無用の傘
西野ゆう
第1話 傘に守られたくない
「私たちには使命があります」
二〇二一年八月六日。広島市。
二人の小学生が、その言葉から語り始めた。
「本当の別れは会えなくなることではなく、忘れてしまうこと」
惨禍、いや、戦禍を忘れてはならない。無論、我々の多くは忘れる以前に知らない。
それでもその小学生は力強く語った。
忘れてはならない。
繰り返してはならない。
なぜ我々は核の傘に守られなければならないのか。
なぜ唯一惨劇を身をもって経験した者が、それを盾に平和を維持できようか。
私は傘を持たない。持たせないと誓った。
あの日、子供たちに。自分自身に。
傘の外に出て、世界の仲間に入る。
単純な話だ。
傘を持ちたくないのであれば、国を捨てろと言う者もいるかもしれない。
だが、それでは意味はないだろう。私は、私ひとりが平和でいたいわけではないのだから。
核兵器禁止条約の会議の場にすら出席しないこの国を、私は見捨てたりしない。見放したりしない。
この国にいて、この国を見つめて、傘を捨てさせてみせる。
子供たちも諦めていないのだ。
誰もが幸せに暮らせる世の中にすることを、彼らは絶対に諦めたくないと語った。世界に向けて。あの日のあの時間に。
我々にも平和は作れる。そう信じることを、諦めたくはない。
無用の傘 西野ゆう @ukizm
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