第27話 BANされちゃう!?

 最初はちょっとしたバイトのつもりだったのだが、気が付けば十一万人の人気チャンネルになってしまった。


 応援してくれるのは嬉しいけれど、二人が仁に対して申し訳なく思うように、仁もただ美味しいご飯を食べているだけでこんなに沢山お金を貰ったら申し訳ないと思っていた。


『そう思うなら、仁なりのやり方でお返しをしたらいい。活動に使って応援してくれる人に還元してもいいし、応援を必要としている別の誰かを今度は仁が応援してあげてもいい。なんにしても、前向きに頑張りなさい』


 父の言葉になるほどなと仁は思った。


 プロレスラーとして活躍し、母親と一緒に色んな動画を撮ってファンを楽しませている父の言葉だ。


 プロレスラーとしての自分があるのは、色んな人の応援があったからだと父は言う。


 だから、貰った応援を独り占めにしてはいけない。


 応援して貰ったら、それ以上にして他の人に渡すんだ。


 そうすれば、今度はその人が他の人を応援して、みんな幸せになる。


 平和主義の仁だから、父のようなプロレスラーを目指すは気はない。


 けれど、その生き様には憧れていた。


 それで仁は考えた。


 身に余る応援を、自分はどうやって返すべきだろう。


 誰に渡すべきだろう。


 仁は食べる事が大好きだ。


 食べる事で応援して貰い、お金を貰っている。


 なら、美味しいご飯を作ってくれるご飯屋さんを応援しないと嘘だろう。


 世の中には、美味しいのに知名度がなくて潰れてしまうお店が沢山ある。


 いくらお金が沢山あっても、潰れてしまったお店の料理は食べられない。


 美味しいお店を応援する事は、巡り巡って自分の為にもなる。


 けれど、活動していく内に、それだけでは足りないと思うようになってきた。


 その土地が寂れていたら、いくらお店を宣伝しても効果は薄い。


 お店だけじゃなく、その土地に行きたくなるような動画を撮れないだろうか。


 ご飯屋さんだけじゃない。


 農家の人も応援したい。


 例えば豊作である作物が余ってしまったとする。


 折角美味しく育ててくれたのに、売れなければゴミになるだけだ。


 そんなの勿体ない。


 悲しい。


 申し訳ない。


 その食材を使った料理動画を撮れたなら、少しは応援出来るかもしれない。


 実際、そういうオファーが来た事もある。


 他にも、調理器具やアウトドア用品の案件なども。


 キャンプが流行れば地方に旅行する人が増えて、生き帰りで外食する人が増えるかもしれない。


 けれど、小学五年生の妹と二人だけでは出来る事に限度がある。


 両親は自分達のチャンネルの活動で忙しい。


 お願いすればいつでも快く力を貸してくれるが、家族だからと言って甘えたくはなかった。


 自分達ではじめた自分達のチャンネルなのだから、出来る所は自分達でやっていきたい。


 視聴者から寄せられる膨大なグルメ情報の選別、企画立案や撮影のアポ、その他諸々のやり取りで、仁も結構忙しかった。


 妹は母親に憧れていて、動画の撮影や編集を喜んでやってくれている。


 そうは言っても、双葉だって遊びたい盛りだ。


 学校の宿題もあるし、普通にだらだらしたい時もある。


 撮影時間が延びればその分編集も大変になるので、手間のかかる企画は控えていた。


 けれど、二人が手伝ってくれると言うのなら、活動の幅が一気に広がる。


 ちょっと見学のつもりで同行して貰ったら、思っていた以上に二人とも乗り気で真剣だった。


 しかも活動費の事で気を使ってバイトまで始めていた。


 真面目な子なんだと仁は感心した。


 いつも一緒にお昼を食べていて、二人の人柄は知っているつもりだ。


 綺麗で可愛くて、食べる事と食べさせる事が大好きな、仲良しの胡桃と凛である。


 人見知りの双葉がすぐに懐くくらい良い子なのだ。


 自分なんかの手伝いをして貰うのは申し訳ないと思いつつ、二人がやりたいと言うのなら断る理由はない。


 折角だから、二人を生かせる企画にしよう。


 そんな事を色々思って出した答えが、キャンプ動画の撮影だった。

 

 †


 週末に行くキャンプ場は川遊びも出来るらしい。


 キャンプ場の宣伝もしたいので仁は川に入るようだ。


『二人は無理しなくていいからね。水着は僕と双葉だけでも大丈夫だから』


 仁は気を使ってくれたが、胡桃としては願ったりだ。


 仁だって男の子だ。


 学校一の美少女のナイスバディな水着姿をお見せしたら、ちょっとくらいは好きになってくれるかもしれない。


 そうでなくとも、水着になれば大食いでない自分でももぐもぐチャンネルに貢献できるだろう。


 だから二つ返事で了承した。


 みんなでキャンプで水遊びというのも普通に楽しそうだ。


 しかもお金は全部経費だ。


 勿論お仕事、その分キッチリ貢献しないと!


 そう思いつつ、やっぱりデートみたいだとウキウキしてしまう。


 そこで胡桃はふと思った。


 凛も水着で来るのだが、あの子はまともな水着を持っているのだろうか?


 柳津高校には水泳の授業がない。


 あったとしても、凛のような美人がスク水なんて論外だ。


 マニアック過ぎてチャンネルがBANになるかもしれない。


 それ以前に、ガリ勉で陰キャの凛に水着を買う機会があったとは思えない。


 不安になって聞いてみたら、凛は律義に水着姿の画像を送ってきた。


『……これしか持ってないんですけど、ダメでしょうか?』

『絶対ダメ! そんな水着で動画に出たら百パーチャンネルBANされちゃうよ!?』


 案の定、凛の水着はスク水だった。


 しかも、中学生の頃の物だろう。


 それでいいと本気で思ったの!? と今すぐ家に乗り込んでハリセンでツッコミを入れたくなるくらい全てがピチピチのパツパツだった。


 下手したら、動いた拍子に破けるかもしれない。


『そ、それは困ります!? うぅ……その、胡桃さん……。お願いがあるのですが……』

『はいはい。あたしも水着新調したいし、明日の放課後付き合ってあげるから』

『嬉しいです! ありがとうございます! 胡桃さん、大好きです!』


 もう! 恋敵にモテたって嬉しくないから!


 そう思いつつ、素直になついてくれる凛が可愛くて、まんざらでもない胡桃だった。

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