第16話
「キルヒナーとケンカした」
昼過ぎにガブリエレの家の裏にある小さな畑に行って、リオが開口一番そう言ったところ、苺の苗に水をやっていたパブロはわざわざ手を止めて盛大に笑った。笑いすぎてジョウロから水が、ぼったぼったと零れている。
「本当に? そりゃ良いね」
「良くないよ……もう本当に婚約破棄されるよ、これ」
今更、ことの重大さを思い知って、リオはその場に蹲った。
「何であんなこと言っちゃったんだろう……」
さくさくと足音がして、パブロがリオの目の前で屈んだ。2人の間には畑を区切る針金がある。パブロはその細い針金を掴んだ。ジョウロは畑に置き去りだ。
「何言ったか知らないけどさ、言っちゃったもんは仕方ないじゃん」
「そんな風には考えられない」
「ふふっ」
パブロはまた笑う。
友達がこんなに思い悩んでるっていうのに、その姿を笑うなんて酷い奴だーー
「パブロにはわかんないよ。ガブリエレと上手くいってるパブロにはさ」
不貞腐れて言うと、雑に張り巡らされた針金の間からパブロの手が出てきて、リオの頬をぴしゃりと両手で叩くように挟んだ。パブロの手に嵌められた軍手から土の匂いがする。
「……痛いよ」
「お仕置きだ。そんな風に思い悩んでるのが、自分だけだと思うなよ」
「それって……パブロもガブリエレと上手くいってないってこと?」
「そうは言ってないだろ」
パブロはリオの頬から手を離して、また水遣りに戻った。
「じゃあ、どういう意味?」
「教えなーい」
そう言って、おどけて振り返ったパブロは、悩みなんてなさそうな、とびきりの笑顔をリオに見せたのだった。
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