第20話 どういう関係?

「そ、それでは、行ってまいります!」

「自然体で大丈夫だよ」

「胡桃ねぇね! 行ってらっしゃい!」

「胡桃さん、頑張ってくださいね!」


 三人の声援を受けて胡桃は立ち上がった。


 撮影に使っているのは本格的な業務用のビデオカメラだ。


 大食いチャレンジの時は三脚を使って撮っていたが、インタビューは手持ちになる。


 双葉には重いので、普段は仁がカメラマンに変わって、双葉がインタビュアーをやっているらしい。


 今回は胡桃が両方兼任する。


 使い方はしっかり習った。


 とは言え、ピントはオートフォーカスだし、手振れ補正機能もついている。


 録音ボタンさえ押し忘れなければ、ほとんど触れるような所はない。


 それよりも、上手くインタビュー出来るかの方が心配だ。


 学校一の美少女なんて呼ばれてはいるが、胡桃は可愛いだけの普通の女の子だ。


 部活だって入ってないし、インタビューの経験なんか全くない。


 でも、そんな事は言い訳にならない。


 だって、十万人も登録者のいるチャンネルなのだ。


 仁は自然体でいいと言っていたが、自分のせいで再生数が減ったりしたら大問題だ。


 今後もアシスタントとして使って貰えるように、出来る女な所をアピールしないと!


 意気込んで、胡桃はくるりとUターンした。


「それではまずは仁君! 本日のチャレンジの感想はいかがですか?」


 僕は撮らなくて大丈夫だよ?


 そう言ってクスクス笑いながら、仁はオホンとチャンピオンぶって話し出した。


「そうですね。今回の挑戦者もとっても美味しくて、危うく頬っぺたが落ちるかと思いました」


 神妙な顔で言うので、胡桃は思わず笑ってしまいそうになった。


「胡桃ねぇね! 双葉も! 双葉もインタビューされたい!」


 普段は裏方の双葉だ。


 小学五年生だし、こういうのが好きな年頃なのだろう。


「では双葉さん! 色々食べていますが、どれが一番のお気に入りですか?」

「えっと……。えっと……。猫熊ラーメンも美味しかったし、サービスの餃子も美味しかったし、酢豚も美味しかったし、エビチリも麻婆も美味しかったし……。ねぇにぃちゃん! どうしよう!?」


 一つずつ指を折ると、困った顔で隣を見る。


「全部美味しかったなら全部でいいんじゃない?」

「そっか! 全部です!」


 ブイ! と元気にブイサインを掲げて、百万点の笑みを向けて来る。


「では次は凛さん! 初登場ですが、仁君との御関係は!」

「えぇ!? わ、私は大丈夫ですから!?」


 幸せそうに春巻きを頬張っていた凛がびっくりして顔を隠す。


「いいからいいから! 視聴者さんに説明しないと!」

「え、えっと、その、仁君とはクラスメイトで、ただのお友達です。ほ、本日はその、お、お手伝いのつもりで来たのですが……。特にやる事がないので、食べる係などを……」


 そこで胡桃はカメラを自分に向けた。


「同じく、学校の友達二号です! 恥ずかしながら、先にお腹いっぱいになってしまったので、双葉ちゃんに変わってインタビュアーに抜擢されました! 双葉ちゃんのファンの皆さん、ごめんなさい!」


 ファンサービスのつもりで双葉にカメラを向ける。


「しちょーしゃの皆さん。胡桃ねぇねはお兄ちゃんのお友達なので怒らないであげてください」


 ぺこりと頭を下げる。


 狙ったわけではないだろうが、完璧な返しに感心してしまった。


 仁といい双葉といい、細田家には天使の血でも流れているのだろうか。


「と、肩慣らしはこんな感じで。ダメだったら切っちゃって大丈夫だからね?」


 左手をチョキチョキしながら胡桃が言う。


 言うまでもなく、不要な所は編集で切るだろうが。


「ううん。たまにはこういうのも面白いと思うよ。ねぇ、双葉」

「うん! 双葉もインタビューされたかったから! カットなんかしないよ!」

「わ、私はカットでもいいんですけど……」

「えー! 凛ねぇねも一緒に映ろうよ~!」

「ふ、双葉さんがそう言うなら……」

「無理しなくていいからね」


 そんなやり取りをする三人を尻目に、今度こそ意気込んで胡桃は食事中の皆さんや店員さんに突撃した。


「本日はどちらから!」

「○○県からです。運よく出張と重なったので」


「熊猫ラーメンの感想は!」

「担々麺って辛いイメージがあって苦手だったんだけど、ここのはクリーミィーで食べやすいね」


「こちらで働いてどれくらいですか?」

「十年ですかね。実家なもんで」


「猫熊飯店の名前の由来を教えて頂いても!」

「……かあちゃんにプロポーズしたのが〇〇動物園のパンダの檻の前だったんでぇ」


「猫熊飯店に来るのは初めてですか?」

「そうなのよ。近所に住んでるのに入った事なくて。こんなに美味しいんならもっと早く来ればよかったわ! すみませんけど、こっちもライス下さいな!」


「どれくらい並んでるんですか?」

「三十分くらい? なんかすごい盛り上がってるけど、なかでお祭りでもやってんの?」


「沢山食べてますね。一番のお気に入りはありますか?」

「あなた仁君とどういう関係?」


 聞き返されて言葉に詰まった。


 相手は例の、仁の顔写真入りの団扇を振っていた美人のお姉さんである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る