第37話

 車窓の景色が滑るように過ぎ去っていく。オレはリオと一緒に路面電車に乗っている。

 どこに行くのか、何をしに行くのか、聞いてもリオは教えてくれない。

 ガラガラの車内で並んで座ると、すぐにリオはオレの肩に頭をもたせかけた。


「重い」


 オレがそう言うと、リオは小さく鼻で笑った。


「嬉しい癖に」


 いつもとは違うリオの雰囲気と言葉に顔を顰めていると、リオは「パブロは畑で何を育ててるんだっけ?」と訊いてきた。


 オレは思わず吹き出す。


「何言ってんだよ。お前が言い出したんだろう? 苺がいいって」


「苺か、そうだ、そうだったね」


 オレの肩に頭を預けたまま、リオは大人びた口調でそう言った。何故だか、急にリオを遠くに感じた。


「忘れるなよ、実がなったら一緒に食うんだから」


 リオは答えない。見ると目を閉じて静かに息をしている。


「寝るなよ。オレ、どこに行くか訊いてないんだから」


「素晴らしい場所だよ」


 目を閉じたままリオが呟く。囁くようなその声は、瞼の裏にその場所が浮かんでいるかのように核心に満ちていた。


「それってどこだよ」


「誰しも、1度は訪れる場所」


 そう言ってから、リオは吹き出した。


「僕はもう何度も行ってるけどね」


 目を細め、口の端をつり上げて、リオは笑う。リオのそんな笑い方を、オレは初めて見た。


 ガタンと電車が揺れて、窓の外に目をやる。車窓には見慣れた景色。オレたちの学び舎が小さく見えていた。

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