第27話 妙な貼り紙
マルスは冒険者ギルドへと向かった。昨日の夜の話で”一人旅は危険だ”と二人の意見は一致している。しかし、冒険者ギルドの掲示板で仲間を募集することにマルスは抵抗感があった。
マルスは目的地に向かって進まなくてはならないのだ。パーティーを組めば、仲間をそちらへ誘導する必要がある。それに最後はパーティーから離脱することになるのだ。そのことが、どうしても無責任のようにマルスは感じてしまうのだ。
『マルス、初カキコはしないのか?』
「しないよ。エクスの言うことはもっともだと思う。でも、まだ割り切れないよ」
『そうか。それじゃ、地道に護衛依頼を探すしかないな。少しでもマルスの国へと近づく依頼を探そうぜ』
二人は前回と同じように、護衛依頼をしながら先へ進むことにした。
この方法の欠点は進むのに時間が非常にかかるということである。そう都合良く、アレクシア王国方面へと向かう護衛依頼があるはずもなく、一人で進むよりもはるかに遅い。
しかし人数が多いので道中の安全性は高まる。だれかに犯行現場を見られるのを嫌う闇ギルドが手を出しにくくなることは間違いなかった。
その後、マルスは護衛依頼をいくつもこなしながら、何日もかけてジワリジワリとアレクシア王国へと近づいていた。その途中、冒険者ギルドで妙な貼り紙を二人は見つけた。
貼り紙には”アレクシア王国のマルス王子を見つけ次第、保護するように”と書かれており、その特徴として、”金色の髪に金色の瞳、年齢は十歳”と記されていた。
「エクス、どう思う?」
冒険者ギルドに併設された酒場で昼食を食べながら小さな声で尋ねる。周囲には冒険者らしき人たちがまばらにいるが、マルスの声は聞こえていないようだった。
『怪しいな』
「やっぱりそう思う? タラント王国とカーマンド王国は中立関係にあるからね。ボクを捕まえてタラント王国へ引き渡すことも十分にあると思う」
『カーマンド王国にとってはどんな利益があるんだろうな?』
「やっぱりお金じゃないかな。あとはカーマンド王国へ逃げて来た人たちをタラント王国に引き取らせるとか?」
『ああ、困ってそうだったもんな』
二人はタラント王国から逃げて来た人たちのことを思い出した。町の外に粗末なテントを立て、うつろな目をしていた。町の住人との争いは絶えないだろう。そのうち彼らの安全性は確保されなくなるかも知れない。
「髪と目の色を変えておいて正解だったね」
『そうだな。その二つが特徴としては一番分かりやすいからな』
マルスはカーマンド王国に名乗り出ることなく、そのまま先へと進んだ。そしてついに、国境近くでは一番大きな街にたどり着いた。アレクシア王国まではあと一息である。
だがしかし、冒険者ギルドに数日間張り付いていたにもかかわらず、アレクシア王国行きの護衛依頼は見つからなかった。
『どうするんだ? これは俺の勘なんだがいつまで待っても俺たちが望む依頼が張り出されない気がする』
「やっぱりそう思う? この辺りは国境に近いからね。もしかすると、街道を見回る衛兵の数が多いのかも知れない」
『なるほど。それなら盗賊も身動きが取れないな。この辺りの魔物も大したことないらしいからな』
「そうだね。だから護衛の人数も最小限ですむ。追加で冒険者を雇う程ではないか」
冒険者ギルドで話を聞いた限りでは、この辺りに生息しているのはゴブリンやオオカミ、ビッグラビットなどの弱い魔物ばかりだった。そのため、アレクシア王国へ向かう隊商は自前の護衛団で十分だったのだ。
『それじゃ、ここから先は一人で進むしかないな。あといくつか、町や村を越えるだけなんだろう?』
「そうだね。ここまで一度もだれかが跡をつけてきているような反応もなかったし、たぶん大丈夫だと思う。もちろん警戒はしておくけどね」
『闇ギルドの連中もさすがにあきらめたかな?』
「そうだと良いんだけど」
街を出るとアレクシア王国方面へとまっすぐに向かった。クイックを使っているため、その進む速度は速い。町や村を経由すれば野営する必要もなく安全性も確保される。
そう思って次の村を目指して進んでいると、マルスのレーダーに反応があった。それも一つではない。複数だ。今向かっている村の方角である。
「お祭りでもあってるのかな?」
『どうしたマルス。何かあったのか?』
「これから向かう村にたくさんの反応があるんだ。村人にしては多いような気がするんだけど……それに村のすぐ近くの森にも同じような反応がたくさんある」
『あー、なるほど? もしかして、村がゴブリンにでも襲われているのか?』
「大変だ!」
マルスは速度を上げて村へと急いだ。村からは煙がいくつも上がっている。異常事態になっているのは明らかだった。近づくに連れていくつもの悲鳴が聞こえてくる。エクスが言ったように、村はゴブリンの集団に襲われていた。
速度を緩めることなくマルスが村の中へと走り込んだ。そのまま水が流れるかのように、すれ違いざまにゴブリンを次々と倒していった。ゴブリンを斬るのは初めてだったが、特に忌避感はない。それよりも村人たちの方が気にかかる。マルスの速度がさらに上がった。
ほどなくして、村を襲撃していたゴブリンたちは一人残らずマルスによって討ち取られていた。今は負傷者の手当中である。次々と負傷者が村の中央広場に集められていた。さいわいなことに死者はまだ出ていないようである。
『マルス、大丈夫か? 魔物と言えども、ゴブリンは二足歩行で人間に近い形をしているからな。気分が悪くなったりしてないか?』
「大丈夫だよ。それよりも、みんなの傷を治す魔法を教えて欲しい。この前教えてもらったエクストラヒールは回復力はすごいけど目立つみたいだからね。ここまで来て騒がれたくない」
『オーケー、それじゃ、ヒールとスプレッドヒールだな。こんな感じかな』
「ちょっとした傷の回復と、一定範囲内を回復する魔法だね。……大丈夫だよね?」
『この二つの魔法に聞き覚えは?』
「ヒールは聞いたことがある。でもスプレッドヒールは初めて聞く」
二人の間に沈黙が落ちた。しかしそれは子供の大きな泣き声によってすぐに妨げられる。マルスは急いで鳴き声のする方へと向かった。
子供の近くではその子の母親が倒れていた。意識はすでに混濁している。マルスは急いでエクストラヒールを使って治療を行った。母親はすぐに健やかな呼吸になった。
「冒険者様、どうか他の村人たちも助けていただけませんか?」
マルスが回復魔法を使ったことに気がついたのか、村の村長らしき人物がすがりつく。もとよりそのつもりなので二つ返事で引き受けた。動けない人もいるため、マルスが広場を回ることにした。
広場にはかなりの人数が横たわっている。先ほどの母親のように危険な状態の人がいるかも知れない。気が気でなくなったマルスはスプレッドヒールを使うことにした。目立つ可能性は大いにあるが、手遅れになるよりかはずっと良い。
「スプレッドヒール」
広場の中央から村の外へ向かって、柔らかな暖かい風が吹いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。