】フェンリル(亜種)

【 年齢 】134歳

【 Lv. 】3

【 HP 】105/105

【 MP 】342/342

【 能力スキル 】風魔法Lv.3 火魔法Lv.1 闇魔法Lv.1 空間ボックスLv.2 感知Lv.3 自己治癒Lv.8

【 異能ユニーク 】番犬 変容自在

【 契約 】マサヨシ・タチバナ


―――――――――――――


先ほどとは変わり、名前と契約の欄が増えている。俺のステータスにも記載が増えているだろう。


「番犬というのは、何かを守ろうとするとステータスが2倍になるスキルで、変容自在というのは大きさや年齢を変化させるスキルらしい。ただし、変容自在で大きくなっても、ステータスは変わらないところが注意点だな。」

「ぼく、かぜまほうと、ちゆ?はしってたけど、ほかはしらなかった。」

「そうか。いっぱいスキルがあって吃驚したか?」

にやりと笑ってみせると、ヴィトはコクコクと頷いたが「たくさん、うれしい。でもぼく、つかえるかな。」と不安そうに呟いた。


「最初から上手く使えることなんてほとんどない。俺もスキル練習はこれからだし、一緒に頑張っていこうな。」

「マサヨシといっしょ、がんばる…!」

「スキルを忘れたら言ってくれればまた伝えるから。

よし、じゃあ腹ごしらえも契約も終わったし、そろそろ川探すか。もしくは人里を探した方がいいか?今は…夕方よりは少し前だが、夜の森っていうのは危ないってのが定石だからな。ヴィトはどうしたい?」

ヴィトに声をかけながら立ち上がり、背伸びをする。


「このもり、つよいまぞく、もっとおくにいる。でもこのあたりは、つよいのいないよ。よるもあんぜん。だけど、かわはもっとおくにいかなきゃない。」

「ふむ。じゃあヴィトの体洗うなら、今の俺たちなら人里に向かった方がいいかもしれないな。」

「うん…」

少し俯き返事をするヴィト。

「ん、どうしたんだ?」

ヴィトの前にしゃがみ、片膝をつきながら問う。まぁ想像は出来るが、ヴィトのタイミングで教えてほしいことだからな。無理強いはしたくない。


「あ、あのね」

意を決したのか、ヴィトは顔を上げ俺にまっすぐと視線を向けて口を開いた。


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