人が消えた街5
ドドド低いエンジン音を響かせ工業地区を離れて行く奇妙な乗り物があります。
その乗り物は装輪装甲車の天井をとっぱらい、後方には手作り感あふれるステキな荷台がついた、たいへん不格好で、奇妙な物でした。
運転席にはボサボサ金髪で全身汚れたかなり若くみえる人間の姿が、荷台にはボサボサの黒髪で幼く見える女の子が乗っているようです。
「くさーい、きたなーい、ベタベタするー」
「多分もうすぐで着くから我慢しな」
「ほんとにしゃわーなんてつかえるの?」
「さっきの一件で分かったけど、どうやら私たちはお客様扱いらしい」
「つまり?」
「観光客エリアのホテルが使えるかも」
「つまり!?」
「暖かいお風呂と、ふかふかのベッドが私たちを待っている!!」
「いやっほーい!!」
「でも期待しすぎるのも良くないけどね」
「つまり?」
「肩透かしを食らうかもってはなし」
「…つまり?」
「さっきの一件でこの街のブラックリストに載ったかも」
「そりゃないよ…」
何事にも一喜一憂する楽しそうな会話が聞こえてきます。
30分ほどかけ商業地区を抜けたときには、二人も疲れてきたのか会話もなく奇妙な乗り物はフラフラとおぼつかない足取りで、営業しているホテルを探しています。
観光エリアは特に面白そうなものもなく、小さな博物館や歴史的建造物とやらが土産物屋に挟まれて寂しそうにお客さんを待っているように見えます。
肝心の唯一の観光客である二人は、工業地区で得た疲労とちょうど良い満腹感から眠気のピークに達していたようで、お目当てのホテル以外には一切の興味を失っていました。
「もう無理、限界。ちょっと寝ていい?」
「・・・」
運転していた金髪の人間が声もかけるも、荷台からはかすかな寝息が聞こえるだけでした。
「じゃあ、私も」
そう言って運転席から荷台に移ると、黒髪の女の子と向かい合って寝息を立て始めました。
過去には観光客であふれたであろう真昼の大通には、奇妙な乗り物が停まっています。荷台には寝息を立てる二人。静かで、誰のためでもない時間がゆっくりと過ぎていきました。
「んあっ?…Oh...」
ビクッと体震わせ金髪の人間が目を覚まし、をあたりを確認すると日はもうとっくに暮れた後でした。大通りは街灯や土産屋からこぼれる照明のあかりでオレンジ色に照らされています。
ぼーっとしていた金髪の人間は、我に返ったように自分の頬をぺしっと叩き、隣の女の子を起こし始めました。
「ソラ、ソラ!」
「ん~、おはようレナ…おぅ...」
ソラと呼ばれた黒髪の女の子は、ゆっくりと目を覚ますとあたりをぼーっと見まわしています。
レナと呼ばれた金髪の人間は運転席に移動しながら、「出発するよ」と声を掛けました。荷台のソラから「ん~」と言う返事っぽいものが返ってきたので、エンジンをかけ、ハンドルを握ると奇妙な乗り物はゆっくりと大通りを進み始めました。
数分後、探していたホテルはすぐに見つかりました。
一見、二階建てのアパートにも見えるそれでしたが、入り口には『Hotel』とはっきり書かれていました。
レナは、奇妙な乗り物を入り口に横付けし、今晩泊まれそうか確認しに行きました。
「…お」
ホテルの扉越しに大きくokサインをレナを見て、ソラもホテルに入っていきます。
「部屋、空いてるってさ。シャワーにベッド、クリーニング付きで、しかも無料!」
「ほんと!!」
それを聞いたソラは嬉しそうにホテルを出て、荷台から溜まっていた洗濯物を持ってきました。
ソラがホテルに戻ると二人は、渡されたキーに書かれた部屋に向かいました。部屋の中は、ツインベッド一つにバスルームと、シンプルな造りでしたが綺麗に掃除されており、本当にタダなのかと疑うほどです。
部屋に入るなり二人は、こってりと汚れた衣服を脱ぎ捨てバスルームへ急ぎます。
-----------------割愛-----------------
体にこべりついた汚れを落とし、身も心もスッキリした二人は、汚れた衣服をクリーニングに出すと、夕食にするようです。
「けっきょく、これなんだね」
「考えてみなよ、こんなきれいな部屋で食べるレーションなんて人生差後かもよ」
「なるほど、そういわれるとおいしい」
「状況に合わせて自分を騙すのも長生きの秘訣だよ」
「レナのほうがいっぽんおおいのも?」
「そゆこと」
レナよりも一本分早く食べ終わったソラは、スッと立ち上がるとベッドに向かって猛ダッシュ、からのダイビング。ふかふかのベッドは小さなソラの体を優しく受け止めました。
「あ、私もやりたかったのに!」
「じょうきょうにあわせて、なんとやらだよ」
「なるほど、そういう事にしとくよ」
シッシと手を振るレナにウインクすると、ソラはまどろみの底に落ちていきました。
翌朝、ソラが目を覚ますと、クリーニングに出した衣服がきれいになってが部屋の隅に置かれていました。
「おはよ」
声の方を振り向くと、バスルームから出てきたレナの姿がありました。
「きょうは、はやおきだね」
「あったかいシャワーなんて、次いつ浴びれるかわからないからね」
「よくばりさんだね」
「そうだ、今朝のレーションは、一本おまけしてあげる」
「ほんと!いえーい」
「欲張りさんだね」
朝食のレーションを食べ終えた二人は、荷物をまとめてホテルを後にしました。
観光エリアの大通りを真っ直ぐ行くと、街と外の世界をつなぐ大きなアーチ状の門が見えてきます。
その手前には観光客向けの燃料ステーションがありました。大通りに面した電光掲示板には燃料の種類と値段が書かれていましたが、すべて無料と表示されていたので、本体と予備のドラム缶にいっぱいになるまで補充しました。
「この街は楽しかった?」
「わかんない、でもやさしかったね」
「次に街もこんな感じだと助かるんだけどな」
「へんなまちでも、じょうきょうにあわせて、なんとやらだよ」
「それ、気に入ったの?」
何気ない会話をする二人を乗せた奇妙な乗り物は、大きな門をくぐると新たな旅路へ進み始めました。
system down...『止まった世界の小さな旅』 チビスケ @tibisuke0126
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