第21話

 次の週末、リオはキルヒナーの家には行かなかった。

 ガブリエレから、キルヒナーにはリオが必要だと言われていたけれど、心が自分にないと分かっているのに、どんな顔をして会えばいいのか、リオにはわからなかったからだ。

 会えば惨めったらしいことを口にしてしまいそうで、辛い思いをするのが目に見えているのだから会いたくない、というのが本音だ。


 そんな訳で、日曜は暇を潰すため、リオは学園の図書室に行くことにした。学園の校庭と図書室は休みの日でも生徒に解放されている。

 例によってパブロは畑の世話に忙しいので、リオは1人で学園に向かう。


 休みの日だから私服でも構わないとは思うが、律儀なリオは一応、制服に着替えて寮を出た。学園の敷地に入る時は制服でなくてはならないような気がするのは、理解ができる。


 門を潜り、古びた校舎を見上げる。全くと言っていいほど人気がない。

 教室棟の玄関で、リオはブーツから上履きに履き替えて、管理棟1階の図書室に向かう。


 学園にあるものの中で、リオは図書室が1番好きだった。今は失われたものたちが紙の中で、時には力強く、時には詩的に、時には艶やかに、確かに生きていたことを教えてくれる。


 人類はあまりに多くのものを失った。それでも人類が存在し続けるのは、技術の発展や、科学の進歩の結果なのだろう。だけど、それは、僕には執念のように思えてならない。

 昔、多くの動植物が消えていった時、人類も一緒に滅ぶべきだったんじゃないか。


 生まれてからこれまで、1度も本物を見たことがない海の写真を見ながら、リオは感傷的な気分になっていた。


 その昔、生命は海から発生したという。なのに、人類の根源とも言える海は今、どこにあるのだろうか。

 この町に海はない。

 海も人類が失ったものの1つなのかも知れない。


 或いは、この町のずっと遠くまで行けば、どこかに海があるのだろうか。僕達が立ち入れない、どこかずっと遠くに――例えば、立ち入り禁止になっている『ヒュラースの丘』の向こうに。

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